お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

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幼少期

可愛い天使たちとご対面

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 バーバリー伯爵夫人のマナー講座が開始してから、妙な連帯感が生まれた。
 相変わらずアルベルトは馬鹿だが、私に対する態度も軟化しつつある。
 夫人の殺人光線を前に立ち向かえる勇者は居ないと思う。
 アングロサクソン家に来て半年、アルベルトの躾も最終段階に突入した。
 生まれた弟に対し敵愾心を抱かないようにするために、嫌だけど…物凄く嫌だけど、断腸の思いで私の可愛い天使たちに会わせることにした。
 第二王子の名前は、ユスティーツィアと命名されたと父から手紙を貰った。
 意味は、正義だって。
 ジャスティスってつけてたら人目もはばからず爆笑しただろう。
 アルベルトの勉強の進捗を定期報告すると、最終段階がクリア出来たら王都への帰還が下りると返信があり、アルベルトだけ送り返したらダメかなと心底思った。
 午後の勉強もひと段落つき、私はアルベルトに向かって言った。
「殿下、宜しければわたくしの天使たちに会ってみませんか?」
「随分と唐突だな。弟妹のことを天使とかよく恥ずかしげもなく言える」
 サラッと暴言を吐かれたので、無言でグーで殴る。
 ゴスッと良い音がした。
「天使のように愛らしい弟妹をそう呼んで何が悪いのです? 少しは、まともにお喋りが出来るようになったかと思えば、減らず口が過ぎましてよ」
 グッと拳を握りちらつかせると、今度はちゃんと言い直した。
「君が溺愛する天使たちに会いたいです」
「はい、よく出来ました。わたくしは、貴方の婚約者ですが言葉遣いを疎かにしてはなりません。バーバリー伯爵夫人が聞いたら、行儀が悪いと扇子で叩かれてよ。それに殿下の口の悪さが、わたくしの可愛い天使たちに移ったら……うっかり魔法が暴発してしまうかもしれませんわ」
 私の言葉に同調するかのように、精霊たちが『殺っちゃえ』と囃し立てている。
 私の天使たちに暴言を吐いたり、危害を加えようとしたら、迷わずGOサインを出すだろう。
「……気を付けます」
「心がけて下さいませ。王都に戻ったら、延期していた殿下の側近を決めるパーティーを開かねばなりません。きちんと吟味して決めて下さいませ。わたくしも、事前に招待客のリストに目を通しておきますわ。よき学友が出来ると良いですね。プライベートな時間のみ、言葉が崩れても目くじらは立てませんわ」
「今は、完全にプライベートな時間だろう。休憩時間だぞ」
「わたくしの天使たちに会うなら、外面だけでも完璧な王子様になって頂かなければ。素の貴方は、可愛い天使たちに悪影響になりますわ」
「そこまで言うなら会わなくても良いだろう」
 ゲンナリとした顔で、面会を辞退するアルベルトの頬を思いっきり張り飛ばした。
「殿下にも弟君が生まれたではありませんか。本当は会わせたくありませんが、殿下に長子である自覚と弟妹に対する接し方というものを実践を通して体験して頂きます」
 本当は物凄く死ぬほど嫌だが、ユスティーツィアは未来の王太子。
 国を背負う大事な宝だ。
 これもアルベルトが、ユスティーツィアに害しないようにするために私の可愛い天使たちを使った疑似体験をしてもらう。
「さあ、行きますわよ」
 アルベルトを引っ張り、天使たちのお部屋へ突撃しに行った。
 アルベルトが部屋に近付くと鼻に冷水を入れるように精霊達にお願いしていたので一時的に解除するのを忘れていた。
 鼻の痛みに悶絶するアルベルトを見て思い出したのであって、決して嫌がらせではない。
 綺麗にすっきりサッパリ丸っとうっかり忘れていただけで、悪気があったわけではないと心の中で謝っておく。
 精霊に私が一緒だから、取り合えず一旦止めてと念を送ると渋られた。
 こむら返り+金縛り+ポルターガイストを夜中に起こすことで決着は着いた。
 精霊たちのせいで、アングロサクソン家の客室にお化けが出るという不名誉な噂が流れないことを願った。
「わたくしの可愛い天使たち、お姉さまが来ましたわよ!」
 扉を開けると、侍女にあやされる天使たちがいた。
「ああ~ん。いつ見ても可愛いわ。シンディ、ローラン、お姉さまよ」
 デレデレした顔でチェキもどきを構えて写真を撮りまくる。
 気分は、カメラマンだ。
「……リリアン、一つ訊ねたいのだが」
「何ですか? わたくしは、天使たちを愛でるので忙しいのですよ。手短に三秒でお願いします」
「貴女の弟妹たちへの接し方は異常だと思えるのだが。ハッキリ言って気持ち悪いですよ」
 アルベルトの暴言に、首を動かしニッコリと笑みを浮かべる。
「殿下、もう一度仰って? 天使たちに夢中で聞き漏らしてしまったみたいですわ」
 ワンモアと促すと、青ざめながら今度はきちんと私たちの関係を評価した。
「素晴らしい姉弟愛です」
「そうでしょう。そうですとも。わたくしは、天使たちの為に寝る間も惜しんで機能的で天使たちが一番可愛く輝ける着心地の良い服を作ってますのよ。そして、毎日絵本を読み聞かせるように侍女に頼んでおりますの」
 知育玩具は一旦仕舞われてしまったが、大量の絵本が本棚にところ狭しと並べられている。
 ユーフェリア教会の経典や伝承を簡単な物語にしたり、挨拶の言葉や祈りの言葉も覚えられるようにと絵本で物語調で再現したり、頑張ったのだ。
 大事なのでもう一度言おう。
 私は、頑張った!
 莫大な労力と資産を注ぎ込んでいる。
 アルベルトに掛かった費用よりは、比べ物にならないくらい金をかけている。
「まだ、一歳にも満たない赤子に読み聞かせても意味がないのではないだろうか」
「意味はありましてよ。赤子でも、感情も欲望もあるのです。言葉を覚えるのは、周囲が沢山話しかけるから、自然と言葉を覚えるのです」
 私が言うなとツッコミを入れられそうだが、あくまで一般論なので許して欲しい。
「それに童話や神話は、先人の戒めや教訓が書かれてあるのですよ。子供でも分かりやすいように書かれたものが絵本ですわ。ここに初めて来るとき、馬車で絵本を見せましたね。その時、殿下は馬鹿にしているのかと仰いました。わたくしは、大人も絵本を読むべきだと考えております。わたくしたちよりも長く生きている大人たちの凝り固まった考えを覆すのは無理でしょう。しかし、本をきっかけに何か得るものがあると思っております。殿下も漫画を通して勉強やお金に興味を持たれましたでしょう?」
「そうですね。漫画やゲームは、とても面白いと思います」
「殿下、わたくしの可愛い天使たちに絵本を読んで差し上げて下さいな」
 スッと手渡したのは、北欧神話ワルキューレの人間との恋愛模様を描いた絵本である。
 登場人物の名前は変えているが、アルベルトが好きそうな絵と内容であることは間違いない。
「大丈夫。殿下でも読める本ですわ」
 専門用語も使ってないので読めると太鼓判を押すと、本を手に取りパラパラと読み始めた。
「殿下が読み耽ってどうします。わたくしの可愛い天使たちに読み聞かせして下さいませ」
 思わず低い声が出てしまった。
 ビクッと肩を震わせたアルベルトは、絵本の朗読を始めた。
 一冊読み終わる頃には、次の本を手渡し天使たちが寝るまで読み聞かせを続けたら、アルベルト自身が絵本に嵌ってしまい部屋から追い出すのに苦労した。
 それから、毎日のように休憩時間には天使たちの部屋に入り浸り絵本の読み聞かせを率先して行うようになった。
 何だか思惑通りなのだが、少し……いや大分アルベルトの分際で気に食わないと思ってしまった。
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