お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

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幼少期

カルタで参加者の情報を覚えよう

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 アルベルトに弟妹の存在は尊く、上にも下にも置かぬ蝶よ花よと扱えと洗の……懇々と諭したら自分より弱い者を守らねばという心理が芽生えたのか一皮剥けたと思うくらいには成長した。
 外交用のアルベルトと素のアルベルトの使い分けは、まだまだ甘い部分もあるが大分マシになった。
 父からアルベルトを連れて帰還しろと命令が下ったので、可愛い天使たちと泣く泣くお別れして王都へ戻ったよ!
 視察から戻ったアルベルトの変貌っぷりに、王城で働く者達には物凄く感謝された。
 何ということでしょう。
 俺様傲慢我儘王子が、優しい爽やか王子に劇的に変貌しました。
 これからは、王城で働く者達はアルベルトのモラハラもパワハラもカスハラも怯えることなく過ごせることでしょう。
 そんなことをしようものなら、精霊による細やかで地味な嫌がらせ『霊障』が多発する。
 アルベルトに貸していた客間では、日々精霊による心霊現象もどきが行われていたので、少しばかり霊感がある風を装って怖がらせる下準備をしたからこそ出来る必殺技だ。
 連日、悪乗りした精霊たちの猛攻でベッドに巨大な世界地図を描いていたのは、アルベルトにとって黒歴史の一ページに深く刻まれただろう。
 恥ずかしい写真は、しっかりと盗撮させて貰った。
 強請るネタが、一つ増えたぜ。
 そして、新たな魔法の言葉も手に入れた。
 『殿下の曽祖父様が、草葉の陰でお怒りで御座いますわ』と言えば、顔を青ざめてブルブル震えるから面白い。
 アルベルトの曽祖父は死んでいるが、草葉の陰で怒っているとすればファーセリアの怒りを買ったイグナーツだろう。
 大抵の心霊現象精霊の悪戯は、アルベルトが何かやらかした時に起こる。
 その場に居合わせても見えている私からすれば、微笑ましい悪戯ねとしか思わないので、時々アルベルトから「これは、ダメなやつか?」と聞いてくるのが何とも笑えた。
 王城に戻ったアルベルトは、随分と丸くなり常識も段々と身についた。
 何より、異母兄弟の弟には私の蔵書である絵本を読んであげるという兄らしいことをしているようだ。
 これには、王妃も大層驚き一体何をしたのかと手紙が来たくらいだ。
 父に出していた定期報告書を清書し直して、王妃に提出するとユスティーツィアが大きくなったら教育を任せると返信が返ってきたときは後悔したが、何はともあれアルベルト改造計画は一旦幕を閉じた。
 さて、本題のパーティーについてだ。
 アルベルトの側近を選ぶパーティーではあるが、正確には高位貴族達の次期当主の下見である。
 役職は世襲制ではないため、いくら我が子を自分のポストに就かせたいと思っても実力が伴わなければ出来ない。
 各機関のトップの人事は、王と王妃が相談して決める。
 万が一決められなかった場合は、第三者の議会の意見を聞き判断する。
 その体制が良かったのかどうかは分からないが、イグナーツのみに人事権があったら国は衰退し最悪滅んでいただろう。
 そんな事をつらつら考えながら、招待客の名簿を捲りながら眺める。
 婚活相談所を開設したことで、写真の存在が広く認知されるようになった。
 最近では、見合い用の写真も撮っている。
 アルベルト主催のパーティー参加者は、事前に顔を覚えて貰おうと出欠席の返事と共に写真を同梱してくれるのは有難い。
 アルベルトに招待客の顔と名前と簡単なプロフィールを覚えて貰う必要がある。
「あの人に、これだけの人数の顔と名前を覚えることが出来るかしら?」
 紙の束を見つめながら私は大きな溜息を吐いた。


 アルベルト主催のパーティーまで残り半月。
 勉強は、一旦お休みして出席者の顔と名前を簡単なプロフィールをカルタ形式で覚えさせている。
 出席者を五十人まで絞り、特徴的な似顔絵を描かせたトランプサイズの板を並べてメイドに読み札を読ませる。
 人数が少ないとつまらないので、アルベルト付き護衛やメイドは強制参加である。
「アイディル領の高級アップルマンゴーを食べ過ぎて、激太りしたフィリップ・アイディル子爵は読書がお好き」
 床に無作為に置かれたカルタを見ながら、『ア』を探す。
「はい!」
 メイドとアルベルトが、カルタにタッチした。
「どっちが先でしたか?」
「メイドです」
 悔しがるアルベルトとはしゃぐメイド。
 こんな光景は、少し前なら見れなかった光景だ。
「殿下、惜しかったですね」
「後少し早ければ取れたのに! 次だ、次」
「読む内容と絵を覚えてしまえば早く取れますから頑張って下さい」
 そう発破をかけて、カルタに集中する。
 読み手を順番で交代したりして順位を競った結果、最下位はアルベルトが収まった。
「……後、一枚で最下位にはならかなったのに」
「最下位争いなんてしないで下さいませ。優勝者は金一封をお渡しする約束でしたね。どうぞ、お受け取りになって」
 大銀貨一枚をメイドに渡すと、パァーっと顔を明るくして大喜びしている。
「殿下、これで三連続最下位です。罰ゲームのお時間ですわ」
「わ、分かってる。次こそ負けない」
「心意気だけは買いますわ。護衛の方、お付き合いありがとう御座います。ここからは、ドアの向こうで護衛を引き続きお願いしますわ」
「ハッ! 畏まりました」
 護衛を部屋から追い出し、メイド達と私・アルベルトだけの状態になり、私は持参したトランクを開けた。
「殿下、これに着替えて下さいまし。王都に戻ってきてから、わたくしがデザインして作らせた物ですわ」
 薄いピンクのフレアドレスを取り出して見せると、アルベルトはドレスの刺繍に目を止めた。
「この刺繍をした者は、只者ではないな。しかし、見たことのない花だ。これは、何の花だ?」
「ハナズオウという花ですわ。小さくて愛らしい花でしょう」
 配置を考えるのに苦労した。
「薄い布が何層も重なっていると、これはこれで今までにないドレスだな」
「そうなんです! 殿下、良いところに気付きました。今までのドレスはコルセットで体のラインを補正しなければなりません。窮屈ですし、動きにくいのです。しかし、こちらは身体をより立体的に美しく見せるために仕立てましたの。コルセットが無くても体型がカバー出来る仕様になってますわ。さあ、着替えて下さいませ」
 メイドにドレスを渡すと、アルベルトと共に衝立の後ろに隠れてゴソゴソと着替え始める。
 めっきり女装に抵抗が無くなったのには、いささか道を踏み外す切っ掛けを作ったかもしれないと少しだけ罪悪感を覚えるが、商品化して金になるかどうか見極めるにはアルベルトは丁度良い広告塔だ。
 使わずしてどうする。
 暫くして、ドレスに着替えたアルベルトに新作のペタンコパンプスを渡し履き替えて貰う。
「やはり、その髪色に映えますね。殿下用にウィッグも作ってみましたの。少し失礼」
 カポッとカツラを被せ櫛で梳かし馴染ませる。
 ドレスと同じハナズオウが付いたカチューシャをカツラと地毛の間を隠す量に被せて、少し髪を弄ればロングヘアの美少女が爆誕した。
「凄くお似合いですね!」
 メイドがキャッキャしているのを聞いて、アルベルトもまんざらではない様子。
「こちらの装飾も着けて見て下さい」
 アングロサクソン領で採れた宝石のクズ石を集めてカットし、惜しげもなく使ったアクセサリーを着けて貰う。
 マットなピンクの口紅を塗ると、惚れ惚れするほど美しい男の娘に変身した。
 チェキもどきで写真を撮る。
 ポーズにも指示を出してひたすら撮った。
 罰ゲームなので、アルベルトへの被写体料は発生しない。
 今シーズンの衣装を撮らせて貰い私は大満足だ。
 アルベルトが、撮り終える頃にはゲッソリとしていたが気にしない。
「殿下、明日も頑張りましょうね」
「……明日は負けない」
 私の応援も皮肉に聞こえたのか、絶対に負けたくないと一人で闘志を燃やしている。
 私は、撮影も済んだことだし高揚しながら家に戻り、アルベルトの写真をお抱えの絵師たちに渡して描かせた。
 掛かれた絵は、次回の流行ドレスのカタログに掲載し定期購読している富豪や貴族から注文が殺到して私はウハウハしていた。
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