81 / 181
幼少期
馬鹿の教育を学友に押し付けて聖女教育に勤しみます
しおりを挟む
アルベルトも学友が出来たのが嬉しかったのか、初っ端から言葉を崩して話していたので、私の右ストレートが鳩尾に炸裂した。
「ぐふっ……何すんだよ!」
「何するですって? まだ学友になって信頼関係も出来ていない相手に馴れ馴れしい言葉遣いの方こそ何をしているのですかって伺いたいですわ」
アルベルトを平然と殴り飛ばす私を見た面々は、ドン引きしている。
約一名、的外れな賛辞をくれた者がいたが今は無視だ。
「プライベートな時くらい言葉遣いが崩れても良いと言っただろう!」
「ええ、申し上げましたわ。信頼関係のしの字も出来てない相手に、そのような言葉遣いを使うなんて、足元掬われましてよ。相手の信頼を得るまでは猫を被れとあれほど申し上げましたのに、この鳥頭! もう少し躾してお引渡ししたかったのですが、わたくしも忙しい身の上ですので後は宜しくお願いします。聖女教育も本格的になるのでお城に伺う回数も減りますが、殿下……時々様子を見に参りますわ。くれぐれもサボったりしたら、視察の話は無くなりますので悪しからず。では、皆様ごきげんよう」
裾を軽く持ち上げカエルスクワットで綺麗な淑女の礼をして、アルベルトとその学友を残して部屋を後にした。
王妃になる気はさらさらないのだが、アルベルトの矯正が思いのほか上手く行ってしまったことで、王妃ルートが完全に開いてしまった。
あの人、完全に私をユスティーツィアに嫁がせようとしている。
婚約破棄で慰謝料ガッポリの予定が、婚約白紙で婚約者だけを挿げ替えようとされている。
もう、恐怖でしかない。
今までは王妃教育が中心だったが、これを機に聖女教育に逃げることにした。
毎日顔を合わせていたのを週一回になるので、アルベルトの勉強の進み具合や元の傲慢王子に戻らないか心配だが、精霊というお目付け役もいるので大丈夫だと思いたい。
アルベルトのお守りは彼の学友に押し付けて、私はアリーシャを伴って聖女教育のためにユーフェリア教会の本部に居た。
精霊のボイコット事件で、上層部が軒並み窓際に追いやられ、優秀な人材のみ引き立てたので、それなりに上手く回っている。
「聖女様、アリーシャ様、お待ちしておりました」
「法王様自らお出迎えして頂けるなんて光栄ですわ」
「元々は、ただの神官である私を救いあげて頂いたのも偏に聖女様のお陰です。腐りきった教会内の膿を出し切ることが出来ました」
「わたくしは何もしていないわ。あの体制のままだったら、聖女の称号は直ぐに返上していましたもの。感謝するのなら精霊達の寛大な心になさいませ。後、わたくしは無能が嫌いですの。貴方は、有能だと思ったから推しただけよ。その地位に見合う努力をなさい」
「承知致しました」
「聖女教育も途中で止まっていましたわね。わたくしには、光の魔法は使えませんわ。なので、治癒魔法の練習時間はアリーシャのみにして貰えるかしら?」
「私一人でですか?!」
不安そうに私の袖を握りしめているアリーシャに、しっかりしなさいと激励を送る。
「貴女も聖女見習いなのだから、一人で考えて動けるようになりなさい」
「リリアン様は、その間は何をされるんですか?」
「式典や儀式の作法を学んだり、覚えなければならない祝詞を勉強するわ。アリーシャも覚えられるように、絵本にするから安心しなさい」
「全然安心出来ないです。作法を変えようとしたり、不要な部分を端折ったりしないで下さいね」
「……」
ジトッリとした目で私を見てくるアリーシャに、営業スマイルで返しておいた。
「さあ、治療を必要としている者達のところへ行きなさい」
私は、アリーシャを部屋から追い出してハァと大きなため息を吐いた。
本当に勘の鋭い子だ。
「トップを含めて幹部の失脚で、教会の財政を良い感じに穴を空けてしまったから早急な立て直しが必要になるわね。各教会のお布施の帳簿を見せて頂戴」
「畏まりました。別室で保管しておりますので案内致します」
「ありがとう」
新法王に案内された場所は、書庫かと思うほど本の山だった。
しかも乱雑に置かれている。
「……これは、随分と汚いですね」
「済みません。ここを任されていた前任者が仕事をしない人間でして、新体制になってから手を付け始めたので整理が追い付かない状態です」
うっかり大切な書類を捨ててしまうと後々問題に発展しかねない。
書類の束を見ると、やはり書式がバラバラになっている。
「まずは、書式の統一から行いましょう。原本は、過去十年間の分のみ残して、それ以外は複写後に捨てて下さい」
「十年間より前の分は複写しないのですか?」
「目を通すけどしないわ。契約書関連は、年代関係なく残して。我が家で使っている収支が一目でわかる書式がありますの。それを採用しますわ。紙類は、一先ず寄付という形を取りますわね。後、計算は出来るのでしょうか?」
「はい。基本的には、この部署に配属されている者達は出来ます」
「では、598,470,×112,548の答えを三秒以内に答えて下さいまし。一、二、三。はい、お終いですわ。誰も答えられてませんね」
この程度の計算が答えられないとなると、ちょっとどころではない。
かなり問題である。
「答えは、67,356,601,560ですわ」
「これだけの桁数を即答出来る者は居ません」
「我が家では、皆出来ましてよ。この程度の計算が出来ないと話になりませんわ。アングロサクソン家の計算術をお教え致します。しっかり身に付けて、この書類の山を片付けますわよ」
聖女の最初の仕事は、書類整理から始まった。
「ぐふっ……何すんだよ!」
「何するですって? まだ学友になって信頼関係も出来ていない相手に馴れ馴れしい言葉遣いの方こそ何をしているのですかって伺いたいですわ」
アルベルトを平然と殴り飛ばす私を見た面々は、ドン引きしている。
約一名、的外れな賛辞をくれた者がいたが今は無視だ。
「プライベートな時くらい言葉遣いが崩れても良いと言っただろう!」
「ええ、申し上げましたわ。信頼関係のしの字も出来てない相手に、そのような言葉遣いを使うなんて、足元掬われましてよ。相手の信頼を得るまでは猫を被れとあれほど申し上げましたのに、この鳥頭! もう少し躾してお引渡ししたかったのですが、わたくしも忙しい身の上ですので後は宜しくお願いします。聖女教育も本格的になるのでお城に伺う回数も減りますが、殿下……時々様子を見に参りますわ。くれぐれもサボったりしたら、視察の話は無くなりますので悪しからず。では、皆様ごきげんよう」
裾を軽く持ち上げカエルスクワットで綺麗な淑女の礼をして、アルベルトとその学友を残して部屋を後にした。
王妃になる気はさらさらないのだが、アルベルトの矯正が思いのほか上手く行ってしまったことで、王妃ルートが完全に開いてしまった。
あの人、完全に私をユスティーツィアに嫁がせようとしている。
婚約破棄で慰謝料ガッポリの予定が、婚約白紙で婚約者だけを挿げ替えようとされている。
もう、恐怖でしかない。
今までは王妃教育が中心だったが、これを機に聖女教育に逃げることにした。
毎日顔を合わせていたのを週一回になるので、アルベルトの勉強の進み具合や元の傲慢王子に戻らないか心配だが、精霊というお目付け役もいるので大丈夫だと思いたい。
アルベルトのお守りは彼の学友に押し付けて、私はアリーシャを伴って聖女教育のためにユーフェリア教会の本部に居た。
精霊のボイコット事件で、上層部が軒並み窓際に追いやられ、優秀な人材のみ引き立てたので、それなりに上手く回っている。
「聖女様、アリーシャ様、お待ちしておりました」
「法王様自らお出迎えして頂けるなんて光栄ですわ」
「元々は、ただの神官である私を救いあげて頂いたのも偏に聖女様のお陰です。腐りきった教会内の膿を出し切ることが出来ました」
「わたくしは何もしていないわ。あの体制のままだったら、聖女の称号は直ぐに返上していましたもの。感謝するのなら精霊達の寛大な心になさいませ。後、わたくしは無能が嫌いですの。貴方は、有能だと思ったから推しただけよ。その地位に見合う努力をなさい」
「承知致しました」
「聖女教育も途中で止まっていましたわね。わたくしには、光の魔法は使えませんわ。なので、治癒魔法の練習時間はアリーシャのみにして貰えるかしら?」
「私一人でですか?!」
不安そうに私の袖を握りしめているアリーシャに、しっかりしなさいと激励を送る。
「貴女も聖女見習いなのだから、一人で考えて動けるようになりなさい」
「リリアン様は、その間は何をされるんですか?」
「式典や儀式の作法を学んだり、覚えなければならない祝詞を勉強するわ。アリーシャも覚えられるように、絵本にするから安心しなさい」
「全然安心出来ないです。作法を変えようとしたり、不要な部分を端折ったりしないで下さいね」
「……」
ジトッリとした目で私を見てくるアリーシャに、営業スマイルで返しておいた。
「さあ、治療を必要としている者達のところへ行きなさい」
私は、アリーシャを部屋から追い出してハァと大きなため息を吐いた。
本当に勘の鋭い子だ。
「トップを含めて幹部の失脚で、教会の財政を良い感じに穴を空けてしまったから早急な立て直しが必要になるわね。各教会のお布施の帳簿を見せて頂戴」
「畏まりました。別室で保管しておりますので案内致します」
「ありがとう」
新法王に案内された場所は、書庫かと思うほど本の山だった。
しかも乱雑に置かれている。
「……これは、随分と汚いですね」
「済みません。ここを任されていた前任者が仕事をしない人間でして、新体制になってから手を付け始めたので整理が追い付かない状態です」
うっかり大切な書類を捨ててしまうと後々問題に発展しかねない。
書類の束を見ると、やはり書式がバラバラになっている。
「まずは、書式の統一から行いましょう。原本は、過去十年間の分のみ残して、それ以外は複写後に捨てて下さい」
「十年間より前の分は複写しないのですか?」
「目を通すけどしないわ。契約書関連は、年代関係なく残して。我が家で使っている収支が一目でわかる書式がありますの。それを採用しますわ。紙類は、一先ず寄付という形を取りますわね。後、計算は出来るのでしょうか?」
「はい。基本的には、この部署に配属されている者達は出来ます」
「では、598,470,×112,548の答えを三秒以内に答えて下さいまし。一、二、三。はい、お終いですわ。誰も答えられてませんね」
この程度の計算が答えられないとなると、ちょっとどころではない。
かなり問題である。
「答えは、67,356,601,560ですわ」
「これだけの桁数を即答出来る者は居ません」
「我が家では、皆出来ましてよ。この程度の計算が出来ないと話になりませんわ。アングロサクソン家の計算術をお教え致します。しっかり身に付けて、この書類の山を片付けますわよ」
聖女の最初の仕事は、書類整理から始まった。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。
パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。
将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。
平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。
根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。
その突然の失踪に、大騒ぎ。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる