お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

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幼少期

通信具零式

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 メロディア工房から通信具零式が出来たと連絡を受けて、アルベルトの手紙そっちのけで行ってきました!
 携帯電話にしては、とても大きく厳つい風貌になっている。
 私の渡した原案はどこへ行った?
 風の精霊魔法陣を本体に描き魔石を使うことで使用できるようになっているとのこと。
 魔石の取り外しも出来る点は、使い捨てにならないで済む。
「それで、これをどうやって起動させるのかしら?」
「ボタンが十二個あります。前段階として、通話したい方の血をそれぞれのボタンに垂らして下さい。掛けたい相手のボタンを押せばもう片方が受信します」
「それは受信側で同じ設定をすれば、ボタンを押せば掛けたい場所にかけられるということかしら?」
「はい、可能です」
 まるで短縮ダイヤル機能だ。
「一番は、メロディア工房に登録されています。お嬢の商会や連携している工房の登録は説明書に記載されているので確認して下さい。」
 通信具零式セットを手渡され、嬉しい反面、不便な面があるなと頭を悩ませる。
「登録済みの番号に、別の血を垂らして上書きすることは出来ないのかしら?」
「現時点では、出来ませんね。後、こちらはプライベート用に作ったものです」
 ボタンが三つしかついてない。
 キッズケータイを思い出す。
「分かったわ。そこは、改善が必要ね。誰とでも通信出来るように研究を続けて頂戴。その分の予算は、私が負担するわ。研究内容については、草案と予算申請をアングロサクソン家宛にして下さい。わたくし、聖女教育の最中で、週の殆どが教会で過ごしておりますの。なるべく返事は早めに致します。急ぎの場合は、教会に来て頂いて結構ですわ」
 ショルダーバッグから家紋入りのハンカチを取り出してメロディア工房の親方に渡す。
「それは、ありがてぇ。次は、改良版でアッと言わせて見せますぜ」
「期待しているわ」
 私は、ユリアに零式を持って貰って馬車に乗り込んだ。
 馬車の中で説明書を読むと、殆どのボタンが登録済になっている。
 残っているのは、8と9と0だけだ。
 電波という概念があれば、もっとやりようはあったのだろうけど。
 こればかりは、専門ではないので資金とアイディアだけ提供して何とか希望に沿う物を作って貰おう。
「0はアングロサクソン領の邸宅、8は王都の実家、9は教会かしら。受信側の用意も必要になると出費が嵩むわね。このプライベート用は、やっぱり片方は王妃様に渡すべきかしら……」
 アルベルトに渡すと碌なことにならないだろう。
 どうせ私かアングロサクソン家としか通話出来ないのだから仕方がない。
 いや、待てよ。
 この機械を使って、アルベルトは王妃に頭が上がらない状況を作れば良いのでは?
 目の前で使って見せて優位性確認させたら、絶対欲しがるだろう。
 まあ、やらないけど。
 使いたがるのは目に見えているので、それを利用してアルベルト専用の通信回線を確保させるのも悪くないと思う。
 ちょっとはマシになってきたが、まだまだ調きょ……教育する必要がある。
 今回の不正の件で王妃の機嫌は急降下するだろう。
 ご機嫌取りも兼ねて渡そう。
「このタイミングで通信具零式が出来たのは幸運だったわ」
「アルベルト様にお渡しするんですか?」
「これを? まさか。豚に真珠だわ。王妃様に献上するわよ。その前に、教会の不祥事の報告が先ね」
「アルベルト様からの手紙は、読まれないんですか?」
 通信具に意識が取られて、すっかり忘れていた。
 面倒臭いなぁと思いつつ、ペーパーナイフで手紙の封を開けて読む。
 滑り出しから、上から目線だった。
 要約すると『城下へ視察しに行きたいからさっさと連れて行け』という内容だった。
 こっちは、教会の立て直しで忙しいって言うのに愚王子の我儘に付き合ってられない。
 思わずグシャリと手紙を握り潰してしまった。
「大体、想像は付きますが何て書いてあったんですか?」
「城下に連れて行けですって。まだ二週間半よ。こっちは、寝る間も惜しんで仕事しているのに。今、顔を見たらグーで殴ってるわ」
 勿論、鳩尾に一発入れているだろう。
 顔は商品なので傷つけたくはないから、手は出さないが。
「最初に比べれば、我慢できた方だと褒めてあげるべきではありませんか? 我慢のがの字も知らない子でしたから」
 灌漑深くアルベルトの成長を傍で一緒に見守ってきたアンナは、若干彼に甘くなった気がする。
「……そうね。最初に比べればマシね。精霊達からも、大きなやらかしはしてないみたいだから可愛い悪戯で済んでいるようだけど」
「アルベルト様、悪戯されるんですね」
「精霊達は、存在自体が嫌いって公言しているから何もなくても悪戯するでしょうね」
「そこは、止めてあげましょうよ!」
 アンナの言葉に、私は思いっきり眉を顰め苦虫を噛み潰したような顔で拒否した。
「嫌よ。私の楽しみが減る。これから社交シーズンに向けて新作ドレスの撮影も兼ねてお忍びで城下に出るのも良いわね。最近、庶民用にポスターを作ろうと思っているのよ」
 ファッションの流行は、流行り廃りが早い。
 型落ちドレスをリメイクした服を庶民でも手の届く範囲で提供したい。
 手の届く範囲と言っても、少し無理をして買う程度の値段設定だ。
 豪商なら購入出来るだろうが、一般庶民では余所行きの一張羅くらいの値段になるだろう。
「殿下のご学友の方には、何て説明すれば良いのでしょうか? まさか、女装して小遣い稼ぎしているなんて思ってないでしょうし」
「言う必要は無いわ。どうせ、毎日勉強漬けにされているのだから休暇と言えば納得するんじゃない。教会の問題が片付いたら、殿下と一緒に城下巡りよ!」
 教会の不正の報告については億劫だが、アルベルトの女装で一気にやる気ゲージが上がる。
 金の匂いがするんだよね~。
 頑張って仕事しますか!
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