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エルブンガルド魔法学園 中等部
意外と重いリズベットの過去
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成り行きでリズベットを保護したは良いものの、手続きをさっさとやってしまわないとオブシディアン家から横槍が入ってしまう。
今は授業中なので教室の外に人の気配はない。
風の精霊に頼んで、私達の周囲に防音の魔法をかけて貰った。
「リズベット嬢、貴女をオブシディアン家から保護をすると申し上げ、わたくしの手を取った以上は公爵令嬢ではなくなります。そこは、ご理解出来てますか?」
「……」
「お菓子もドレスも今までの様に我儘も振舞えない。想像以上に質素な生活をすることになりますわ。本当に宜しくて?」
「……火だるまにされるくらいよりマシよ」
んん? 何かとんでもない言葉が飛び出してきたぞ。
「えーっと、一応確認なんですが」
「何よ」
「公爵様は、リズベット様は火だるまにされたことがあるんですか? 顔が腫れるくらい叩かれたりされるのではなく?」
「叩かれるなんてまだ可愛い方よ。機嫌が悪ければ魔法の的にしたりするわ。見えない場所を狙うのよ。アルベルト様の開いたパーティーで、アルベルト様を手懐けてこいって言われたけど出来なかった時は、ファイアボールで丸焦げにされたわ」
「その時の傷は、どうなさったの?」
見る限り綺麗に治っている。
考えたくはないが、一応聞いておこう。
「……一日放置されて、泣きながら許しを請うて傷を治して貰うのよ」
それが当たり前のことだと言わんばかりに、凄く淡々とした声で話す彼女が化け物か何かに見えた。
「以前、王城に来た時のことを覚えていますか?」
「ああ、あれね。お父様に言われてやっただけなのに、帰ったら思いっきり殴られた後で4~5回くらい火だるまにされたわ」
死んだ魚のような目で喋る彼女が嘘を言っているように思えなかった。
精霊達に、その現場を目撃した奴はいないのか確認してみたら本当だった。
想像以上に、リズベットは酷い扱いを受けて来ていたようだ。
「嘘は言ってないみたいね。貴女が、何故そんな待遇を受けるのか理解出来ないのだけれど」
正直、政敵であるオブシディアン家の情報は表面上なものしか知らない。
否。知らされていないと言った方が良いだろう。
父が、その辺りは情報統制しているので私の方まで流れてこない。
私が、本気で調べようと思えば調べられることくらい父は知っている。
しかし、それをしなかったのは私自身だ。
精霊を使って調べるとなれば、それなりの対価が必要になる。
その辺りも父は、計算しているのだろう。
「私が出来損ないだからよ。私は、庶民に毛が生えた程度の魔力しか持ってないわ。頭も良くない。顔もお姉さまに比べれば可愛くも綺麗でもない。本当は、お姉様がアルベルト様のお后候補だったのよ。リリアン様が、アルベルト様の婚約者になってから変わってしまったわ。同じ年の私なら、傍に居てもおかしくはないからって言われて頑張ったのよ」
リズベットは真性のアホだと思っていたが、その要因一つに彼女の境遇がそうさせてしまったということだ。
彼女があそこまでぶっ飛んだ思考で教養がないのは、きちんと教育を受けて来てなかったからではないだろうか。
「リズベット嬢自身は、アルベルト様と結婚したいのですか?」
「……顔は好みだけど、性格が嫌よ。女の子を突き飛ばすような乱暴な男は嫌」
日常的に死に直結するような暴力を受けて来た彼女からしたら、手を挙げるような男は御免被りたいだろう。
虐待レベルではない。
殺人未遂と言ってもいいくらいだ。
「聖女として保護をすると申し上げましたが撤回します」
「どうして!?」
「リリアン・アングロサクソンとして、貴女を貰い受けるわ! 教会は、不祥事を起こしたばかりで権力を削がれているのよ。一時的に保護出来たとしても圧力が掛れば、貴女を手放さなくてはならない状況に陥るかもしれない。それだけは、何としてでも避けなければならないのよ。上の者は、下の者を守る義務があるの。親は子を守る義務があり、姉は弟妹を守る義務がある。それを怠り、自分の都合を押し付けて、上手く行かなければ当たり散らすなんて言語同断! リズベット嬢が仕出かした事の重大さは追々理解して頂くとして、オブシディアン家はアングロサクソン家に損害賠償を起こされて今は分割で慰謝料を払っている状態よ。その慰謝料を帳消しにする代わりに貴女を貰う。貴女をそんな風に扱うのだから、喜んで手放すでしょう。貴女の人生を丸ごとわたくしに捧げなさい」
腐っても中身は、現代科学の社畜で生きて来たおばちゃんだ!
不可能な文字はない。
「……何の取り柄もない私を貰ってどうするつもりよ」
「まずは、基礎の教育からして貰うわ。わたくしは、色んな顔を持っているの。貴女が、成人して自分一人養えるくらいの仕事を用意することも出来るわ。でも、それは貴女自身が頑張って身に付けないといけないものよ。わたくし、貴女のことはアホだと思っていたわ。過去を知って、アホである事には変わりないけれど『忍耐』という素晴らしい取り柄がある。忍耐は、そう簡単に身につく物じゃない。そうせざる得ない環境だったことは不幸だと同情するけれど、逆に感謝もしているわ。貴女という人材を手に入れることが出来るのだから。全てわたくしに任せなさい。手続きが全て終わるまで学園に通学出来ないけれど、手続きが終わったら復学して一緒に卒業するのよ」
そう宣言すると、ワッと泣かれてしまった。
今まで誰かに守られたことなんてなかったのかもしれない。
私は携帯電話でパパンに事情を話して、オブシディアン家への訴訟取り下げと慰謝料相殺の代わりにリズベット・オブシディアンの身柄を貰い受けたいと打診した。
相手は足元を見て来たので、黙って素直に渡さないならリズベットへの仕打ちを公開して然るべき処罰を受けさせるぞと脅した。
そこで私の本気が伝わったのか、公爵はリズベットから手を引いた。
オブシディアン家の籍から抜いて、スー家の養女として迎え入れた。
手続きは、パパンに丸投げしておいたよ。
リズベットの一件もあり、エリーナの株は大暴落し白薔薇の会は大幅に縮小し、消滅も間近ではないかとウワサされている。
リズベット・オブシディアン改めベアトリズ・スーとして、彼女は私の侍女見習いとして傍に就くこととなった。
後に、ヘリオト商会の右腕にまで成り上がるとは、この時の私は知る由もなかった。
今は授業中なので教室の外に人の気配はない。
風の精霊に頼んで、私達の周囲に防音の魔法をかけて貰った。
「リズベット嬢、貴女をオブシディアン家から保護をすると申し上げ、わたくしの手を取った以上は公爵令嬢ではなくなります。そこは、ご理解出来てますか?」
「……」
「お菓子もドレスも今までの様に我儘も振舞えない。想像以上に質素な生活をすることになりますわ。本当に宜しくて?」
「……火だるまにされるくらいよりマシよ」
んん? 何かとんでもない言葉が飛び出してきたぞ。
「えーっと、一応確認なんですが」
「何よ」
「公爵様は、リズベット様は火だるまにされたことがあるんですか? 顔が腫れるくらい叩かれたりされるのではなく?」
「叩かれるなんてまだ可愛い方よ。機嫌が悪ければ魔法の的にしたりするわ。見えない場所を狙うのよ。アルベルト様の開いたパーティーで、アルベルト様を手懐けてこいって言われたけど出来なかった時は、ファイアボールで丸焦げにされたわ」
「その時の傷は、どうなさったの?」
見る限り綺麗に治っている。
考えたくはないが、一応聞いておこう。
「……一日放置されて、泣きながら許しを請うて傷を治して貰うのよ」
それが当たり前のことだと言わんばかりに、凄く淡々とした声で話す彼女が化け物か何かに見えた。
「以前、王城に来た時のことを覚えていますか?」
「ああ、あれね。お父様に言われてやっただけなのに、帰ったら思いっきり殴られた後で4~5回くらい火だるまにされたわ」
死んだ魚のような目で喋る彼女が嘘を言っているように思えなかった。
精霊達に、その現場を目撃した奴はいないのか確認してみたら本当だった。
想像以上に、リズベットは酷い扱いを受けて来ていたようだ。
「嘘は言ってないみたいね。貴女が、何故そんな待遇を受けるのか理解出来ないのだけれど」
正直、政敵であるオブシディアン家の情報は表面上なものしか知らない。
否。知らされていないと言った方が良いだろう。
父が、その辺りは情報統制しているので私の方まで流れてこない。
私が、本気で調べようと思えば調べられることくらい父は知っている。
しかし、それをしなかったのは私自身だ。
精霊を使って調べるとなれば、それなりの対価が必要になる。
その辺りも父は、計算しているのだろう。
「私が出来損ないだからよ。私は、庶民に毛が生えた程度の魔力しか持ってないわ。頭も良くない。顔もお姉さまに比べれば可愛くも綺麗でもない。本当は、お姉様がアルベルト様のお后候補だったのよ。リリアン様が、アルベルト様の婚約者になってから変わってしまったわ。同じ年の私なら、傍に居てもおかしくはないからって言われて頑張ったのよ」
リズベットは真性のアホだと思っていたが、その要因一つに彼女の境遇がそうさせてしまったということだ。
彼女があそこまでぶっ飛んだ思考で教養がないのは、きちんと教育を受けて来てなかったからではないだろうか。
「リズベット嬢自身は、アルベルト様と結婚したいのですか?」
「……顔は好みだけど、性格が嫌よ。女の子を突き飛ばすような乱暴な男は嫌」
日常的に死に直結するような暴力を受けて来た彼女からしたら、手を挙げるような男は御免被りたいだろう。
虐待レベルではない。
殺人未遂と言ってもいいくらいだ。
「聖女として保護をすると申し上げましたが撤回します」
「どうして!?」
「リリアン・アングロサクソンとして、貴女を貰い受けるわ! 教会は、不祥事を起こしたばかりで権力を削がれているのよ。一時的に保護出来たとしても圧力が掛れば、貴女を手放さなくてはならない状況に陥るかもしれない。それだけは、何としてでも避けなければならないのよ。上の者は、下の者を守る義務があるの。親は子を守る義務があり、姉は弟妹を守る義務がある。それを怠り、自分の都合を押し付けて、上手く行かなければ当たり散らすなんて言語同断! リズベット嬢が仕出かした事の重大さは追々理解して頂くとして、オブシディアン家はアングロサクソン家に損害賠償を起こされて今は分割で慰謝料を払っている状態よ。その慰謝料を帳消しにする代わりに貴女を貰う。貴女をそんな風に扱うのだから、喜んで手放すでしょう。貴女の人生を丸ごとわたくしに捧げなさい」
腐っても中身は、現代科学の社畜で生きて来たおばちゃんだ!
不可能な文字はない。
「……何の取り柄もない私を貰ってどうするつもりよ」
「まずは、基礎の教育からして貰うわ。わたくしは、色んな顔を持っているの。貴女が、成人して自分一人養えるくらいの仕事を用意することも出来るわ。でも、それは貴女自身が頑張って身に付けないといけないものよ。わたくし、貴女のことはアホだと思っていたわ。過去を知って、アホである事には変わりないけれど『忍耐』という素晴らしい取り柄がある。忍耐は、そう簡単に身につく物じゃない。そうせざる得ない環境だったことは不幸だと同情するけれど、逆に感謝もしているわ。貴女という人材を手に入れることが出来るのだから。全てわたくしに任せなさい。手続きが全て終わるまで学園に通学出来ないけれど、手続きが終わったら復学して一緒に卒業するのよ」
そう宣言すると、ワッと泣かれてしまった。
今まで誰かに守られたことなんてなかったのかもしれない。
私は携帯電話でパパンに事情を話して、オブシディアン家への訴訟取り下げと慰謝料相殺の代わりにリズベット・オブシディアンの身柄を貰い受けたいと打診した。
相手は足元を見て来たので、黙って素直に渡さないならリズベットへの仕打ちを公開して然るべき処罰を受けさせるぞと脅した。
そこで私の本気が伝わったのか、公爵はリズベットから手を引いた。
オブシディアン家の籍から抜いて、スー家の養女として迎え入れた。
手続きは、パパンに丸投げしておいたよ。
リズベットの一件もあり、エリーナの株は大暴落し白薔薇の会は大幅に縮小し、消滅も間近ではないかとウワサされている。
リズベット・オブシディアン改めベアトリズ・スーとして、彼女は私の侍女見習いとして傍に就くこととなった。
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