お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

文字の大きさ
104 / 181
エルブンガルド魔法学園 中等部

エマ・レイスとの接触

しおりを挟む
 リズベット・オブシディアンは一旦退学となり、彼女の成長次第でベアトリズ・スーとして転入という形で復学する手配を整えた。
 学園における三大勢力図は、大きく変貌を遂げた。
 私の出現で白薔薇の会は崩壊し、エリーナも肩身の狭い思いをしている。
 日頃からリズベットに対する仕打ちは上手く隠されていたが、私に関わったことで露見し女王として振る舞っていたエリーナは見る影もなくやつれていた。
 あれだけ持てはやされ傅かれていたのに、波が引いたように一瞬で彼女の周りから誰も居なくなった。
 そう、事実上干されたと言っても良い。
 オブシディアン公爵も、日頃からのリズベットの虐待が明るみになったことで信頼は地に落ち、誰からも相手にされなくなった。
 リズベットもといベアトリズを貰い受ける時に、その経緯を公言してはならないという制約は交わしていない。
 私が吹聴したわけではなく、一部始終見ていた生徒が自発的に喋り、ウワサとなり尾びれ背びれが付いて、勝手に一人歩きしただけの話だ。
 保守派の存在が減ったことが喜ばしいかと問われれば『否』と答えるだろう。
 改革派の中には、過激な思想を持つアホがいる。
 下剋上が悪いとは言わないが、貴族社会のルールを根本から変えるつもりはない。
 私は、オブシディアンの代わりに足りうる人物にコンタクトを取った。
「ご機嫌よう、エマ・レイス嬢。同席しても宜しいかしら?」
「……どうぞ」
 アメジストのような紫の瞳が、一瞬揺らめいた。
 今まで会話も接触もしてきていなかったのだから、身構えられても仕方がないだろう。
「エマ嬢とお呼びしても宜しくて? わたくしのことは、リリアンとお呼び下さいませ」
「構いません。リリアン様、私に何か用事でもあるのですか?」
「あると言えばあるのかもしれないし、無いと言えば無いのかもしれない」
 問答のようなことを唄いながら、肝心なことをはぐらかす。
 エマの眼が、私の思惑を見抜こうと躍起になったところで話を本題に移した。
「わたくしとオブシディアン家のいざこざは、すでに耳に入っていらっしゃるでしょう?」
「ええ、今季の学園中の話題を掻っ攫う勢いでしたね」
 独特な表現に、私はクスリと笑みが零れる。
 そんなことを面と向かって言われたのは、初めての出来事だ。
「その後、彼女たちがどうなったのかもご存じの様ですわね」
「ええ、それなりには存じ上げています」
 エマは曖昧に答えを返し、私の反応を伺っている。
 慎重を絵にかいたような人物だ。
「単刀直入に言うわ。貴女に、エリーナ嬢の後釜になって貰いたいのよ」
 笑みを浮かべて告げると、エマは怪訝そうな顔をした。
 うん、この様子だとこの言葉の狙いまでは見えていないようだ。
「簡単な話、この国でのパワーバランスの均衡が崩れつつある。学園では、すでに崩れてしまっているけれども。保守派の神輿になっていたエリーナ嬢は件のことで失墜。穴を埋められるだけの人間がいない状態で、保守派の筆頭になろうという人が現れない」
「リリアン様に目を付けられるからですか」
「飲み込みが早いから話すのも楽で良いわね。貴族の柵がなければ、わたくしの部下に勧誘したのに本当に残念だわ」
「……それで私になれと仰るのですか?」
「命令でも強制でもなく、あくまで一個人としてのお願いよ。どんな事柄にもバランスが大切なのは、貴女のご実家がよくご存じなのではなくて? わたくしとしても、改革派筆頭貴族ではあるけれども保守派を潰そうなんて考えてないのよ。寧ろ、保守派も必要な存在だと認識しているわ。伝統を重んじることが出来ない人間が、改革なんて出来るはずがないでしょう。改革派なんて言っているけれども、実際のところ技術開発に力を入れているだけで、それに付随してよりよく働ける環境や安全な場所の確保などをするための整備をしているだけに過ぎないわ。それをどう歪曲して解釈したのか、改革派の人間の九割は保守的な考え方を捨てるという選択をしているのが現状なの」
「だから、抑止力が必要になってくると……」
 私の言葉に、エマは少し黙り何か考えている。
 卒業をすれば、レイス家の跡取りとして切り盛りしなければならない。
 大半の政治的な事柄は男が担っているが、女性でしか出来ない仕事もある。
 イーサント王国の歴史を振り返っても、一度均衡が崩れてしまえば様々な問題が浮上し内戦に発展した事もある。
 改革派が活気づき、学園内で何を勘違いしているのか、大きな顔をして闊歩しているアホ達が多数大勢いるのだ。
 保守派だけでなく、中立派からも不満の声が上がってもおかしくはない危うい状況にある。
「何故、私なんですか?」
「今の現状を正しく理解し、子爵と言えども貴女の実家に一目置いている貴族は多い。貴女自身が会長にならなくても、貴女の選んだ人が会長になれば良いと私は思っているわ」
「私ではなく、私が選んだ人間ですか?」
「そう。子爵を馬鹿にするアホな貴族令息は五万といる。立派な親の背中を見て育った子は、賢い者を囲いたがるものなのよ」
「リリアン様のようにですか?」
「そうね……。私の場合は教育して使えないと判断したら即切るタイプよ。賢くなくても使えるか使えないかで判断しているから、少し違うわね。対立がしたいわけじゃない。でも、仲良くしたいとも違う。不可侵条約のようなものを結びたいのよ。付かず離れず要らぬ衝突を出来る限り避けたい。お互い、学園生活を円満に過ごしたいでしょう」
 畳みかけるように選択肢を提示しているが、実際には提示された選択肢は全て『YES』と答えるしかないため、最初から選択肢など無いのだ。
 『NO』と答えれば、国が荒れることくらいは想像が付くだろう。
 長い沈黙の後に、彼女は大きなため息と共に「是」と答えた。
「懸命な判断に感謝するわ。表立って手を貸すことは出来ないけれど、わたくしの力が必要な時はキャロル・チャイルド嬢を頼りなさい。彼女は、わたくしの数少ない友人ですの。お時間を取らせてしまって申しわけなかったわ。そろそろ失礼するわね」
 保守派の友人を頼れと伝え、私は席を立った。
 その数日後に、エマは私の友人と称したキャロルを白薔薇の会の会長に据えて再興を測った。
 キャロルが私とも交流があり、友人であることから保守派の尊厳と地位がある程度守られる形となり、威勢の良かったアホ達は漸く今まで自分の仕出かした愚かさに気付いたのか、学園の片隅で縮こまって過ごしている。
 ヘリオトロープの会からも追放され、他の会にも入れず孤立している様は滑稽だった。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...