お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

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エルブンガルド魔法学園 中等部

辞令を言い渡しました

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 さて、困ったことになってしまったぞ。
 まさか、オブシディアン家を少し突いたら簡単に潰れてしまった。
 そのおかげで、難航していた奴隷売買の件が発覚したのは嬉しい誤算ではあるが、如何せん私に仕事が集中し過ぎている。
 父から貰った手紙を手に一度、アングロサクソン家の屋敷へと戻る。
 アリーシャとガリオンも呼んでおいた。
 当事者になるフリック、ロイド、メアリー、アリーシャを私の執務室に呼ぶ。
 ガリオンに限っては、来たければくれば良いが楽しい話ではないとだけ前置きをしておく。
 当事者とガリオン、そして連れ帰ったフェディーラを集めて結論から話し始めた。
「彼は、ロジャー・フェディーラ。わたくしの補佐官です。先に結論を伝えるわ。フリック、貴方は彼に同行してサポートと護衛をしなさい。ロイド、フリック不在の間は貴方がアングロサクソン家筆頭執事長補佐に任命します。メアリーは、未熟者のロイドのフォローをお願いします。アリーシャ、貴女は侍女科から魔法科への編入をしなさい。殿下の監視が仕事になります。これが辞令書ですわ」
 それぞれ一枚ずつ彼等に渡すと、全員から大きなため息を返された。
「畏まりました。しかし、何の説明もなしにでは具体的な仕事が分かりかねます。説明をお願いしても宜しいでしょうか?」
「そうね。フリックの言う通りだわ。端的に言えば、オブシディアン家を潰したツケを払えってことね」
「お嬢様、端的過ぎです」
 抑揚のない声でメアリーに指摘され、私は具体的に事の経緯を話をした。
「まず、わたくしがベアトリズを引き取った後にオブシディアン家の悪事が露見し、爵位や領地など全て国へ没収された。ここまでは、理解出来て?」
 私の問いに、皆コクリと頭を一度縦に振る。
 私は、更に話を続けた。
「その領地はどうするか? という問題に行き当たり、私に白羽の矢が立った。理由は、二つ。一つ目は、昔から父の手伝いをして領地運営についてはある程度の知識を有している。二つ目、ユーフェリア教会が奴隷として売買していた先がオブシディアン家だった。ナリスとも奴隷の件で交流があるそうよ。わたくしとして、理由二の方が重要と捉えているわ。地に落ちた信頼回復をしている最中に旧オブシディアン領で好き勝手されたら堪ったものじゃない。その為に、お父様に無理を言って人事異動をして貰ったのよ。フリックに関しては、一時的に私の手伝いをして貰うからアングロサクソン家から支払われる給金とは別で同じ額の給金を用意しているわ。メアリーとロイドにも負担をかけるから、特別手当という形で纏まったお金を渡します。アリーシャは、調教中の殿下のお守りを任せるためだけに学科を変更することを申し訳なく思っているわ。給金を出すわけにはいかないけれど、ボーナスは出してあげる」
「……なあ、俺は? 何でアリーシャだけ魔法科へ編入にするんだ?」
 納得出来ないと抗議するガリオンに、私は首を傾げた。
「貴方、将来は大総統になりたいのでしょう? それを優先しなさい。アリーシャ一人で足りうるから、貴方を騎士科から魔法科へ編入させることもないと判断したのよ」
「女に対して平気で手を上げるような屑の傍にアリーシャを置いておけるか! 俺も編入する」
 夢よりも妹を取ったガリオンに、私はこうなることをある程度予想はしていた。
「分かりました。では、貴方も一緒に魔法科へ編入して貰います。編入試験に落ちるようなことは無いと信じていますよ。私は、飛び級を使って中等部と高等部を卒業して院生として学園に席を置く予定です」
「それって大丈夫なんですか? リリアン様は、アルベルト殿下の抑止力として態々クラスを同じにされたんですよね?」
 話が矛盾しないかと首を傾げるアリーシャに、私は噛み砕いて説明した。
「私のやらかした事で、状況が変わったのですよ。まさか、少し突いただけでオブシディアン家が崩壊どころか消滅するとは予想外です。その責任を取って領地運営をすることになりました。王妃様から直々のご指名とあれば、お断りなんて論外ですわ。これから試験やら論文やらで多忙を極めますの。領地運営のために物理的に王都から離れることもあるでしょう。その間、折角躾けてマシになった犬が元の駄犬に戻ったら今までの苦労が水の泡と化しますわ。お金と甘言が大好きな方ですから、わたくしが少し目を離した隙に何を仕出かすか分からないのです。アリーシャとガリオンには、殿下の監視をお願いします」
 ニッコリと笑みを浮かべて言い切ると、ガリオンは引き攣った顔で呟いた。
「どこまでも信用ねぇな、あの馬鹿王子」
 耳敏い私がそれを聞き逃すはずもなく、
「三つ子の魂百までと言いますからねぇ。そう簡単に根本的な性質は変わらないものです。ガリオン、不用意な発言には気を付けなさい。付け込まれましてよ」
 そう指摘すると、彼はバツの悪そうな顔になった。
「一月後にアリーシャとガリオンは、魔法科の編入試験を受けて貰います。明日、殿下に二人を紹介しますので心積もりはしておいて下さい」
「監視役と言っても、お嬢と違って俺等は鉄拳制裁したら不敬罪どころの問題じゃなくなるぜ。どうするんだよ?」
「その辺りは、殿下本人から許可を貰いますわ。やりようは、幾らでもありますからね。ヘリオト商会のカタログは、来春までのデザイン画を描き上げておきます。今まで通り城下に連れ出して写真撮影をして下さいね。詳細は、電話で指示を出しますので大丈夫でしょう」
 私の収益の三分の二は、ヘリオト商会の売り上げに掛かっている。
 領地経営如きで商会の仕事をストップするわけにはいかない。
 可愛い天使たちの為に、お金はいくらあっても足りないのだ!
「了解した。ローラン様とシンディーラ様の写真は?」
「勿論、撮るに決まっているでしょう! あの子達は、ヘリオト商会のキッズモデルなのよ。何より可愛い天使たちが、一番輝ける洋服を作るのが私の使命なの!! 本当は、離れたくないけども自分の不始末は自分で拭って、フェディーラに任せられると思ったらさっさと戻って来るわよ」
 やっと一緒に暮らせると思った矢先に学園へ入学することになり、泣く泣く家を出たというのに今度は領地運営のために僻地へ飛ばされるとか鬱憤が溜まる一方だ。
 赤ちゃんの頃から私がデザインした服を着せていたし、これからも私がデザインした服しか着せない!
 モデルも0才からなので、モデル歴も長い。
 私と違ってクリッとした可愛い目で愛らしい顔立ちをしている。
 ヘリオト商会でのキッズ部門の稼ぎ頭だ。
 撮影は、趣味と実益を兼ねたものだ。
 お金はいくらあっても足りないし、写真は私が会えなかった時の成長記録でもある。
「優先順位は、一に天使たち。二に駄犬。三・四は仕事。五は休息! フリックとフェディーラは残って私と今後の事を話しましょう。それ以外は、戻って良いわ」
 そう言ってアリーシャ、ガリオン、ロイド、メアリーを部屋から追い出した。
 私は手帳を開いて、スケジュールを確認しながら試験を受けるタイミングや順調に事が進んだ場合、旧オブシディアン領へ向かう日程を決めた。
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