お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

文字の大きさ
108 / 181
エルブンガルド魔法学園 中等部

エバンス兄妹を紹介しました

しおりを挟む
 飛び級と併せて中・高等部の卒論と卒業試験、院生入試試験を一ヶ月で行うことになったのだが、まだやるべき事が一つあった。
 それは、私の代わりにお目付け役として派遣するアリーシャとガリオンの紹介だ。
 ガリオンは、何度か顔を合わせたことがある。
 向こうは覚えてないかもしれないが、私と決闘するに至った元凶の一人だ。
 騎士科のガリオンと侍女科のアリーシャを連れて、教室へと足を踏み入れた。
 一瞬、私の方に視線が集中する。
 まあ、それもそうだろう。
 普通は、他学科の人間が入ること自体おかしいのだ。
 余程の事情が無い限り入らない。
 云わば縄張りのようなものを、私の従僕が侵しているのだから身構えるのも当然のことだろう。
「おい、リリアン。何だ、そいつらは」
 最初に声を掛けて来たのは、やはりと言うべきかアルベルトだった。
「これからお話致しますわ。その前に……殿下、言葉遣いに気を付けて下さいと何度言えばご理解頂けるのでしょうか?」
 グッと拳に魔力を集めて机を軽く叩くと、木っ端みじんに粉砕した。
 ニコニコと笑みを浮かべながら、拳をチラつかせると青い顔で言い直している。
「リリアンさん、その方達はどのようなご用件でここに来られたのでしょうか?」
 若干、違和感のある言葉遣いだがアルベルトにしては及第点をあげよう。
 拳を降ろし、二人を紹介する。
「侍女科のアリーシャ・エバンス、騎士科のガリオン・エバンスです。魔法科への編入試験を受けますので、一ヶ月後にはクラスメイトになる者達ですわ」
「ガリオン・エバンスです。リリアン様にお願いをして、顔合わせだけでもと思い挨拶にきました。クラスメイトになった場合は、仲良くして下さい」
 大きな猫を被ったガリオンの言葉遣いに鳥肌が立った。
 キモイ! キモ過ぎる!!
 ギロッとガリオンを睨むと、奴はしたり顔で笑っている。
 女子生徒達は、ワイルド系イケメンに騙されてポーッと顔を赤らめていた。
「アリーシャ・エバンスと申します。私もこちらへ編入するので、クラスメイトとして良い関係を築きたいと思っております。宜しくお願いします」
 制服の裾を摘まみ軽く腰を落とし会釈をしている。
 洗礼された礼儀作法に、男女ともにアリーシャに見とれている。
 彼女は、愛くるしい美少女だ。
 さぞモテるだろうが、中身は結構良い性格をしているので同年代のクラスメイトくらい手玉に取りそうだ。
 美形兄妹が編入してくることに、クラスメイトのテンションがおかしいことになっている。
「彼等を紹介するだけではないのだろう?」
「あら、殿下にしては鋭い質問ですわね」
 アルベルトの言葉に、私は純粋に関心した。
 馬鹿を体現しているアルベルトが、深い思考を持つとは考えていなかったからだ。
「わたくしは、所要で学園を暫く離れることになりましたの。殿下の傍に二人を付けようと思いまして、編入させることにしました」
「貴女が居なくても、私は一人でも大丈夫だ」
 私の言葉に憤慨するアルベルトに、拳を見せると黙った。
 本当に学習能力の無い奴だ。
「本当に? レポートや課題を一人でこなせるなら、わたくしもここまで致しませんわ」
「……」
 その言葉にアルベルトは黙った。
 黙らざるえなかった。
 それもそうだろう。
 このクラスで出されるレポートですら苦戦するのだ。
 試験などが絡んできたら、一人ではどうにもならないだろう。
 頼みの綱である学友も、自分のことで精一杯になるのを見越した上で、私がエバンス兄妹を送り込んでいるのだと解釈したようだ。
「騎士科と侍女科では、学ぶ内容も異なるが途中からの編入で付いていけるものなのか?」
「わたくしの従僕は、その程度のこと造作もなく出来て当然でしてよ。彼等は、幼い頃からわたくしと共に学んできた学友ですわ。秀才と名高いジャスパー様と同じクラスに編入出来るくらいの知識は要してます。ご安心なさって」
「……貴女から聞くと無性に腹が立ちますね」
「誉め言葉として受け取っておきましょう。彼等は、わたくしの代わりだと思って下さいませ。殿下が道を踏み外した時は、全力で軌道修正させて頂きます。宜しいですね」
 凄味が増した笑みでアルベルトに微笑むと、青ざめた顔で彼は頭を縦に振った。
「では、こちらにサインを」
 ピランと一枚の紙を取り出し、アルベルトにサインと血判を要求した。
 渋られたので、売り出し前の新製品の化粧セットをプレゼントすると耳打ちしたら、すんなりとサインと血判をくれた。
 本当に馬鹿である。
 書類に不備は無いか確かめて、鞄の中に仕舞う。
「例の物は、後で寮に届けますわ。わたくし達は、編入の事を先生とお話しなければなりませんの。殿下、申し訳ありません。それを片しておいて下さいませ」
 粉砕した机を指さして言い残すと、私はさっさとエバンス兄妹を連れて教室を後にした。
 教室を出て、人通りがない廊下を歩いているとガリオンが口を開いた。
「おいおい、あれでも一応王子だろう。あんな扱いして良いのかよ。それ以前に、机壊して大丈夫なのか?」
「寄付金はたんまりと弾んでますから、机の一つや二つ壊したところで苦情なんて来ませんよ。来たところで、駄犬の躾と言えば納得するでしょう」
 フンッと鼻で嗤うと、アリーシャが苦笑いを浮かべながら苦言を呈した。
「だからと言って、物を壊すのは良くないわ。あれでは、完全に調教しているようなものじゃない」
「え? 調教しているのよ。アリーシャ、何を今更なことを言うの。普通に噛み砕いて説明しても十話したことを一も理解出来ない相手なのよ。言って聞かせて理解出来ないのなら、殴って聞かせて理解させるのが当然の摂理でしょう。まだ、魔物の方がお利巧だと断言出来るわ。まあ、何はともあれアレが何か仕出かしたら殴ってでも止めなさい」
「それは、無理があるんじゃないか? 俺、不敬罪と暴行罪のコンボで牢屋に入りたくないんだけど」
「私も同感」
 嫌そうにする二人に対し、私は先ほどアルベルトにサインと血判をさせた紙を見せて言った。
「殿下が学園または、国家にとって不利益な行動や言動を取った場合は教育的指導の範囲内の体罰と説教は暴言・暴力に値しない旨の署名を貰ってあるから大丈夫」
「うわぁ……やることがえげつない」
「手口が詐欺だわ」
「失礼ね。ちゃんと書類に目を通さないのが悪いのよ」
「いや、この書類は神言しんごんで書かれているから読める人間は限られてくるだろう」
「そうね。神言しんごんの中でも比較的簡単な文字で書いてあげているのよ。この私が、本気で書いたら魔法省の所長でも読めないんじゃないかしら」
 漢字を多用するだろうし、意味すら理解出来ないだろう。
 スミスでも、まず無理だと断言できる。
「さっさと手続きを済ませるわよ。飛び級出来ても、これじゃあ意味がないわ。誰かあの駄犬を引き取ってくれる人いないかしら」
 十代前半で領地経営とか無理ゲー過ぎる。
「不在の間は、俺等が何とかすっから頑張れよ。師匠もいるし、サクッと終わるんじゃねぇの?」
「終われば苦労しないっつーの。フリックの仕事は、あくまでフェディーラの監視と観察。ついでに護衛ね。それ以外は望んでないわ」
 旧オブシディアン領が、どのような状態かによっては仕事が長期化する可能性がある。
 私がその場に居ない程度には機能しないと、身動きが全く取れなくなるのだ。
 ナリスとの繋がりも気になるし、最悪を想定して行かなければならない。
 そうこうしている内に学園長室の前に着いた。
 大きく深呼吸をして、コンコンとノックすると中から返事が返って来た。
「リリアン・アングロサクソン及び、ガリオン・エバンス、アリーシャ・エバンスです。入室の許可をお願いします」
「入りなさい」
 ガチャッと部屋の鍵が開き、ドアが自動で開く。
 片眼鏡をかけた学園長が、白い髭を撫でながら手招きをした。
「待っていたよ。君の御父上から話は聞いている。リリアンは飛び級で院生に、エバンス兄妹は魔法科への編入だったね」
「はい。仰る通りです」
 そう答えると、校長は髭を撫でながら少し考え込んだ。
「エバンス兄妹については、入学時の適性検査やテストでもっと上のクラスでも良いと思っている。ただ、リリアンに関してはいきなり院生まで飛び級となると、前例がないのだよ」
「それは存じあげておりますわ。わたくしの抱えている事情で、時間の融通が最も利くのが院生でしたので選ばざる得なかったと申しましょうか」
 大公家の娘が、出席日数が足りずに留年とかなれば経歴に傷がついてしまう。
 私の可愛い天使たちが、学園に入学した時にそれでからかわれたとなれば相手を殺してしまうかもしれない。
「いくら首席で入学したとはいえ、学ぶことは多いだろう。中等部の三学年なら飛び級を許可しよう」
 話が通じない。
 学園に通っているのは勉強のためではなく、人脈作りのためだ。
 この学園で学ぶことはない。
 寧ろ、スミスのところで殆どの課程を学んだと言っても良いだろう。
「お言葉ですが、リチャード・スミス氏をご存じですか?」
「大賢者のスミス先生か。勿論、知っておるぞ。それと飛び級に何が関係あるのかな?」
「スミス先生に真言を教えたのは、わたくしでしてよ。この学園に入学したのは、殿下のお守りと人脈作りのためだけですわ。義務がなければ、通っておりません」
 そう啖呵を切ると、校長は鳩が豆鉄砲を食ったようポカーンとした後、笑い出した。
「ハハハハハ、これは随分と大見得を切った嘘を吐く。そんなバレバレの嘘を吐くものでは無いよ。君が、あの大賢者から師事を受けていることは有名な話だ。スミス氏に真言を教えたと大法螺を吹くのは止めたまえ」
「嘘ではありません。直接スミス先生にお聞きになったら如何です? 今、ここに来ていただきましょうか? わたくしにとって、この学園で学ぶことは何もありませんの。義務だから仕方なく通っているだけなのですわ」
 学園長の言い草に腹が立ち、精霊にスミスを連れてこられるかと聞くと「出来るの~」と可愛らしい返事をされたので、連れて来てくれと頼んだら、物理的に連れてきた。
 土の精霊がスミスの動きを封じ、風の精霊がスミスの身体を浮かして人間ロケット宜しく飛んできた。
 スミスが咄嗟にかけた防壁魔法がなければ、その場でお陀仏になっていたかもしれない。
 窓を突き破って入って来たスミスに、私は制服のスカートの裾を摘まんで軽く挨拶をした。
「スミス先生、お久しぶりですわ。突然、呼び立てて申しわけありません。どうしても、スミス先生の証言が欲しくて精霊達にお願いして連れてきて貰ったんです」
「……そういう事でしたか。私でなければ、死んでましたよ」
「次回からは、もっと優しく連れてくるようにお願いします」
 テヘペロと軽く誤ると、スミスは大きな溜息を吐いた。
「それで、何の証言をしたら良いのかね?」
「私が、先生に真言を教えたことをですわ。諸事情で学園を一時的に離れる必要が出来ましたの。時間的に融通が利く院生へ飛び級しようと思ったのですが、学園長が大法螺と決めつけてくるんです。なので証言者として来て頂いた次第です」
 そう説明すると、成るほどとスミスは頷いた。
「学園長、彼女の言っていることは事実です。私が賢者の称号を得られたのも、彼女が真言を教えてくれたからです」
「貴方は、彼女に言わされているだけなのではないのですか?」
 その発言に、精霊達が殺気立った。
 散々コケにしたのもあって、「殺っちゃう?」「殺っちゃおうよ」と不穏なことを言い始めている。
 ダメだと抑えているが、ポルターガイストが起きたかのように物が飛び交い蝋燭の火は轟轟と燃え盛る。
「リリアン、精霊達を静めなさい」
「静めてますよ。殺されないだけマシだと思って下さいませ」
 私がGOサインを出したら、殺す勢いだ。
 殺さないように抑えている。
「スミス氏、どういうことですか? 説明して下さい!!」
「どうもこうも、彼女は聖女ですよ。神の愛娘、精霊の愛し子と呼ばれています。事前に通達があったはずです。精霊達がこうして怒ると言うことは、彼女を全面的に否定したからでしょう。彼女は、院生として十分な成果を上げるでしょう。私が保障します。高等部の卒業論文とテストを受けさせ合格すれば院生に飛び級させてあげれば宜しいのでは?」
「そんな前例はありません!」
「前例云々言う前に死んでしまうと思いますよ?」
 その言葉で学園長が折れ、私は高等部の卒業論文と試験を受け院生の飛び級に成功した。
 ちなみにそのテストは、高等部で行うような内容ではなく、魔法省の入試の問題だと発覚したのは随分と後のこととなる。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...