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エルブンガルド魔法学園 中等部
キャロルの葛藤
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私は、キャロル・チャイルド。
チャイルド侯爵家の次女だ。
リズベット・オブシディアンの遊び相手として付き従って早六年。
彼女の愚行が引き金になり、オブシディアン家は消滅した。
最初の頃はいい気味だと思っていたが、リズベットの境遇が詳らかになると、そんなことは口に出すのも憚られた。
保守派の後ろ盾であるオブシディアン家を失って、いよいよ貴族界は改革派に飲まれるのかと戦々恐々としていたが、リリアンが綺麗に事態を収めてしまった。
エマ・レイス経由で、私を保守派のトップになれと言ってきたのだ。
リリアンが開いたお茶会に最初に呼ばれた人という肩書もあり、彼女が『友人』と公言してしまったものだから何とも複雑な関係になってしまった。
普通、政敵の娘に対して『友人』と言うだろうか。
暫くそんなことを悶々と考えていたが、保守派の勢力がこれ以上削がれては、今後の貴族界で生き抜くのは厳しい部分もある。
お膳立てをされてしまった以上は、断るとオブシディアン家のように地図上から消されてしまうのではないかと思い提案を受ける事にした。
誰もなりたがらない白薔薇の会長を就任し、補佐としてエマ・レイスを置くことにした。
すると、リリアンから就任祝いが贈られてきたのは予想外も良い所である。
エマ・レイスも同じように副会長の座に就いたことで、就任祝いの品を貰っている。
しかし、贈られた物の差はハッキリと出ていた。
彼女から贈られたのは、ヘリオト商会が販売している万年筆だ。
ご丁寧に名前まで彫られた一本中金貨一枚は下らない代物をポンと寄こしてくる。
エマ・レイスに贈られた万年筆も私が貰ったものに比べればグレードは下がるが、高級品であることには変わりはない。
「……あの人は、私に何を期待しているのかしら?」
何度自問自答したか分からない。
エマ・レイスをリリアンが目に掛けるのは分かる。
年齢にそぐわぬ才女だ。
自分はと言えば、どこにでもいる平凡な貴族令嬢だ。
リリアンの審美眼の基準が全然分からない。
オブシディアン家から解放されたことは喜ばしいが、逆に保守派筆頭として据えられることになるとは思わず、そのプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
そんな鬱々とした毎日を送っていた私のもとに、厄介事が舞い込んできた。
白薔薇の会で使っているサロンに、リリアンの侍女が訪ねて来たのだ。
帰れと追い返したいのをグッと堪え、彼女を招き入れると鞄から取り出した手紙を私とエマに手渡していった。
「主よりお手紙を届けに参りました」
そんなもの見れば分かる。
見たくない。
チラッとエマの方を見ると、ペーパーナイフで開封して中身を確認しているではないか。
他の会員達も固唾を呑んで、こちらの様子をジッと見つめている。
いよいよ後には引けなくなり、私もペーパーナイフで封を切り中身を取り出し読み進めると見なければ良かったと激しく後悔した。
内容は、問題児のコレット嬢の素行について注意を促して欲しいとのことだった。
正直、コレットとアルベルトの醜聞が学園内を賑わせようと私には関係ない。
何故なら、アルベルトはリリアンの婚約者であり、自分には何の関係もないからだ。
コレットがアルベルトだけに纏わりついていれば手紙を突き返すことも出来ただろう。
そう出来ない理由をしっかりと書かれており、私は思わず淑女としてあるまじき言葉を発していた。
「マジかよ……」
ボソッと呟いた言葉は、多分誰の耳にも聞こえなかったと思う。
エマは我関せずを貫いているので、特にどんな言葉遣いであっても何も言ってこないだろう。
「この手紙の内容は本当なのかしら?」
「はい、本当です。殿下以外にも深い仲にある方々が何人もいらっしゃいます。我が主は王命で学園から離れており、私共では身分の壁が障害となり殿下の御心に届けることが出来ません。また、彼女のせいで傷ついたご令嬢が多数いらっしゃいます。コレット嬢を野放しにするのは、色々と宜しくない状況を齎すと主は考え協力を申し出た形で御座います」
顔色一つ変えずに淡々と話すリリアンの侍女の噂は、私も聞いている。
最近は、教育的指導と称してハリセンなるものでアルベルトをしばき倒している姿を幾度も見ていた。
顔色一つ変えずに公爵家を地図から消してしまうリリアンの侍女だけあって、胆は大変座っているようで実に恐ろしい。
「……そうね。放置するのは、確かに問題ですね。エマは、この件についてどう思いますか?」
「リリアン様の手紙によると、婚約者のいる殿方にまで手を出しているとあります。これ以上、風紀を乱されては学園の名に傷がつきますので協力して排除した方が良いと判断します」
その言葉を聞いて、やっぱりかと内心で溜息を吐いた。
本音は避けたいが、避けて通れそうにもない状況に私は協力関係を結ぶことを了承した。
「話は、分かりました。白薔薇の会からも注意喚起やコレット嬢にそれとなく注意致します。しかし、彼女の行動を抑止できるとは確約出来ませんが宜しいですね?」
「はい、構いません。こちらでコレット嬢が手を出した男子生徒のリストがあります。参考になさって下さいませ。貴重なお時間を頂きありがとう御座いました。失礼いたします」
リリアンの侍女は軽く礼をして、足場やにその場を去って行った。
残された用紙には、誑かされた男子の名前と婚約者の有無。恋人の有無。どこで何をしていたのかまで書かれていた。
「……私達が手を出す必要ないと思うのだけど」
「傍観を決め込むのは、後々宜しくないから手紙を出してきたのだと思いますよ。恐らく、リリアン様は侍女達を使って浮気の証拠も押さえていると思います。私達がするべきことは、コレット嬢を学園から追放するために動くことだと思いますよ」
エマは、そう言いながら浮気リストに目を通している。
私は、何でこんなことになったのだろうと泣きたくなった。
チャイルド侯爵家の次女だ。
リズベット・オブシディアンの遊び相手として付き従って早六年。
彼女の愚行が引き金になり、オブシディアン家は消滅した。
最初の頃はいい気味だと思っていたが、リズベットの境遇が詳らかになると、そんなことは口に出すのも憚られた。
保守派の後ろ盾であるオブシディアン家を失って、いよいよ貴族界は改革派に飲まれるのかと戦々恐々としていたが、リリアンが綺麗に事態を収めてしまった。
エマ・レイス経由で、私を保守派のトップになれと言ってきたのだ。
リリアンが開いたお茶会に最初に呼ばれた人という肩書もあり、彼女が『友人』と公言してしまったものだから何とも複雑な関係になってしまった。
普通、政敵の娘に対して『友人』と言うだろうか。
暫くそんなことを悶々と考えていたが、保守派の勢力がこれ以上削がれては、今後の貴族界で生き抜くのは厳しい部分もある。
お膳立てをされてしまった以上は、断るとオブシディアン家のように地図上から消されてしまうのではないかと思い提案を受ける事にした。
誰もなりたがらない白薔薇の会長を就任し、補佐としてエマ・レイスを置くことにした。
すると、リリアンから就任祝いが贈られてきたのは予想外も良い所である。
エマ・レイスも同じように副会長の座に就いたことで、就任祝いの品を貰っている。
しかし、贈られた物の差はハッキリと出ていた。
彼女から贈られたのは、ヘリオト商会が販売している万年筆だ。
ご丁寧に名前まで彫られた一本中金貨一枚は下らない代物をポンと寄こしてくる。
エマ・レイスに贈られた万年筆も私が貰ったものに比べればグレードは下がるが、高級品であることには変わりはない。
「……あの人は、私に何を期待しているのかしら?」
何度自問自答したか分からない。
エマ・レイスをリリアンが目に掛けるのは分かる。
年齢にそぐわぬ才女だ。
自分はと言えば、どこにでもいる平凡な貴族令嬢だ。
リリアンの審美眼の基準が全然分からない。
オブシディアン家から解放されたことは喜ばしいが、逆に保守派筆頭として据えられることになるとは思わず、そのプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
そんな鬱々とした毎日を送っていた私のもとに、厄介事が舞い込んできた。
白薔薇の会で使っているサロンに、リリアンの侍女が訪ねて来たのだ。
帰れと追い返したいのをグッと堪え、彼女を招き入れると鞄から取り出した手紙を私とエマに手渡していった。
「主よりお手紙を届けに参りました」
そんなもの見れば分かる。
見たくない。
チラッとエマの方を見ると、ペーパーナイフで開封して中身を確認しているではないか。
他の会員達も固唾を呑んで、こちらの様子をジッと見つめている。
いよいよ後には引けなくなり、私もペーパーナイフで封を切り中身を取り出し読み進めると見なければ良かったと激しく後悔した。
内容は、問題児のコレット嬢の素行について注意を促して欲しいとのことだった。
正直、コレットとアルベルトの醜聞が学園内を賑わせようと私には関係ない。
何故なら、アルベルトはリリアンの婚約者であり、自分には何の関係もないからだ。
コレットがアルベルトだけに纏わりついていれば手紙を突き返すことも出来ただろう。
そう出来ない理由をしっかりと書かれており、私は思わず淑女としてあるまじき言葉を発していた。
「マジかよ……」
ボソッと呟いた言葉は、多分誰の耳にも聞こえなかったと思う。
エマは我関せずを貫いているので、特にどんな言葉遣いであっても何も言ってこないだろう。
「この手紙の内容は本当なのかしら?」
「はい、本当です。殿下以外にも深い仲にある方々が何人もいらっしゃいます。我が主は王命で学園から離れており、私共では身分の壁が障害となり殿下の御心に届けることが出来ません。また、彼女のせいで傷ついたご令嬢が多数いらっしゃいます。コレット嬢を野放しにするのは、色々と宜しくない状況を齎すと主は考え協力を申し出た形で御座います」
顔色一つ変えずに淡々と話すリリアンの侍女の噂は、私も聞いている。
最近は、教育的指導と称してハリセンなるものでアルベルトをしばき倒している姿を幾度も見ていた。
顔色一つ変えずに公爵家を地図から消してしまうリリアンの侍女だけあって、胆は大変座っているようで実に恐ろしい。
「……そうね。放置するのは、確かに問題ですね。エマは、この件についてどう思いますか?」
「リリアン様の手紙によると、婚約者のいる殿方にまで手を出しているとあります。これ以上、風紀を乱されては学園の名に傷がつきますので協力して排除した方が良いと判断します」
その言葉を聞いて、やっぱりかと内心で溜息を吐いた。
本音は避けたいが、避けて通れそうにもない状況に私は協力関係を結ぶことを了承した。
「話は、分かりました。白薔薇の会からも注意喚起やコレット嬢にそれとなく注意致します。しかし、彼女の行動を抑止できるとは確約出来ませんが宜しいですね?」
「はい、構いません。こちらでコレット嬢が手を出した男子生徒のリストがあります。参考になさって下さいませ。貴重なお時間を頂きありがとう御座いました。失礼いたします」
リリアンの侍女は軽く礼をして、足場やにその場を去って行った。
残された用紙には、誑かされた男子の名前と婚約者の有無。恋人の有無。どこで何をしていたのかまで書かれていた。
「……私達が手を出す必要ないと思うのだけど」
「傍観を決め込むのは、後々宜しくないから手紙を出してきたのだと思いますよ。恐らく、リリアン様は侍女達を使って浮気の証拠も押さえていると思います。私達がするべきことは、コレット嬢を学園から追放するために動くことだと思いますよ」
エマは、そう言いながら浮気リストに目を通している。
私は、何でこんなことになったのだろうと泣きたくなった。
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