お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

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エルブンガルド魔法学園 中等部

エバンス兄妹の受難9

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 学園長から面倒ごとを押し付けられてしまったというのは語弊があるかもしれない。
 今回の一件で『アルベルトに対する処罰をどうするか』という大事なことを主であるリリアンに相談しなければならなくなった。
 学校から帰宅し、携帯電話の前でアリーシャとガリオンは睨めっこをしている。
 どちらが報告するか擦り付け合っていた。
「兄さんが報告してよ」
「お前がやれよ」
「嫌よ! 怖いもん」
「俺だって怖いわ! こんな下らない案件を相談したら、再教育させられる……」
 ガリオンの言葉に、アリーシャの顔色が更に悪くなる。
 平行線の状態が、もう一時間以上も続いている。
 どうしたものかと頭を悩ませていると、「仕事しろ」のコールが鳴った。
 出たくない気持ちを押し殺しながら通話ボタンを押すと、
「やっと出たわね。何かあったの?」
「あったと言えばありました」
 歯切れの悪い返しに、リリアンは何かを察したようで溜息を吐いている。
「大体予想は着くのだけれど。今、学園はどういう状態なのかしら?」
「コレット嬢は退学になり、ピューレ家へ集団訴訟を起こしました。並行してキャロル様主体でお見合いのセッティングを進めてます」
 アリーシャが現状を説明すると、
「まあ、打倒なところね。お見合いのセッティングは、貴方達の入れ知恵かしら? 学園は、馬鹿について何か処罰を下したりしてないの?」
と痛い所を突っ込まれて、アリーシャは口ごもる。
 ガリオンも同じく無言になり重い沈黙が続いた。
「その様子だと、馬鹿への処遇を学園側が決めかねているということかしら」
「あー……その件で、学園長から相談を受けた。退学以外の方法で、馬鹿ベルトに何らかの処罰を下して欲しいって」
 ガリオンが重い口を開き、学園長からの伝言を伝えると底冷えのする声が電話の向こうから聞こえてくる。
「はぁぁぁあん? 学園で起きた事なんだから、学園長が処罰を決めるべきでしょう。コレット同様に退学させれば良いじゃない。あの無能な老害ジジイ……退任に追い込んでやろうかしら」
 予想はしていたが、向こうも相当忙しいのかリリアンの口調が崩れている。
「リリアン様、落ち着いて下さい。私達も一度は断ったんです。王族を退学させることは出来ない。でも、相応の罰を与えないと周囲が納得しない。学園も王族相手に対立したくない。それが本音なんでしょう」
 アリーシャの疲れ切った声に、リリアンもトーンダウンした。
「老害ジジイが、考えそうなことね。わたくしが、仮に処罰の内容を決めたとして学園側は従うの? 知恵をクレクレされても、タダではないの。わたくしはね、勤務時間外労働や業務外の労働をしたくないのよ!」
 物凄く嫌という雰囲気だけは、ビシビシと伝わってくる。
「退学以外ならどんな処罰でも良いと誓約書にサインと血判を貰っているから大丈夫です」
「ふぅん、そう……なら良いわ。今から言うことをメモして頂戴」
「は、はい。兄さん、紙とペン」
 アリーシャが、ガリオンに紙とペンを用意させる。
 ガリオンに携帯電話を持たせて、アリーシャはメモを取る準備を整えて続きを促した。
「準備出来ました」
「馬鹿についての処分から言うわ。一つ、剃髪にする。二つ、騒動の証拠を押さえる為にかかった費用の全額負担。三つ、今回の件でお見合いにかかる費用の全額負担。四つ、コレット嬢への訴訟にかかる費用の全額負担」
 ハゲにする以外は、全て金銭的な負担になっている。
 請求するとなれば、大金貨数枚は下らない。
 アルベルト個人の資産は、そんな大金は持っていないだろう。
「一つ目以外は、無理があるんじゃないですか? 馬鹿ベルトの資産大金貨一枚も満たないと思いますよ」
「馬鹿ベルトに金でも貸さない限り返済は無理だろう」
「馬鹿には、ビタ一文死んでも貸さないわよ。製造元に請求するに決まっているでしょう。王室費から払って貰うわ。一括は無理と言ってくるなら、金利30%で貸付して立て替えてあげる。ああ、浮気に関しては婚約破棄の時に上乗せするから別で請求するけどね!」
 王室費とは、王族が日常生活や公務などに必要なお金の事である。
 国庫から規定された額が捻出されているため、その金額の中で慎ましく生活しなければならない。
 そこからお金を引っ張ってくるとリリアンは言うのだから、限界まで絞り取る気でいるのだろう。
 一括ではなく分割でという辺りが、何ともリリアンらしい。
「学園の対応に対する責任は、入学・編入試験の見直しと老害ジジイの退任要求をするわ。馬鹿の製造者が在籍中にもやらかしておいて、今回もお咎めなしだと思ったら大間違いよ! 老害ジジイ退任の署名を全校生徒から集めなさい。後任は、スミス先生に良い人を紹介して貰う」
 学園長の退任は、これでほぼ確定したようだ。
 学園側への責任追及をすると言っている以上、止めても無駄だろう。
 学園の対応の甘さに対する不満もある為、リリアンが主導で動けば署名も簡単に集まる。
 しかし、当人が居ない状態でどこまで集まるか予測がつかない。
「納得するでしょうか?」
「多分、しないでしょうね。フリックに任せて、一旦戻るわ。学園長に、こちらの意向は伝えておきなさい。私が戻るまでに根回しは済ませておきなさい。三日後には、着くと思うから。じゃあ、忙しいから電話切るわね」
 リリアンは、言いたいことだけ言うとブチッと電話を切ってしまった。
 アリーシャとガリオンは顔を見合わせて、大きな溜息を吐いた。
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