お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

文字の大きさ
145 / 181
エルブンガルド魔法学園 中等部

エバンス兄妹の受難10

しおりを挟む
 リリアンが提示したアルベルトへの処罰と学園側の責任追及について、正式に返答したら案の定と言うべきか納得出来ないと反発が出た。
 アルベルトの件に関しては、一筆貰っているため即時実行することは可能だ。
 しかし、学園側への責任問題については簡単には行かないのは容易に分かる。
 現に、学園長は顔を真っ赤にして怒っているのだから。
「学園側が我が主に頼らず、正当な処罰を下していれば退任にはならなかったと思います」
「リリアン様は、三日後に戻られます。それまでに、身辺整理をされた方が良いですよ」
 アリーシャとガリオンの言葉に、学園長は茫然自失になっている。
 リリアンがやると宣言した以上、学園長の退任は確定したも同然だ。
 オブシディアン家が地図上から消したように、学園長の座を取り上げるのは彼女にとって容易いだろう。
「では、要件は伝えましたので失礼します」
「失礼します」
 ガリオンとアリーシャは、席を立って適当に話を切り上げ学園長室を後にした。


 放送室を占拠して、学園長辞任と入試・編入試験の改定についての署名活動を呼び掛けた。
 今現在、アルベルトは謹慎処分という非常に軽い罰を与えている事実に納得がいかない生徒たちがいる。
 彼等の声を誇張して騒ぎ立て伝えることで、周囲が同調して同じ方向に進むだろうとリリアンが言っていた。
 『集団ヒステリー』を疑似的に起こさせることこそ、アリーシャとガリオンの役割とも言える。
 署名活動を始めて一日も経たない内に、学園の四割の署名が集まった。
 アリーシャは、ヘリオトロープの会のサロンで集まった署名を確認しているとオリバーが分厚い封筒を渡してきた。
「これは?」
「お見合いに掛かる諸経費の請求書です」
 持っていた署名の紙束は一旦横に置き、封筒を覗き見ると三センチは超える請求書の束に眩暈がした。
 ザッと中身を確認して眩暈に加えて頭痛と胃痛がしてきた。
「凄い請求書の束ですね。ああ、項目ごとに仕分けされてて見やすいです。オリバー、ありがとう」
「どう致しまして。しかし、本当にこれだけの費用を負担されるのですか?」
 アリーシャは目元を押さえながら、ガリオンに無言で請求書の束を手渡した。
 見合いを学園で行うことにしているため、場所代はかからない。
 それ以外の釣書代や食事代、給仕を雇うお金など、かなりの大金が動くイベントだ。
 ガリオン達の指示に従って手配したオリバーだが、裕福な貴族であっても易々と出せる金額ではないことは確かだ。
「一時的な立て替えをするだけで実質払うのは別の人。その辺りも、後日ちゃんと説明があるから気にしないで」
「……そうですか」
 無用な詮索はするなとアリーシャに釘を打たれて、オリバーは追及するのを止めた。
 彼女と手下手に藪を突いて蛇を出すような真似はしたくないのだろう。
「オリバーさん、他に上がってくる請求書はありますか?」
「いえ、お渡ししたのが全てです。追加注文があれば別ですが」
「了解です。仕事が早くて助かります。ヘリオトロープの会を立ち上げた張本人が不在でどうなるかと思いましたけど、オリバーさんが上手く回してくれて助かります」
「それな! こっちは、馬鹿と尻軽の対応に追われてたからなぁ。この件が終わったら、特別賞与貰ってゆっくりしたいぜ」
「兄さん、言い方! 本音と建て前は、ちゃんと使い分けなさいよ」
「へいへい。それより、署名の方はどうなってるんだ?」
 アリーシャの指摘に、ガリオンは気もそぞろな返事を返す。
「コレット嬢の被害者は、中等部内で納まっていたから過半数を割るには少し難しい数字ね。高等部や院生にも伝手を使って頼んでみているけど、書いて貰えるかは分からないわ」
「学園長と顔を合わせるのは、特定の行事でしかないからピンとこない人の方が多いだろう」
「他人事のように思っている人間は多いわね。実際は、明日は我が身ってことに何故気付かないのか不思議」
 コレット嬢のようなケースは稀である。
 しかし、全くないとも言い切れないのが世の中だ。
 この学園で、過去に似たような事案があったのだから。
「騎士科は縦、侍女科は横の繋がりが強いと聞いてます。その二つの科からアプローチをしてみては如何でしょうか」
 オリバーの提案に、アリーシャとガリオンは顔を見合わせて言った。
「それだ!」
「それです!」
 そう言うやいなや、慌しく席を立ちどこかへ行ってしまった。
 残された請求書の束と署名の束を手に取り、オリバーは大きな溜息を吐いた。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...