お前は、ヒロインではなくビッチです!

もっけさん

文字の大きさ
158 / 181
オブシディアン領で労働中

これでも聖女なんですよ?

しおりを挟む
「ごく一部の孤児院で、人身売買が行われているのはご存じ?」
「はい。理由は色々とありますが、奉公と里親に出されて音信不通になった子が多いようですね」
「話を一からする必要がなくて済むから楽ね。どちらのケースにしても、本人が家出したと言えば、探す手立てはありません。裕福な家庭で大切に育てられていたのであれば、本気で捜索に乗り出しそうなものですが。最初から奴隷として売るために引き取ったのなら、探さないでしょうね」
 ユーフェリア教会管轄の孤児院で、そんなことが罷り通っている。
 全てではない。
 本当に一部の馬鹿どもが犯した罪のしわ寄せが、今私に来ているのだ。
 聖女なんて肩書要らねぇ。
 本気マジで返したいとさえ思う。
「一理ありますね。しかし、どうやって買い戻すつもりですか?」
「わたくしの管轄下にある孤児院は、全て洗っております。流石に過去何十年前もの分まで遡れません。十年前までに売られた者のみを探し出して買い戻して下さいな。お金は、こちらで用意致しますわ。当人が、今の生活を望んでいるのであれば無理強いはしないと誓います」
 奴隷に身を落として幸せな生活を送っているのであれば、それはそれで良い。
 しかし、全ての者が幸せとは程遠い世界で生きていると考えてしまうのは、他の奴隷商会を見て来たからだろうか。
「買い戻した後は、どうなさるおつもりですか? 買い戻して終わりでは、彼らが奴隷というのは変わりありません。私の商会で雇える者にも限りはあります」
「わたくしが、仕事を斡旋しますわ。その前に、ある程度の教育を施しますが」
 向上心のある人は好きだ。
 賢ければなお良し。
「教育ですか……」
「あら、不安そうな顔ですね。わたくし、これでも優しいのですよ。聖女ですから」
 自分で聖女とか言っちゃうあたり、もう中二病をこじらせていることを公言してるみたいで嫌だ。
 でも、我慢。
 これも、お仕事の一環だと思えば良い。
 ルーゼウスは、私の顔をジーッと見ている。
 なかなか鑑定出来ないのだろう。
 私は、チラッとフリックを見ると
「ルーゼウス殿、他言無用でお願いします。他言すれば、明日は冷たい水の中にいるかもしれませんよ」
 などと、フリックは空恐ろしいことを笑みを浮かべて言った。
 流石、暗殺者。言うことが過激すぎる。止めないけど。
「誰にも漏らしたりしません!」
 ルーゼウスから言質を取り、風の精霊に頼んで遮音魔法をかけて貰う。
 鑑定眼鏡を外して、言った。
「どうぞ、鑑定なさって下さいませ。フリック、貴方も眼鏡を一旦外しなさい」
 私の護衛としての格の違いを見せてやりなさいと心の中で呟いた。
 フリックも眼鏡をテーブルの上に置き、二人してルーゼウスの顔を伺う。
 いや~、真っ青を通り越して真っ白になっている。
 特に、フリックを見た時の顔は恐怖で引き攣っていて笑えた。
「もう宜しいかしら?」
 そう確認すると、ルーゼウスの頭が縦に高速で動いている。
 お前は、あかべこか!?
 暫し沈黙が流れた後、ルーゼウスはハァと大きな溜息を吐いた。
「……好奇心を出すんじゃなかった」
「それは人間の摂理ですわ。仕方がありません。お互いのことは、これで隠し事なしということで良いでしょう。そうそう、貴方や貴方の部下がわたくしの利益を損じるようなことがあれば精霊うちの子達が黙ってませんのでお気をつけ下さいませ」
 上位精霊ならともかく、下位精霊は基本的に自由奔放な幼稚園児並みの頭しかない。
 私絡みになると、結構過激なことをやらかしかねないので一応忠告をしておいた。
「勿論です! 私はまだ死にたくありません」
「なら、宜しくてよ。今、貴方が抱える奴隷たちを見せて貰っても良いかしら? わたくしが求める奴隷が居れば買うわ。勿論、即金で」
 パンと両手を叩いて、先程の緊張した空気を消し去り、商売の話へと切り替える。
 奴隷を買うという言葉に、ルーゼウスの顔色も戻り仕事と割り切ったのか、しっかりと切り替えが出来ている。
 こいつ、欲しいわ。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...