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ヒーローとの出会い

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トーマスにくっついて足を踏み入れた部屋は、予想はしていてもなお、顎が外れそうなほど口を空けずにはいられない、広々とした造りとなっていた。
ここは本当にマンションか? と疑いたくなるリビングとえげつない部屋数。シンプルな部屋は整然としており、真っ白な床は照明に反射して輝いている。

さすがに日本。オレもトーマスも靴は履いていない。しかしスリッパも履いていない。なぜなら靴下がびしょびしょだからだ。

「素足でいいの?」
「本当はイヤ。だけど仕方ない。まず、服を脱いでシャワーを浴びなくちゃ。ほらほら、こっちだ」
「見ず知らずのオレに、人んちのシャワーを先に使えっていうの?」

強引にオレの背中を押し、シャワールームへと詰め込む。困惑満面のオレに向かってトーマスは鷹揚に頷いた。

「もちろん。きみがシャワーを浴びている間、替えの服や下着を用意しなくては。あぁ安心して、下着は新しいものが数着あるから。それと……」
「なに?」
「きみのグチャグチャになっているカバン、乾かしておくね」
「ああっ!!」
「ハハハ、ごゆっくり、ハウル」
「ごゆっくりじゃ…って、今なんて」

頭の筋に刺さる単語に、反射的に顔が扉へと向くが、トーマスはすでに姿を消していた。


押し込まれたシャワールームはなんとガラス張りだった。
動物の見せ物小屋みたいに隔離された小空間の中には清潔なタイル。トーマスが普段使用しているのであろうシャンプーやコンディショナーは日本の、よくCMで流れている物のため雰囲気がぶち壊されているのが残念だ。

温かい湯を浴びると、全身の鳥肌が熱に食らいついてため息が出た。
オレは一体、何をしているんだろう。死のうと思ったのに、どうしてこんなことに。
助けてくれた人とはいえ、見ず知らずの男の家に大胆にも転がり込んでしまったわけだ。死のうと思っていたのだし、この先何が起ころうとも最終的に行き着く先が同じだというのなら構わないってことだろうか。

今しがた出会ったばかりの顔を思い出そうとするも、ぼやけてよくわからない。だけれど、深みのある声だけは鼓膜にぴったりと張り付いている。どこかで聞いたことがあるような柔らかな低い声。流暢な英語。

「ハイネ、ヘンリー? 着替え、置いておくよ」
「ありがとう、ミスター」

たった今脳内再生していた声が真後ろから聞こえてきて、オレはビクッと肩を震わせた。振り返るも、そこにはカゴに盛られた服だけ。同時に悲鳴を飲み込む。
そういえばここは、ガラス張りだった。
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