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50 お月見パーティー アメリア編(2)
美しいドレスを着て、美しくお化粧をする。
今日はクラースの恋に終止符を打ち、新しい出会いをするのだ。
自分に言い聞かせるが、やはり寂しいものは寂しい。
侍女が髪を結い上げ、美しく飾ってくれた。
「ありがとう」
「行ってらっしゃいませ」
侍女に見送られて、私の護衛が私の後を付いてくる。
「ねえ、貴方達、私の命が危険になったら助けてくれる?」
「勿論でございます。この命に替えて、お守りします」
「私達はアメリア様に忠誠を誓っております。ご安心ください」
「期待しているわ」
私には二人の男性騎士が護衛に就いている。
幼い頃から、私の側に護衛がいたが、何度か人が変わっている。
クラクシオンお兄様のような近衛騎士ではないと思うけれど、それなりに腕は立つのだろう。
誘拐予防の為に、どこに行くにも護衛が付いている。
廊下を歩いていると、シリピリーお姉様が歩いてきた。
「アメリア、そろそろ行くのね。今日のお月見パーティーは欠席をすることにしたの。楽しんでいらしてね」
「シリピリーお姉様も行けばいいのに」
「今日、ゴルドから伝書鳩が来るのよ」
「まあ、お手紙が届くのね」
「ええ、待ち遠しくて、きっと夕方になると思うのよ。夜はお返事を書きたいし、明日の朝には、鳩を放したいの」
「忙しいわね」
「そうね」
お姉様は、忙しいと言っておいでだけれど、それでも幸せそうだ。
貴族学校の頃、お姉様はゴルド様に見初められて、猛烈なアタックをされていた。
素敵な殿方だと思ったけれど、私は異国にお嫁に行くのは嫌だった。
まるで人質ではないかと思ったのだ。
勿論、そんな失礼な事はお姉様に言った事はないけれど、異国に捕らわれているマリアナの捜査をしている最中の事でしたから、わざわざ苦労をしなくても……と。
苦労……なのね。
私が選ぼうとした道も苦労の多い道なのね。
むしろ、お姉様のように愛されていない私は、お母様が言うように、茨の道なのね。
「お姉様、遅れてしまいますので、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
お姉様は、笑顔で私に手を振ってくださいました。
幸せそうな笑顔を見て、今の自分自身を振り返る。
このまま我を通すのか、諦めるのか。
まだ、私は16歳なのだから、慌てなくても……。
それでも、一つ年上のお姉様が結婚をするのに、婚約者さえ決まっていないなんて、やはり恥になるのかしら?
「アメリア、行くぞ」
「はい、お父様」
「綺麗にしてきたわね。とても似合いますよ」
「お母様、ありがとうございます」
今日は新品のドレスを着てきました。
特注品のドレスが出来上がってきたので、着心地も確かめたかったのよ。
馬車に乗ると、馬車は走り出しました。
パーティーが行われるシャイン公爵家までは、それほど離れてはいません。
ですが、顔合わせがありますので、他のお客様がいらっしゃる前に、出掛けた方がいいとお父様が決められました。
シャイン公爵家の邸は、当然ですが宮殿とは違って、普通の貴族の邸です。
それでも、お父様がおっしゃるには、大きな邸だそうです。
庭も広く庭園もあるようです。
薄暗くなってきた庭を歩きながら、お父様が、私の肩を抱く。
「約束だけでもいい。まだ結婚はしなくてもいい。まだ16歳だ。愛情は芽生えてくる。今はまだ種を撒くだけでいい。そのうち、芽が出て愛は育っていく物だ」
お父様は愛情について、話してくださいました。
愛は墜ちる物だと思っていましたが、お父様の言うような愛情もあるのでしょうか?
お父様の言うような愛情があるのかどうかは、分かりません。
「シェック殿は、しっかりとした男だ。父が見定めた。父を信じてみなさい」
「……」
わたしはお返事ができませんでした。
分かっているのです。
でも、好きな人を忘れて、直ぐに他の殿方と恋愛を考えろと言われても、そうですかと頷くことは難しいと思いませんか?
「アメリア、父も母もアメリアの幸せを一番に考えておる。信じてみなさい」
お父様はいろんなお言葉で、私を宥めていらっしゃいます。
私はそんなに頑固でしたか?
頑固でしたね。
お父様もお母様もクラクシオンお兄様も困らせています。
素直に、もっと素直にならなくては、幸せはやってこないのかもしれません。
クラースの手紙は捨てたのですから、後は忘れるだけです。
忘れるための時間をください。
「これは、皇帝陛下、よくおいでくださいました」
「シャイン公爵、招待感謝する。今日は娘のアメリアを連れてきた」
「アメリア様、ようこそ、おいでくださいました。私の後継を任せるシェックです。どうぞお見知りおきを」
「シェックと申します。アメリア様にお目にかかるのを楽しみにしておりました」
シェック殿は丁寧にお辞儀をした。
よくお顔を見ると、確かに見たことがある顔だった。
何度かダンスを踊った事がある。
背も高く、精悍なお顔をして、それでもはにかむようにしている表情は、柔らかく優しげだ。
「アメリア様、以前に何度もダンスを踊って戴きました。覚えておいでですか?」
「はい」
「それは嬉しい」
「……」
続く言葉が出てこない。
「息子はアメリア様の事を見初めて、是非、お知り合いになりたいと言っております」
「好青年ではないか。アメリアと並ぶと美男美女、いい組み合わせだ」
お父様は、私をシェック殿の近くに寄せる。
シェック殿は嬉しそうな顔をなさっている。
シェック殿のご両親も皆さん笑顔だ。
笑顔ではないのは、私だけ。
なんだか滑稽だわ。
お膳立てされた見合いの席で、一人でふて腐れているのは、私だけ。
遠くにクラクシオンお兄様とマリアナが仲良く一緒にいるのが見えた。
その背後に、お兄様の近衛騎士達が控えている。
クラースがいないか探したが、やはり、そこにいなかった。
落胆と絶望が押し寄せてきた。
それほど、嫌いなら、もう私はクラースなど要らない。
「もういいわよ。お父様の言うとおりに致します。どうぞ、不束ものですが、シャイン公爵、シャイン公爵夫人、シェック・シャイン公爵令息、よろしくお願いします」
私は社交界用の笑みを浮かべて、これ以上ない綺麗なお辞儀を披露した。
腐っても皇女ですもの。
「シェック殿、お庭を案内してくださいますか?」
「勿論、案内させて戴きます」
お父様もお母様も嬉しそうな笑顔を浮かべている。
シェック殿にエスコートされて、私達は庭に出た。
いつの間にか日が暮れて乳白色の満月が優しい光を放っている。
月の周りには星も出ている。
私の初恋は終わり、新たな恋が始まる。
「貴方に心に想うお方がいることを知っていますが、私はアメリア様をずっと想っておりました。私を選んでくださった事を後悔させません」
私は私をエスコートしているシェック殿の顔を見上げた。
近くで見る彼は、なかなかハンサムだった。
鍛えられた体を持つクラースより、小柄に見えるけれど、並んでみると身長はあまり変わらないかもしれない。
ときめきはまだないけれど、私は変わっていくのだろうか?
シェック殿は、私の顔を見て、穏やかに微笑んだ。
こんなに優しい微笑みは、クラースは向けてはくれなかった。
親兄姉を除いて、初めてかもしれない。
私も微笑みを浮かべてみた。
シェック殿は拳を口元に運び、コホンと咳払いをした。
もしかしたら、照れているのかしら?
明るいところで、見てみたかった。
「私の事は、どうかシェックとお呼びください」
「それなら、私の事はアメリアと呼んでください」
人混みから木々の奥に入ると、そこは人がいなかった。
「折角ですので、二人だけで月見でもしようと思いまして、準備をしておりました」
白い丸テーブルの上には、何かが載っている。
椅子が二脚あり、彼はそのうちの一脚を引いてくれた。
「どうぞ、アメリア様」
「ありがとう」
私はその椅子に座った。
テーブルの上にはお皿があり、その上にドーム型の蓋が被さっている。それが幾つかあった。
シェック殿はテーブルの上の蓋を外す。
出てきたのは、サンドイッチと果物だった。
「一緒に食べましょう」
「ええ、戴くわ」
飲み物は、果実水のようだ。
シェック殿が自ら、グラスに注いでくれる。
私の護衛は、少し下がった場所に立っていた。
きっと私達の声は聞こえないだろう。
二人だけの宴は、月を見ながら、サンドイッチに挟まれたチーズの話で盛り上がった。
このチーズは、シェック殿の領地で作られているのだという。
香りのよい、食べやすいチーズが挟まれたサンドイッチで、いつの間にか私はシェック殿の話を夢中で聞いていた。
今日はクラースの恋に終止符を打ち、新しい出会いをするのだ。
自分に言い聞かせるが、やはり寂しいものは寂しい。
侍女が髪を結い上げ、美しく飾ってくれた。
「ありがとう」
「行ってらっしゃいませ」
侍女に見送られて、私の護衛が私の後を付いてくる。
「ねえ、貴方達、私の命が危険になったら助けてくれる?」
「勿論でございます。この命に替えて、お守りします」
「私達はアメリア様に忠誠を誓っております。ご安心ください」
「期待しているわ」
私には二人の男性騎士が護衛に就いている。
幼い頃から、私の側に護衛がいたが、何度か人が変わっている。
クラクシオンお兄様のような近衛騎士ではないと思うけれど、それなりに腕は立つのだろう。
誘拐予防の為に、どこに行くにも護衛が付いている。
廊下を歩いていると、シリピリーお姉様が歩いてきた。
「アメリア、そろそろ行くのね。今日のお月見パーティーは欠席をすることにしたの。楽しんでいらしてね」
「シリピリーお姉様も行けばいいのに」
「今日、ゴルドから伝書鳩が来るのよ」
「まあ、お手紙が届くのね」
「ええ、待ち遠しくて、きっと夕方になると思うのよ。夜はお返事を書きたいし、明日の朝には、鳩を放したいの」
「忙しいわね」
「そうね」
お姉様は、忙しいと言っておいでだけれど、それでも幸せそうだ。
貴族学校の頃、お姉様はゴルド様に見初められて、猛烈なアタックをされていた。
素敵な殿方だと思ったけれど、私は異国にお嫁に行くのは嫌だった。
まるで人質ではないかと思ったのだ。
勿論、そんな失礼な事はお姉様に言った事はないけれど、異国に捕らわれているマリアナの捜査をしている最中の事でしたから、わざわざ苦労をしなくても……と。
苦労……なのね。
私が選ぼうとした道も苦労の多い道なのね。
むしろ、お姉様のように愛されていない私は、お母様が言うように、茨の道なのね。
「お姉様、遅れてしまいますので、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
お姉様は、笑顔で私に手を振ってくださいました。
幸せそうな笑顔を見て、今の自分自身を振り返る。
このまま我を通すのか、諦めるのか。
まだ、私は16歳なのだから、慌てなくても……。
それでも、一つ年上のお姉様が結婚をするのに、婚約者さえ決まっていないなんて、やはり恥になるのかしら?
「アメリア、行くぞ」
「はい、お父様」
「綺麗にしてきたわね。とても似合いますよ」
「お母様、ありがとうございます」
今日は新品のドレスを着てきました。
特注品のドレスが出来上がってきたので、着心地も確かめたかったのよ。
馬車に乗ると、馬車は走り出しました。
パーティーが行われるシャイン公爵家までは、それほど離れてはいません。
ですが、顔合わせがありますので、他のお客様がいらっしゃる前に、出掛けた方がいいとお父様が決められました。
シャイン公爵家の邸は、当然ですが宮殿とは違って、普通の貴族の邸です。
それでも、お父様がおっしゃるには、大きな邸だそうです。
庭も広く庭園もあるようです。
薄暗くなってきた庭を歩きながら、お父様が、私の肩を抱く。
「約束だけでもいい。まだ結婚はしなくてもいい。まだ16歳だ。愛情は芽生えてくる。今はまだ種を撒くだけでいい。そのうち、芽が出て愛は育っていく物だ」
お父様は愛情について、話してくださいました。
愛は墜ちる物だと思っていましたが、お父様の言うような愛情もあるのでしょうか?
お父様の言うような愛情があるのかどうかは、分かりません。
「シェック殿は、しっかりとした男だ。父が見定めた。父を信じてみなさい」
「……」
わたしはお返事ができませんでした。
分かっているのです。
でも、好きな人を忘れて、直ぐに他の殿方と恋愛を考えろと言われても、そうですかと頷くことは難しいと思いませんか?
「アメリア、父も母もアメリアの幸せを一番に考えておる。信じてみなさい」
お父様はいろんなお言葉で、私を宥めていらっしゃいます。
私はそんなに頑固でしたか?
頑固でしたね。
お父様もお母様もクラクシオンお兄様も困らせています。
素直に、もっと素直にならなくては、幸せはやってこないのかもしれません。
クラースの手紙は捨てたのですから、後は忘れるだけです。
忘れるための時間をください。
「これは、皇帝陛下、よくおいでくださいました」
「シャイン公爵、招待感謝する。今日は娘のアメリアを連れてきた」
「アメリア様、ようこそ、おいでくださいました。私の後継を任せるシェックです。どうぞお見知りおきを」
「シェックと申します。アメリア様にお目にかかるのを楽しみにしておりました」
シェック殿は丁寧にお辞儀をした。
よくお顔を見ると、確かに見たことがある顔だった。
何度かダンスを踊った事がある。
背も高く、精悍なお顔をして、それでもはにかむようにしている表情は、柔らかく優しげだ。
「アメリア様、以前に何度もダンスを踊って戴きました。覚えておいでですか?」
「はい」
「それは嬉しい」
「……」
続く言葉が出てこない。
「息子はアメリア様の事を見初めて、是非、お知り合いになりたいと言っております」
「好青年ではないか。アメリアと並ぶと美男美女、いい組み合わせだ」
お父様は、私をシェック殿の近くに寄せる。
シェック殿は嬉しそうな顔をなさっている。
シェック殿のご両親も皆さん笑顔だ。
笑顔ではないのは、私だけ。
なんだか滑稽だわ。
お膳立てされた見合いの席で、一人でふて腐れているのは、私だけ。
遠くにクラクシオンお兄様とマリアナが仲良く一緒にいるのが見えた。
その背後に、お兄様の近衛騎士達が控えている。
クラースがいないか探したが、やはり、そこにいなかった。
落胆と絶望が押し寄せてきた。
それほど、嫌いなら、もう私はクラースなど要らない。
「もういいわよ。お父様の言うとおりに致します。どうぞ、不束ものですが、シャイン公爵、シャイン公爵夫人、シェック・シャイン公爵令息、よろしくお願いします」
私は社交界用の笑みを浮かべて、これ以上ない綺麗なお辞儀を披露した。
腐っても皇女ですもの。
「シェック殿、お庭を案内してくださいますか?」
「勿論、案内させて戴きます」
お父様もお母様も嬉しそうな笑顔を浮かべている。
シェック殿にエスコートされて、私達は庭に出た。
いつの間にか日が暮れて乳白色の満月が優しい光を放っている。
月の周りには星も出ている。
私の初恋は終わり、新たな恋が始まる。
「貴方に心に想うお方がいることを知っていますが、私はアメリア様をずっと想っておりました。私を選んでくださった事を後悔させません」
私は私をエスコートしているシェック殿の顔を見上げた。
近くで見る彼は、なかなかハンサムだった。
鍛えられた体を持つクラースより、小柄に見えるけれど、並んでみると身長はあまり変わらないかもしれない。
ときめきはまだないけれど、私は変わっていくのだろうか?
シェック殿は、私の顔を見て、穏やかに微笑んだ。
こんなに優しい微笑みは、クラースは向けてはくれなかった。
親兄姉を除いて、初めてかもしれない。
私も微笑みを浮かべてみた。
シェック殿は拳を口元に運び、コホンと咳払いをした。
もしかしたら、照れているのかしら?
明るいところで、見てみたかった。
「私の事は、どうかシェックとお呼びください」
「それなら、私の事はアメリアと呼んでください」
人混みから木々の奥に入ると、そこは人がいなかった。
「折角ですので、二人だけで月見でもしようと思いまして、準備をしておりました」
白い丸テーブルの上には、何かが載っている。
椅子が二脚あり、彼はそのうちの一脚を引いてくれた。
「どうぞ、アメリア様」
「ありがとう」
私はその椅子に座った。
テーブルの上にはお皿があり、その上にドーム型の蓋が被さっている。それが幾つかあった。
シェック殿はテーブルの上の蓋を外す。
出てきたのは、サンドイッチと果物だった。
「一緒に食べましょう」
「ええ、戴くわ」
飲み物は、果実水のようだ。
シェック殿が自ら、グラスに注いでくれる。
私の護衛は、少し下がった場所に立っていた。
きっと私達の声は聞こえないだろう。
二人だけの宴は、月を見ながら、サンドイッチに挟まれたチーズの話で盛り上がった。
このチーズは、シェック殿の領地で作られているのだという。
香りのよい、食べやすいチーズが挟まれたサンドイッチで、いつの間にか私はシェック殿の話を夢中で聞いていた。
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