8 / 51
8 ここは!
しおりを挟む
アクセレラシオン様と一緒に食事に向かった。
手を繋ぎ、広い邸の中を歩く。
騎士が大勢守っている。
やはり普通の邸とは違うような気がして、「ここはどこ?」とアクセレラシオン様に聞いても、「我が家だ」と答えるばかりで、わたしはキョロキョロと周りを見る。
「腹が減ったであろう?」
「お腹はペコペコよ。何日、食べてないかしら?」
「寝ていた期間は三日だ」
「それなら、四日ぶりの食事よ。どんな物が食べられるのかしら?」
「そんなに楽しみにしているのなら、特別料理でも頼めばよかったな?」
「そんな贅沢な物は要らないのよ。もともと、わたしの料理はパンとスープだけでしたもの。時々、お肉や卵料理ももらえましたけれど、わたしの食事は、家族とは別メニューですもの。修道女になったときに、困らないように、修道院で食べる食事を出されていたのよ」
「なんという家族だ?」
「わたし、ここを追い出されたら、この国で働かせてもらって生きて行こうと考えているのよ」
「なんだと?ここを出て行くつもりなのか?」
「だって、ここは、普通の邸とは違うような気がするの。ここにいるなら、わたしに仕事をください」
「何を言っているのだ?俺はミルメルを妻にしたいと考えているのだ」
「だって、アクセレラシオン様、ずっとはぐらかしていらっしゃるでしょう?何か秘密があるのかしら?」
「そうだな、父上と母上に会ってもらってから話そう」
「はい、勝手に滞在させていただいているので、お詫びをしなくてはなりません。足の治療もしていただきました」
「まったく、堅苦しい。例えば、この国で働くとしよう。闇の魔術は使えるのか?」
「闇を吸い取ることしかできません」
「それでは、仕事はない。俺が魔法を教えてやろう」
「本当ですか?それでしたら、今日から師匠と呼ばせてください」
アクセレラシオン様は、頭を抱える。
どうしたのかしら?
何か変なことを言ってしまったかしら?
「ミルメル、好きだ」
「はい、わたしもアクセレラシオン様を好きです。こんなに親切にしてくださった方はおりませんでした。心より感謝をしております」
「そうではなく、結婚をして欲しいのだ」
「結婚ですか?まだ出会って、数日ですわ。決めるのは早いと思うの」
「俺はミルメルがこの国に来るのを16年も待ち続けていたのだぞ?」
「だとしても、お目にかかったのは、これが初めてですわ。結婚は慎重に相手を決めるべきですわ。わたしは、魔法も使えませんし、何の取り柄もありません」
「取り柄ならあるだろう?」
「何でしょう?」
「この話は、後だ、ダイニングルームに着いた。部屋に入るが、多分、父上と母上が、ミルメルに会いたくて、いると思う。いいか?」
「え?そんないきなりですか?」
「挨拶は早めにしておきなさい」
「はい」
わたしは大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
「では、行くぞ?」
「はい」
アクセレラシオン様はノックをなさった。
中からメイド服を着た女性が扉を開けてくれた。
「どうぞ、お入りください」
メイドはお辞儀をすると、中に入っていった。
「おいで」
アクセレラシオン様は、わたしの手を繋いで、ダイニングルームの奥へと入っていく。
広い。
ここは、ダイニングルームですよね?
まるで、ダンスでも踊れるような広いスペースがあります。
テーブルが見えると、そこには、わたしの両親くらいの男性と女性が座っていました。
「父上、母上、ご挨拶が遅くなりました」
「やっと目覚めたか?」
「はい、ご心配かけました」
アクセレラシオン様は、わたしを二人の前まで連れていった。
「ミルメル、両親もミルメルが眠っている間にお見舞いに来てくださったのだ」
「ミルメルと申します。アクセレラシオン様に助けられて、こちらで治療をしていただきました。ご挨拶もなく、お邪魔してしまい申し訳ございません」
「ようこそ、ミルメル嬢。アクセレラシオンの父のジャスティス・テスティスと申す」
「テスティス?」
なんだかどこかで聞いた事がある。
思考を巡らすと、とんでもないことに気づいた。
なんてことでしょう!
「もしかして、ここは、テスティス王国ですか?」
「その通りだ、なんだ、アクセレラシオンは何も教えていないのか?私は、この国の国王だ。隣にいるのは、王妃の」
「ミルメルさん、急に驚いたわね。私は王妃のフラーヴァです。アクセレラシオンの母よ。ようこそ、我が国へ」
「は、はい。洞窟を出たらテスティス王国に到着ですか?確か、ヘルティアーマ王国からテスティス王国は、かなり離れた国だったはずですが?」
「それは、私が説明しよう。あの洞窟は、何百年も昔に戦争が起きた時に掘られた物だ。時空が歪んでおるのだ。その洞窟も役目を終えて放置されてきたが、耐久性がなくなってきて、
そろそろ潰れるであろうと言うときに、アクセレラシオンが洞窟をわたってヘルティアーマ王国に行ったのだ。そこで、いるはずのない闇の属性持ちの少女を見つけてきた。ヘルティアーマ王国は、闇属性を毛嫌いしている国だ。その国にいては少女は殺されてしまうかもしれないと、唯一の逃げ道である洞窟を魔力で崩れるのを防いでおったのだ」
「アクセレラシオン様、ありがとうございます」
わたしは不思議な洞窟の謎を知って、アクセレラシオン様の優しさを改めて知ったのだ。
「妖精が、ずっと呼んでいたのに、それに答えずに、ずっと目を背けていました。わたしは16歳になって、父に修道院に入れられると思って妖精の後を追って、逃げ出したのです。アクセレラシオン様、ありがとうございます」
わたしは、お辞儀をして、改めて、アクセレラシオン様にもお辞儀をした。
「命の恩人です。この先、アクセレラシオン様に恩返しをしたいと思います。誠心誠意、心を込めて勤めさせていただきます」
やっと理解できた。
ここは、王宮だったのだ。
それも闇属性しかいないと言われているテスティス国の。
そういえば、医師が闇属性しかいないと言っていた事を思い出した。
なんと鈍い頭だろうと、自分の不甲斐なさを改めて思う。
「ミルメル嬢、其方は、妖精が見えるのか?」
「はい、掌大の可愛い妖精が、この部屋にもたくさんいます。国王陛下の頭の上にも可愛い女の子の妖精が座っています。王妃様の肩の上に男の子の妖精が座っています。テーブルの上にも、数匹、浮かんでおります」
「アクセレラシオン、妖精が見える子だと知っていたのか?」
「はい。直ぐに気づきました。なので、放っておけなかったのです」
「なるほど」
国王陛下は、王妃様と頷いておられる。
妖精が見えることは特別なのだろうか?
目の前に飛んできた妖精は、わたしの肩に座って、クスクス笑っている。
何を笑っているのだろう。
わたしは、肩の上の妖精を指先で、撫でてみる。
『くすぐったいわ』
『国王陛下が驚いているよ』
『当然よ。私達の姿が見えるのは、特別な証拠よ』
「特別ってなに?」
肩にいる妖精に聞いてみると、アクセレラシオン様がコホンと咳払いをした。
それから、わたしの肩の上の妖精を、指で弾いた。
妖精はクルクル回った後に、アクセレラシオン様の方に飛んで、今度はアクセレラシオン様の頭に座って、髪で遊びだした。
なんとも愛らしい。
「妖精が見える者は、テスティス王国の中でも特別な者だけなのだ」
「特別ですか?」
国王陛下は、目元を細めて微笑んでおられる。
「まさか異国に妖精の申し子がいるとは、どんなに我が国の者を探していても見つかるはずもない」
「そうですわね。アクセレラシオンも知っているなら、きちんと報告しなさい」
「俺が洞窟に魔術を放っていたことが、全て物語っているだろうに」
「アクセレラシオンが教えないから、無駄なパーティーを開いて、妖精の申し子を探しまくっていただろうに」
「そのパーティーのお陰で、姉上の婚約者が見つかったのですから、無駄ではなかったではありませんか?」
「碌でもない婚約者だがな」
アクセレラシオン様と国王陛下はお話をしていらっしゃいます。
デイジーお姉様には、婚約者がいらっしゃるのね。
あんなに美しくて、明るいお姉様ですから、素敵な婚約者なのでしょう。
それにしても、妖精の申し子とは何でしょう?
不思議に思って、隣の席のアクセレラシオン様を見ると、妖精達がアクセレラシオン様の髪を編んでいるのです。
何匹も妖精が集まって、器用に編んでいます。
長髪ではないのに、とっても器用ですわ。
編まれた髪は、五本以上あります。
わたしは思わず、クスクスと笑ってしまいました。
妖精は悪戯好きのようです。
「どうした?ミルメル」
「いいえ、何でもありませんわ」
このまま放置していたら、どんな髪型になるのでしょう?
わたしの視線で、アクセレラシオン様は頭を手でくしゃくしゃとしてしまいました。
「妖精は、アクセレラシオンを主人だと思っているのだよ?」と、国王陛下がおっしゃりました。
「主人ですか?」
「テスティス王国は、妖精に守られた国なのだ。妖精と意思疎通ができる者が、国王になると決まっている。王妃は声が聞こえる。見えて、言葉を聞き取れる者は少ない。妖精の姿が見えて、言葉を交わすことができるのは、我が一族だけだ。文献にしか残っていないが、大昔、妖精王の娘を我が国の王妃に招いたことがある。それから、妖精が見える子が生まれるようになった。アクセレラシオンが生まれた時に、アクセレラシオンは、妖精王となる子だと妖精に告げられた。もう一つ、妖精の申し子が生まれると妖精が騒いだ。その者を見つけて、アクセレラシオンの伴侶にするようにとお告げがあった。だが、いつ生まれるか分からない。どこに生まれるかも分からないと妖精達は言う。国王である私は、妖精が見える令嬢を探していたが、どこにもいない。見えると嘘をつく者もいたが、その者は妖精達が見極める。我が国では妖精に愛されない者は、破滅を招く。虚言を言った者は、自滅していった。そうして今に至る。アクセレラシオンには、まだ婚約者はいない。だが、見つかったようだ」
「ミルメルは間違いなく、妖精の申し子です。ミルメルが生まれた時に、俺はその存在が分かった。出会うために、自分に力を付けていった。10年前にやっと出会った時は、まだ幼かったが、直感的に彼女に惹かれました。妖精達も間違いないと言っておりました」
「10年も前に出会っていたのなら、我が国に連れてくればよかったではないか?何か間違いが起きるかもしれなかった」
「無理矢理連れてきては、誘拐になります。特に他国の令嬢ですので慎重になるべきだと思ったのです。それに、妖精の申し子ならば、自分の意思で、妖精の声に従ってくれる事を信じていました」
「まったく、気の長い話ね」
王妃様は少々、呆れていましたが、お顔は優しげです。
「と言うことで、ミルメルは俺の妻にします。よろしくお願いします。まずは挨拶だけで。ミルメルに食事を頼む」
メイドがワゴンを押してやって来た。
「お待たせしました」
そう言うと、テーブルの上に食事を並べていく。
「また、話をしよう。ミルメル嬢、ゆっくりお食べ」
国王陛下と王妃様は、席を立ち、ダイニングルームを出て行こうとしている。
「心遣い、感謝致します」
わたしは急いで立ち上がると、お辞儀をした。
笑顔の二人が、通り過ぎていく。
「ミルメル、座りなさい」
「はい」
わたしは椅子に座ってから、アクセレラシオン様を少し睨んだ。
「お話、聞いていませんでしたわ。突然でビックリしたわ」
「先に話したら、逃げ出すんじゃないかと思ったのだよ」
「逃げ出したりは「しないと言えるか?」」
「逃げ出したかもしれません」
わたしは正直に答えた。
かなりビックリする内容だった。
10年前は、アルテアお姉様が舞を舞った年だった。
あの時も、わたしは一生懸命に舞の練習をしていたけれど、アルテアお姉様はそれほど練習をしていなかった。
それなのに、選ばれたのはアルテアお姉様だった。
勝ち誇ったアルテアお姉様のお顔を思い出す。
わたしは、あの時、とてもショックを受けていたのだ。
毎年、広場から少し離れた高台に座って、舞うお姉様を見ていた。
確かに、あの時、誰かに話しかけられて、慰めてもらった。
わたしはお人形を持っていた。
そのお人形が話しをしてくれたのだと思っていたのだ。
洞窟の前まで行ったのは、祭りの翌日だったような気がする。
子供の頃の記憶を遡っていると、アクセレラシオン様が「お食べ」とスプーンを口元に運んでくれていた。
「食べられるわ」
「まずは一口、口を開けて」
わたしは言われるまま、口を開けた。口の中に匙が入ってきた。
スープだ。
口の中に広がる風味がよかった。
「なんて、美味しいのかしら」
「口に合ってよかった。さあ、ゆっくり食べなさい」
「はい、いただきます」
わたしは、自分のカトラリーを使って、ゆっくり食べ始めた。
どれも美味しくて涙が出てきた。
こんなに美味しい食事は初めてだった。
手を繋ぎ、広い邸の中を歩く。
騎士が大勢守っている。
やはり普通の邸とは違うような気がして、「ここはどこ?」とアクセレラシオン様に聞いても、「我が家だ」と答えるばかりで、わたしはキョロキョロと周りを見る。
「腹が減ったであろう?」
「お腹はペコペコよ。何日、食べてないかしら?」
「寝ていた期間は三日だ」
「それなら、四日ぶりの食事よ。どんな物が食べられるのかしら?」
「そんなに楽しみにしているのなら、特別料理でも頼めばよかったな?」
「そんな贅沢な物は要らないのよ。もともと、わたしの料理はパンとスープだけでしたもの。時々、お肉や卵料理ももらえましたけれど、わたしの食事は、家族とは別メニューですもの。修道女になったときに、困らないように、修道院で食べる食事を出されていたのよ」
「なんという家族だ?」
「わたし、ここを追い出されたら、この国で働かせてもらって生きて行こうと考えているのよ」
「なんだと?ここを出て行くつもりなのか?」
「だって、ここは、普通の邸とは違うような気がするの。ここにいるなら、わたしに仕事をください」
「何を言っているのだ?俺はミルメルを妻にしたいと考えているのだ」
「だって、アクセレラシオン様、ずっとはぐらかしていらっしゃるでしょう?何か秘密があるのかしら?」
「そうだな、父上と母上に会ってもらってから話そう」
「はい、勝手に滞在させていただいているので、お詫びをしなくてはなりません。足の治療もしていただきました」
「まったく、堅苦しい。例えば、この国で働くとしよう。闇の魔術は使えるのか?」
「闇を吸い取ることしかできません」
「それでは、仕事はない。俺が魔法を教えてやろう」
「本当ですか?それでしたら、今日から師匠と呼ばせてください」
アクセレラシオン様は、頭を抱える。
どうしたのかしら?
何か変なことを言ってしまったかしら?
「ミルメル、好きだ」
「はい、わたしもアクセレラシオン様を好きです。こんなに親切にしてくださった方はおりませんでした。心より感謝をしております」
「そうではなく、結婚をして欲しいのだ」
「結婚ですか?まだ出会って、数日ですわ。決めるのは早いと思うの」
「俺はミルメルがこの国に来るのを16年も待ち続けていたのだぞ?」
「だとしても、お目にかかったのは、これが初めてですわ。結婚は慎重に相手を決めるべきですわ。わたしは、魔法も使えませんし、何の取り柄もありません」
「取り柄ならあるだろう?」
「何でしょう?」
「この話は、後だ、ダイニングルームに着いた。部屋に入るが、多分、父上と母上が、ミルメルに会いたくて、いると思う。いいか?」
「え?そんないきなりですか?」
「挨拶は早めにしておきなさい」
「はい」
わたしは大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
「では、行くぞ?」
「はい」
アクセレラシオン様はノックをなさった。
中からメイド服を着た女性が扉を開けてくれた。
「どうぞ、お入りください」
メイドはお辞儀をすると、中に入っていった。
「おいで」
アクセレラシオン様は、わたしの手を繋いで、ダイニングルームの奥へと入っていく。
広い。
ここは、ダイニングルームですよね?
まるで、ダンスでも踊れるような広いスペースがあります。
テーブルが見えると、そこには、わたしの両親くらいの男性と女性が座っていました。
「父上、母上、ご挨拶が遅くなりました」
「やっと目覚めたか?」
「はい、ご心配かけました」
アクセレラシオン様は、わたしを二人の前まで連れていった。
「ミルメル、両親もミルメルが眠っている間にお見舞いに来てくださったのだ」
「ミルメルと申します。アクセレラシオン様に助けられて、こちらで治療をしていただきました。ご挨拶もなく、お邪魔してしまい申し訳ございません」
「ようこそ、ミルメル嬢。アクセレラシオンの父のジャスティス・テスティスと申す」
「テスティス?」
なんだかどこかで聞いた事がある。
思考を巡らすと、とんでもないことに気づいた。
なんてことでしょう!
「もしかして、ここは、テスティス王国ですか?」
「その通りだ、なんだ、アクセレラシオンは何も教えていないのか?私は、この国の国王だ。隣にいるのは、王妃の」
「ミルメルさん、急に驚いたわね。私は王妃のフラーヴァです。アクセレラシオンの母よ。ようこそ、我が国へ」
「は、はい。洞窟を出たらテスティス王国に到着ですか?確か、ヘルティアーマ王国からテスティス王国は、かなり離れた国だったはずですが?」
「それは、私が説明しよう。あの洞窟は、何百年も昔に戦争が起きた時に掘られた物だ。時空が歪んでおるのだ。その洞窟も役目を終えて放置されてきたが、耐久性がなくなってきて、
そろそろ潰れるであろうと言うときに、アクセレラシオンが洞窟をわたってヘルティアーマ王国に行ったのだ。そこで、いるはずのない闇の属性持ちの少女を見つけてきた。ヘルティアーマ王国は、闇属性を毛嫌いしている国だ。その国にいては少女は殺されてしまうかもしれないと、唯一の逃げ道である洞窟を魔力で崩れるのを防いでおったのだ」
「アクセレラシオン様、ありがとうございます」
わたしは不思議な洞窟の謎を知って、アクセレラシオン様の優しさを改めて知ったのだ。
「妖精が、ずっと呼んでいたのに、それに答えずに、ずっと目を背けていました。わたしは16歳になって、父に修道院に入れられると思って妖精の後を追って、逃げ出したのです。アクセレラシオン様、ありがとうございます」
わたしは、お辞儀をして、改めて、アクセレラシオン様にもお辞儀をした。
「命の恩人です。この先、アクセレラシオン様に恩返しをしたいと思います。誠心誠意、心を込めて勤めさせていただきます」
やっと理解できた。
ここは、王宮だったのだ。
それも闇属性しかいないと言われているテスティス国の。
そういえば、医師が闇属性しかいないと言っていた事を思い出した。
なんと鈍い頭だろうと、自分の不甲斐なさを改めて思う。
「ミルメル嬢、其方は、妖精が見えるのか?」
「はい、掌大の可愛い妖精が、この部屋にもたくさんいます。国王陛下の頭の上にも可愛い女の子の妖精が座っています。王妃様の肩の上に男の子の妖精が座っています。テーブルの上にも、数匹、浮かんでおります」
「アクセレラシオン、妖精が見える子だと知っていたのか?」
「はい。直ぐに気づきました。なので、放っておけなかったのです」
「なるほど」
国王陛下は、王妃様と頷いておられる。
妖精が見えることは特別なのだろうか?
目の前に飛んできた妖精は、わたしの肩に座って、クスクス笑っている。
何を笑っているのだろう。
わたしは、肩の上の妖精を指先で、撫でてみる。
『くすぐったいわ』
『国王陛下が驚いているよ』
『当然よ。私達の姿が見えるのは、特別な証拠よ』
「特別ってなに?」
肩にいる妖精に聞いてみると、アクセレラシオン様がコホンと咳払いをした。
それから、わたしの肩の上の妖精を、指で弾いた。
妖精はクルクル回った後に、アクセレラシオン様の方に飛んで、今度はアクセレラシオン様の頭に座って、髪で遊びだした。
なんとも愛らしい。
「妖精が見える者は、テスティス王国の中でも特別な者だけなのだ」
「特別ですか?」
国王陛下は、目元を細めて微笑んでおられる。
「まさか異国に妖精の申し子がいるとは、どんなに我が国の者を探していても見つかるはずもない」
「そうですわね。アクセレラシオンも知っているなら、きちんと報告しなさい」
「俺が洞窟に魔術を放っていたことが、全て物語っているだろうに」
「アクセレラシオンが教えないから、無駄なパーティーを開いて、妖精の申し子を探しまくっていただろうに」
「そのパーティーのお陰で、姉上の婚約者が見つかったのですから、無駄ではなかったではありませんか?」
「碌でもない婚約者だがな」
アクセレラシオン様と国王陛下はお話をしていらっしゃいます。
デイジーお姉様には、婚約者がいらっしゃるのね。
あんなに美しくて、明るいお姉様ですから、素敵な婚約者なのでしょう。
それにしても、妖精の申し子とは何でしょう?
不思議に思って、隣の席のアクセレラシオン様を見ると、妖精達がアクセレラシオン様の髪を編んでいるのです。
何匹も妖精が集まって、器用に編んでいます。
長髪ではないのに、とっても器用ですわ。
編まれた髪は、五本以上あります。
わたしは思わず、クスクスと笑ってしまいました。
妖精は悪戯好きのようです。
「どうした?ミルメル」
「いいえ、何でもありませんわ」
このまま放置していたら、どんな髪型になるのでしょう?
わたしの視線で、アクセレラシオン様は頭を手でくしゃくしゃとしてしまいました。
「妖精は、アクセレラシオンを主人だと思っているのだよ?」と、国王陛下がおっしゃりました。
「主人ですか?」
「テスティス王国は、妖精に守られた国なのだ。妖精と意思疎通ができる者が、国王になると決まっている。王妃は声が聞こえる。見えて、言葉を聞き取れる者は少ない。妖精の姿が見えて、言葉を交わすことができるのは、我が一族だけだ。文献にしか残っていないが、大昔、妖精王の娘を我が国の王妃に招いたことがある。それから、妖精が見える子が生まれるようになった。アクセレラシオンが生まれた時に、アクセレラシオンは、妖精王となる子だと妖精に告げられた。もう一つ、妖精の申し子が生まれると妖精が騒いだ。その者を見つけて、アクセレラシオンの伴侶にするようにとお告げがあった。だが、いつ生まれるか分からない。どこに生まれるかも分からないと妖精達は言う。国王である私は、妖精が見える令嬢を探していたが、どこにもいない。見えると嘘をつく者もいたが、その者は妖精達が見極める。我が国では妖精に愛されない者は、破滅を招く。虚言を言った者は、自滅していった。そうして今に至る。アクセレラシオンには、まだ婚約者はいない。だが、見つかったようだ」
「ミルメルは間違いなく、妖精の申し子です。ミルメルが生まれた時に、俺はその存在が分かった。出会うために、自分に力を付けていった。10年前にやっと出会った時は、まだ幼かったが、直感的に彼女に惹かれました。妖精達も間違いないと言っておりました」
「10年も前に出会っていたのなら、我が国に連れてくればよかったではないか?何か間違いが起きるかもしれなかった」
「無理矢理連れてきては、誘拐になります。特に他国の令嬢ですので慎重になるべきだと思ったのです。それに、妖精の申し子ならば、自分の意思で、妖精の声に従ってくれる事を信じていました」
「まったく、気の長い話ね」
王妃様は少々、呆れていましたが、お顔は優しげです。
「と言うことで、ミルメルは俺の妻にします。よろしくお願いします。まずは挨拶だけで。ミルメルに食事を頼む」
メイドがワゴンを押してやって来た。
「お待たせしました」
そう言うと、テーブルの上に食事を並べていく。
「また、話をしよう。ミルメル嬢、ゆっくりお食べ」
国王陛下と王妃様は、席を立ち、ダイニングルームを出て行こうとしている。
「心遣い、感謝致します」
わたしは急いで立ち上がると、お辞儀をした。
笑顔の二人が、通り過ぎていく。
「ミルメル、座りなさい」
「はい」
わたしは椅子に座ってから、アクセレラシオン様を少し睨んだ。
「お話、聞いていませんでしたわ。突然でビックリしたわ」
「先に話したら、逃げ出すんじゃないかと思ったのだよ」
「逃げ出したりは「しないと言えるか?」」
「逃げ出したかもしれません」
わたしは正直に答えた。
かなりビックリする内容だった。
10年前は、アルテアお姉様が舞を舞った年だった。
あの時も、わたしは一生懸命に舞の練習をしていたけれど、アルテアお姉様はそれほど練習をしていなかった。
それなのに、選ばれたのはアルテアお姉様だった。
勝ち誇ったアルテアお姉様のお顔を思い出す。
わたしは、あの時、とてもショックを受けていたのだ。
毎年、広場から少し離れた高台に座って、舞うお姉様を見ていた。
確かに、あの時、誰かに話しかけられて、慰めてもらった。
わたしはお人形を持っていた。
そのお人形が話しをしてくれたのだと思っていたのだ。
洞窟の前まで行ったのは、祭りの翌日だったような気がする。
子供の頃の記憶を遡っていると、アクセレラシオン様が「お食べ」とスプーンを口元に運んでくれていた。
「食べられるわ」
「まずは一口、口を開けて」
わたしは言われるまま、口を開けた。口の中に匙が入ってきた。
スープだ。
口の中に広がる風味がよかった。
「なんて、美味しいのかしら」
「口に合ってよかった。さあ、ゆっくり食べなさい」
「はい、いただきます」
わたしは、自分のカトラリーを使って、ゆっくり食べ始めた。
どれも美味しくて涙が出てきた。
こんなに美味しい食事は初めてだった。
3
あなたにおすすめの小説
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
「今とっても幸せですの。ごめんあそばせ♡」 捨てられ者同士、溺れちゃうほど愛し合ってますのでお構いなく!
若松だんご
恋愛
「キサマとはやっていけない。婚約破棄だ。俺が愛してるのは、このマリアルナだ!」
婚約者である王子が開いたパーティ会場で。妹、マリアルナを伴って現れた王子。てっきり結婚の日取りなどを発表するのかと思っていたリューリアは、突然の婚約破棄、妹への婚約変更に驚き戸惑う。
「姉から妹への婚約変更。外聞も悪い。お前も噂に晒されて辛かろう。修道院で余生を過ごせ」
リューリアを慰めたり、憤慨することもない父。マリアルナが王子妃になることを手放しで喜んだ母。
二人は、これまでのリューリアの人生を振り回しただけでなく、これからの未来も勝手に決めて命じる。
四つ違いの妹。母によく似たかわいらしい妹が生まれ、母は姉であ、リューリアの育児を放棄した。
そんなリューリアを不憫に思ったのか、ただの厄介払いだったのか。田舎で暮らしていた祖母の元に預けられて育った。
両親から離れたことは寂しかったけれど、祖母は大切にしてくれたし、祖母の家のお隣、幼なじみのシオンと仲良く遊んで、それなりに楽しい幼少期だったのだけど。
「第二王子と結婚せよ」
十年前、またも家族の都合に振り回され、故郷となった町を離れ、祖母ともシオンとも別れ、未来の王子妃として厳しい教育を受けることになった。
好きになれそうにない相手だったけれど、未来の夫となる王子のために、王子に代わって政務をこなしていた。王子が遊び呆けていても、「男の人はそういうものだ」と文句すら言わせてもらえなかった。
そして、20歳のこの日。またも周囲の都合によって振り回され、周囲の都合によって未来まで決定されてしまった。
冗談じゃないわ。どれだけ人を振り回したら気が済むのよ、この人たち。
腹が立つけれど、どうしたらいいのかわからずに、従う道しか選べなかったリューリア。
せめて。せめて修道女として生きるなら、故郷で生きたい。
自分を大事にしてくれた祖母もいない、思い出だけが残る町。けど、そこで幼なじみのシオンに再会する。
シオンは、結婚していたけれど、奥さんが「真実の愛を見つけた」とかで、行方をくらましていて、最近ようやく離婚が成立したのだという。
真実の愛って、そんなゴロゴロ転がってるものなのかしら。そして、誰かを不幸に、悲しませないと得られないものなのかしら。
というか。真実もニセモノも、愛に真贋なんてあるのかしら。
捨てられた者同士。傷ついたもの同士。
いっしょにいて、いっしょに楽しんで。昔を思い出して。
傷を舐めあってるんじゃない。今を楽しみ、愛を、想いを育んでいるの。だって、わたしも彼も、幼い頃から相手が好きだったってこと、思い出したんだもの。
だから。
わたしたちの見つけた「真実の愛(笑)」、邪魔をしないでくださいな♡
海に捨てられた王女と恋をしたい竜王
しましまにゃんこ
恋愛
神とも崇められる最強種である竜人族の竜王フィリクス。彼の悩みはただ一つ。いまだ運命の番が現れないこと。可愛いうさぎ獣人の番といちゃいちゃ過ごすかつての冷徹眼鏡宰相を、涙目でじっとりと羨む日々を送っていた。
雷鳴轟く嵐の夜、遂に彼の耳に長年探し求めていた番の声が届く。夢にまで待ち望んだ愛する番が呼ぶ声。だがそれは、今にも失われそうなほど弱々しい声だった。
そのころ、弱小国の宿命として大国ドラードの老王に召し上げられるはずだったアスタリアの王女アイリスは、美しすぎるゆえに老王の寵愛を受けることを恐れた者たちの手によって、豪華な花嫁衣装に身を包んだまま、頼りない小舟に乗せられ、海の上を彷徨っていた。
必死に抗うものの、力尽き、海底へと沈んでいくアイリス。
(お父様、お母様、役立たずの娘をお許し下さい。神様、我が魂を身許に捧げます……)
息が途切れる最後の瞬間、アイリスは神の姿を見た。キラキラと光る水面を蹴散らし、美しい黄金色の竜が、真っ直ぐにアイリス目指してやってくる。アイリスの国、アスタリアの神は竜だ。アスタリアを作り、恵みを与え守ってくれる、偉大で優しい竜神様。代々そう言い伝えられていた。
(神様……ああ、なんて、美しいの……)
竜と目があった瞬間、アイリスはにっこり微笑み、ゆっくり意識を手離した。
今にも失われそうな愛しい命。フィリクスは自らの命を分け与えるため、アイリスの意思を確認しないまま婚礼の儀式を行うことに。
運命の番としてようやく巡り合った二人。
しかしドラード国では、海に消えたアイリスを失ったことで老王の逆鱗に触れ捕らえられたラナード王子のため、『忘れられた王女』として虐げられていたミイナが、アイリスの行方を追って旅に出る。
醜さゆえに誰にも愛されなかったミイナ。彼女もまた、竜に纏わる数奇な運命を抱えていた。
竜の溺愛と自らの使命に翻弄される立場の違う二人の王女。果たして二人の運命は?
愛の強すぎる竜人族✕愛を知らない不憫系美少女の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
作品はすべて、小説家になろう、カクヨムに掲載中、または掲載予定です。
完結保証。完結まで予約投稿済み。毎日21時に1話更新。
ソウシソウアイ?
野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
政略結婚をすることになったオデット。
その相手は初恋の人であり、同時にオデットの姉アンネリースに想いを寄せる騎士団の上司、ランヴァルド・アーノルト伯爵。
拒否に拒否を重ねたが強制的に結婚が決まり、
諦めにも似た気持ちで嫁いだオデットだが……。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる