精霊王の花嫁(完結)

綾月百花   

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8   ここは!

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 アクセレラシオン様と一緒に食事に向かった。

 手を繋ぎ、広い邸の中を歩く。

 騎士が大勢守っている。

 やはり普通の邸とは違うような気がして、「ここはどこ?」とアクセレラシオン様に聞いても、「我が家だ」と答えるばかりで、わたしはキョロキョロと周りを見る。

「腹が減ったであろう?」

「お腹はペコペコよ。何日、食べてないかしら?」

「寝ていた期間は三日だ」

「それなら、四日ぶりの食事よ。どんな物が食べられるのかしら?」

「そんなに楽しみにしているのなら、特別料理でも頼めばよかったな?」

「そんな贅沢な物は要らないのよ。もともと、わたしの料理はパンとスープだけでしたもの。時々、お肉や卵料理ももらえましたけれど、わたしの食事は、家族とは別メニューですもの。修道女になったときに、困らないように、修道院で食べる食事を出されていたのよ」

「なんという家族だ?」

「わたし、ここを追い出されたら、この国で働かせてもらって生きて行こうと考えているのよ」

「なんだと?ここを出て行くつもりなのか?」

「だって、ここは、普通の邸とは違うような気がするの。ここにいるなら、わたしに仕事をください」

「何を言っているのだ?俺はミルメルを妻にしたいと考えているのだ」

「だって、アクセレラシオン様、ずっとはぐらかしていらっしゃるでしょう?何か秘密があるのかしら?」

「そうだな、父上と母上に会ってもらってから話そう」

「はい、勝手に滞在させていただいているので、お詫びをしなくてはなりません。足の治療もしていただきました」

「まったく、堅苦しい。例えば、この国で働くとしよう。闇の魔術は使えるのか?」

「闇を吸い取ることしかできません」

「それでは、仕事はない。俺が魔法を教えてやろう」

「本当ですか?それでしたら、今日から師匠と呼ばせてください」

 アクセレラシオン様は、頭を抱える。

 どうしたのかしら?

 何か変なことを言ってしまったかしら?

「ミルメル、好きだ」

「はい、わたしもアクセレラシオン様を好きです。こんなに親切にしてくださった方はおりませんでした。心より感謝をしております」

「そうではなく、結婚をして欲しいのだ」

「結婚ですか?まだ出会って、数日ですわ。決めるのは早いと思うの」

「俺はミルメルがこの国に来るのを16年も待ち続けていたのだぞ?」

「だとしても、お目にかかったのは、これが初めてですわ。結婚は慎重に相手を決めるべきですわ。わたしは、魔法も使えませんし、何の取り柄もありません」

「取り柄ならあるだろう?」

「何でしょう?」

「この話は、後だ、ダイニングルームに着いた。部屋に入るが、多分、父上と母上が、ミルメルに会いたくて、いると思う。いいか?」

「え?そんないきなりですか?」

「挨拶は早めにしておきなさい」

「はい」

 わたしは大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

「では、行くぞ?」

「はい」

 アクセレラシオン様はノックをなさった。

 中からメイド服を着た女性が扉を開けてくれた。

「どうぞ、お入りください」

 メイドはお辞儀をすると、中に入っていった。

「おいで」

 アクセレラシオン様は、わたしの手を繋いで、ダイニングルームの奥へと入っていく。

 広い。

 ここは、ダイニングルームですよね?

 まるで、ダンスでも踊れるような広いスペースがあります。

 テーブルが見えると、そこには、わたしの両親くらいの男性と女性が座っていました。

「父上、母上、ご挨拶が遅くなりました」

「やっと目覚めたか?」

「はい、ご心配かけました」

 アクセレラシオン様は、わたしを二人の前まで連れていった。

「ミルメル、両親もミルメルが眠っている間にお見舞いに来てくださったのだ」

「ミルメルと申します。アクセレラシオン様に助けられて、こちらで治療をしていただきました。ご挨拶もなく、お邪魔してしまい申し訳ございません」

「ようこそ、ミルメル嬢。アクセレラシオンの父のジャスティス・テスティスと申す」

「テスティス?」

 なんだかどこかで聞いた事がある。

 思考を巡らすと、とんでもないことに気づいた。

 なんてことでしょう!

「もしかして、ここは、テスティス王国ですか?」

「その通りだ、なんだ、アクセレラシオンは何も教えていないのか?私は、この国の国王だ。隣にいるのは、王妃の」

「ミルメルさん、急に驚いたわね。私は王妃のフラーヴァです。アクセレラシオンの母よ。ようこそ、我が国へ」

「は、はい。洞窟を出たらテスティス王国に到着ですか?確か、ヘルティアーマ王国からテスティス王国は、かなり離れた国だったはずですが?」

「それは、私が説明しよう。あの洞窟は、何百年も昔に戦争が起きた時に掘られた物だ。時空が歪んでおるのだ。その洞窟も役目を終えて放置されてきたが、耐久性がなくなってきて、
そろそろ潰れるであろうと言うときに、アクセレラシオンが洞窟をわたってヘルティアーマ王国に行ったのだ。そこで、いるはずのない闇の属性持ちの少女を見つけてきた。ヘルティアーマ王国は、闇属性を毛嫌いしている国だ。その国にいては少女は殺されてしまうかもしれないと、唯一の逃げ道である洞窟を魔力で崩れるのを防いでおったのだ」

「アクセレラシオン様、ありがとうございます」

 わたしは不思議な洞窟の謎を知って、アクセレラシオン様の優しさを改めて知ったのだ。

「妖精が、ずっと呼んでいたのに、それに答えずに、ずっと目を背けていました。わたしは16歳になって、父に修道院に入れられると思って妖精の後を追って、逃げ出したのです。アクセレラシオン様、ありがとうございます」

 わたしは、お辞儀をして、改めて、アクセレラシオン様にもお辞儀をした。

「命の恩人です。この先、アクセレラシオン様に恩返しをしたいと思います。誠心誠意、心を込めて勤めさせていただきます」

 やっと理解できた。

 ここは、王宮だったのだ。

 それも闇属性しかいないと言われているテスティス国の。

 そういえば、医師が闇属性しかいないと言っていた事を思い出した。

 なんと鈍い頭だろうと、自分の不甲斐なさを改めて思う。

「ミルメル嬢、其方は、妖精が見えるのか?」

「はい、掌大の可愛い妖精が、この部屋にもたくさんいます。国王陛下の頭の上にも可愛い女の子の妖精が座っています。王妃様の肩の上に男の子の妖精が座っています。テーブルの上にも、数匹、浮かんでおります」

「アクセレラシオン、妖精が見える子だと知っていたのか?」

「はい。直ぐに気づきました。なので、放っておけなかったのです」

「なるほど」

 国王陛下は、王妃様と頷いておられる。

 妖精が見えることは特別なのだろうか?

 目の前に飛んできた妖精は、わたしの肩に座って、クスクス笑っている。

 何を笑っているのだろう。

 わたしは、肩の上の妖精を指先で、撫でてみる。

『くすぐったいわ』

『国王陛下が驚いているよ』

『当然よ。私達の姿が見えるのは、特別な証拠よ』

「特別ってなに?」

 肩にいる妖精に聞いてみると、アクセレラシオン様がコホンと咳払いをした。

 それから、わたしの肩の上の妖精を、指で弾いた。

 妖精はクルクル回った後に、アクセレラシオン様の方に飛んで、今度はアクセレラシオン様の頭に座って、髪で遊びだした。

 なんとも愛らしい。

「妖精が見える者は、テスティス王国の中でも特別な者だけなのだ」

「特別ですか?」

 国王陛下は、目元を細めて微笑んでおられる。

「まさか異国に妖精の申し子がいるとは、どんなに我が国の者を探していても見つかるはずもない」

「そうですわね。アクセレラシオンも知っているなら、きちんと報告しなさい」

「俺が洞窟に魔術を放っていたことが、全て物語っているだろうに」

「アクセレラシオンが教えないから、無駄なパーティーを開いて、妖精の申し子を探しまくっていただろうに」

「そのパーティーのお陰で、姉上の婚約者が見つかったのですから、無駄ではなかったではありませんか?」

「碌でもない婚約者だがな」

 アクセレラシオン様と国王陛下はお話をしていらっしゃいます。

 デイジーお姉様には、婚約者がいらっしゃるのね。

 あんなに美しくて、明るいお姉様ですから、素敵な婚約者なのでしょう。

 それにしても、妖精の申し子とは何でしょう?

 不思議に思って、隣の席のアクセレラシオン様を見ると、妖精達がアクセレラシオン様の髪を編んでいるのです。

 何匹も妖精が集まって、器用に編んでいます。

 長髪ではないのに、とっても器用ですわ。

 編まれた髪は、五本以上あります。

 わたしは思わず、クスクスと笑ってしまいました。

 妖精は悪戯好きのようです。

「どうした?ミルメル」

「いいえ、何でもありませんわ」

 このまま放置していたら、どんな髪型になるのでしょう?

 わたしの視線で、アクセレラシオン様は頭を手でくしゃくしゃとしてしまいました。

「妖精は、アクセレラシオンを主人だと思っているのだよ?」と、国王陛下がおっしゃりました。

「主人ですか?」

「テスティス王国は、妖精に守られた国なのだ。妖精と意思疎通ができる者が、国王になると決まっている。王妃は声が聞こえる。見えて、言葉を聞き取れる者は少ない。妖精の姿が見えて、言葉を交わすことができるのは、我が一族だけだ。文献にしか残っていないが、大昔、妖精王の娘を我が国の王妃に招いたことがある。それから、妖精が見える子が生まれるようになった。アクセレラシオンが生まれた時に、アクセレラシオンは、妖精王となる子だと妖精に告げられた。もう一つ、妖精の申し子が生まれると妖精が騒いだ。その者を見つけて、アクセレラシオンの伴侶にするようにとお告げがあった。だが、いつ生まれるか分からない。どこに生まれるかも分からないと妖精達は言う。国王である私は、妖精が見える令嬢を探していたが、どこにもいない。見えると嘘をつく者もいたが、その者は妖精達が見極める。我が国では妖精に愛されない者は、破滅を招く。虚言を言った者は、自滅していった。そうして今に至る。アクセレラシオンには、まだ婚約者はいない。だが、見つかったようだ」

「ミルメルは間違いなく、妖精の申し子です。ミルメルが生まれた時に、俺はその存在が分かった。出会うために、自分に力を付けていった。10年前にやっと出会った時は、まだ幼かったが、直感的に彼女に惹かれました。妖精達も間違いないと言っておりました」

「10年も前に出会っていたのなら、我が国に連れてくればよかったではないか?何か間違いが起きるかもしれなかった」

「無理矢理連れてきては、誘拐になります。特に他国の令嬢ですので慎重になるべきだと思ったのです。それに、妖精の申し子ならば、自分の意思で、妖精の声に従ってくれる事を信じていました」

「まったく、気の長い話ね」

 王妃様は少々、呆れていましたが、お顔は優しげです。

「と言うことで、ミルメルは俺の妻にします。よろしくお願いします。まずは挨拶だけで。ミルメルに食事を頼む」

 メイドがワゴンを押してやって来た。

「お待たせしました」

 そう言うと、テーブルの上に食事を並べていく。

「また、話をしよう。ミルメル嬢、ゆっくりお食べ」

 国王陛下と王妃様は、席を立ち、ダイニングルームを出て行こうとしている。

「心遣い、感謝致します」

 わたしは急いで立ち上がると、お辞儀をした。

 笑顔の二人が、通り過ぎていく。

「ミルメル、座りなさい」

「はい」

 わたしは椅子に座ってから、アクセレラシオン様を少し睨んだ。

「お話、聞いていませんでしたわ。突然でビックリしたわ」

「先に話したら、逃げ出すんじゃないかと思ったのだよ」

「逃げ出したりは「しないと言えるか?」」

「逃げ出したかもしれません」

 わたしは正直に答えた。

 かなりビックリする内容だった。

 10年前は、アルテアお姉様が舞を舞った年だった。

 あの時も、わたしは一生懸命に舞の練習をしていたけれど、アルテアお姉様はそれほど練習をしていなかった。

 それなのに、選ばれたのはアルテアお姉様だった。

 勝ち誇ったアルテアお姉様のお顔を思い出す。

 わたしは、あの時、とてもショックを受けていたのだ。

 毎年、広場から少し離れた高台に座って、舞うお姉様を見ていた。

 確かに、あの時、誰かに話しかけられて、慰めてもらった。

 わたしはお人形を持っていた。

 そのお人形が話しをしてくれたのだと思っていたのだ。

 洞窟の前まで行ったのは、祭りの翌日だったような気がする。

 子供の頃の記憶を遡っていると、アクセレラシオン様が「お食べ」とスプーンを口元に運んでくれていた。

「食べられるわ」

「まずは一口、口を開けて」

 わたしは言われるまま、口を開けた。口の中に匙が入ってきた。

 スープだ。

 口の中に広がる風味がよかった。

「なんて、美味しいのかしら」

「口に合ってよかった。さあ、ゆっくり食べなさい」

「はい、いただきます」

 わたしは、自分のカトラリーを使って、ゆっくり食べ始めた。

 どれも美味しくて涙が出てきた。

 こんなに美味しい食事は初めてだった。

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