精霊王の花嫁(完結)

綾月百花   

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34   婚約者の交代

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「シャルマン、国王陛下はなんと言われたのですか?」

「ジュリアン、俺とジュリアンは、婚約解消になるそうだ」

 私は呆然と、婚約者の顔を見た。

「了承されたのね?」

「今の父上に何を言っても無駄だ。できるだけ時間を延ばすように気を配る。俺はジュリアンと婚約解消はしたくない。書面で、そうされたとしても、この戦争が終わったときに、また元に戻す努力をするつもりだ」

「新しい婚約者はどなたなの?」

「アルテア・ブレザン侯爵令嬢だ」

 私は予想通りの言葉を聞いて、涙が零れた。

 マクシモム王太子とシャルマンを比べて、どちらが王太子になってもおかしくはないと思っていた。

 年齢もシャルマンの方が、一つ年齢が下なだけだ。

 魔術の腕前は、同格。

 比べられるのは、第二夫人の子である事だけだ。

 第一夫人が、癇癪持ちで、あまりに嫉妬が酷いので、幼くしてマクシモム王子が王太子に選ばれたが、今回の戦いでは、姿を消してしまっている。

 戦争は過激すぎるとは思っているけれど、国王陛下が決定された事に口出しはできない。

 殺せと命じられれば、戦うしかないのだ。

 私は、まだこの戦争で、前線に出ろと命じられてはいないので、誰も殺してはいないが、いずれ来る、テスティス王国との戦いでは。やはり戦わなくてはならないだろうと思っている。

 テスティス王国は、闇の属性の国であると発表された。

 シャルマンも、まだ一人も殺してはいないが、戦いには出ている。

 護衛の光の魔術師が、シャルマンを守り、攻撃している。

 シャルマンの魔術まで必要とされていないのだ。

 戦争が終わったら、正式に結婚をしようと言われていた。

 私達は、互いに想い合い、愛し合っている。

 生涯、共にあろうと誓い合っているのだ。

 正式な結婚式を挙げていないだけで、二人で教会で誓い合ったのだ。

 それなのに、引き離されてしまう。

 シャルマンが、私を抱きしめてくれる。

「悲しませたくはないのだ」

「悲しませないで、愛しているの」

「ああ、ジュリアンを愛している」

 口づけを交わすけれど、まるで別れのキスのようだ。

「ジュリアンを兄上のものにしたくはない。ジュリアンは、俺の愛する妻だ」

「シャルマン」

 私だって同じだ。

「シャルマンをアルテアに渡したくはない」

「ジュリアン」

 私は愛するシャルマンにしがみつき、その体をしっかりと抱きしめた。

 アルテアは貪欲なのだ。

 侯爵家の令嬢なのに、令嬢らしくない。

 まるで品のない野獣のようなのだ。

 戦う事を好み、魔術の研究を進んでしている。

 人殺しは、今回が初めてだと思うが、動物実験はしていた。

 光の魔術を注ぎ込むと、どうなるのかと興味を持ち、動物に魔術を注ぎ込んでいた。

 過剰な光の魔術を注ぎ込まれた動物は、破裂した。

 今まで、誰も試したことがなかった事であった。

 危険であろう事は考えられてきたから、誰もしなかったのだ。

 その禁忌を破って、攻撃魔法の一つにしてしまった。

 ホワイトゾーンを作って、更に光の魔術を注ぎ込むと、視覚を失うようだ。

 それは、国王陛下から戴いた囚人で、試していた。

 囚人でも、人であるのに、実験には必要だからと、最終的に囚人は、爆発を起こして死んでしまった。

 ホワイトゾーンは、どんな魔法なのか、過去の日記を読んで調べていたが、今まで確実に知る者はいなかった。

 研究熱心と言えば聞こえはいいが、残酷なことも、恐れずにする。

 私から見たアルテアの存在は、異常者としか思えなかったのだ。

 だから、同い年であっても、交流を持ったことはない。

 学園生活でも、彼女は毎回、定期テストで一位を取り、妹のミルメルが二位を取っていた。

 そのミルメルがいなくなっても、アルテアの態度も言動も変わることはなかった。

 彼女の方が位が下でも、魔法の腕は上だった。

 ヘルティアーマ王国では、何よりも魔法の腕が上の方が上位者とされる。

 私は位の下のアルテアに負けたのだ。

 全力で戦ったことがないので、実際はどうか分からないが、既に心で負けている。

 でも、シャルマンを奪われたくはない。

 それなら、私も戦いの場に出て、アルテアと比べられなくてはならない。

 欲しいものは、自分で守らなければ奪われてしまう。

 アルテアにシャルマンを奪われたくはないのだ。

「私も頑張るから。アルテアに負けないように頑張るから」

「ジュリアンは戦ったら駄目だ。怪我をするかもしれない」

「怪我をしたら、シャルマンが助けて。シャルマンがいれば、怖くないわ」

「駄目だ。ジュリアンを必ず、俺の妻にする。心に傷を負ったら、魔法では、心の傷は治せないのだよ?」

「シャルマンを奪われてしまうなら、それ自体が、傷よ。生きている意味さえないわ」

「ジュリアンすまない。悲しませて、本当にすまない」

「シャルマンが謝ることではないわ。国王陛下が決めたことだもの。国王陛下に認められるように、わたしも頑張るの」

「ジュリアン」

 一晩、私はシャルマンと抱きしめ合って共に過ごした。

 けれど、朝が来たら、シャルマンの護衛騎士が迎えに来た。

「シャルマン王太子。行きましょう。新しい婚約者が待っております」

 その言葉で、私の感情は崩壊した。

 涙が流れ落ちる。 

 シャルマンは、もう私に愛を囁くシャルマンではなくなっていた。

 王太子となったシャルマンは、私を振り返ることもなく、護衛騎士に守られながら歩いて行ってしまった。

 私はその場に屈み込み、泣いた。

 泣いても、誰も何も言わない。

 シャルマンは一度も振り返らなかった。

 昨夜の言葉は、私を宥めるために言った言葉なのだろうと思えた。

 もう二度と、私とシャルマンが並んで歩く事はないのだろう。

 一晩で、儚く散った私の愛情と、シャルマンの愛情。

 愛情とは、なんと脆い物なのだろう。

 約束とは、簡単に破棄される。

 不実な物に縋って、何年も想い合ってきた。

 お父様とお母様が現れて、私を我が家のテントの中に連れて行った。

「もう、諦めなさい。国王陛下がお決めになった事だ。第二夫人に招かれるかもしれないよ?」

 とても屈辱的だった。

 愛し合っているのを引き裂くアルテアも国王陛下も。

 王太子の役目を放棄したマクシモム王子にも。

 そして何より、アルテアより魔力の弱い自分自身が憎かった。

 弱い私は、母の腕の中で泣き続けた。

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