精霊王の花嫁(完結)

綾月百花   

文字の大きさ
37 / 51

37   ハンデル王国の危機

しおりを挟む
「父上、隣国のハンデル王国の手前で、ヘルティアーマ王国の軍が停止したようです」

 俺は妖精を、ハンデル王国の手前にある国境に、数体配置していた。

 その妖精から連絡が入った。

「このまま攻撃体制に入るのか?」

 時刻は、既に夕暮れ時であった。

 このまま戦いになれば、戦いは暗闇の中で行われることになる。

 我が国の軍隊、魔法が使える民は刑務官の訓練所にある建物や王都に集まっている。

 父上の使い魔が、一つ咆吼すれば、即、皆が集まり総動員で戦いを始める手筈になっている。

「いえ、妖精達の話しでは、夕餉の支度を始めたそうです」

「では、報せに行くか?」

「それがいいかもしれません」

 テスティス王国の国王と隣国のハンデル王国の国王は、友好関係にある。

 国王陛下同士は、我がテスティス王国の学び舎で学び、親友の仲になり、現在も仲のよい関係が続いている。

 万が一の為に、妖精を配置させたのも、父上の親友を守るためでもある。

 ハンデル王国が倒されれば、次は我が国にやってくる。

「では、報せよう。王族、貴族を我が国に」

「はい、そうしましょう。建物は壊されても復興をすればいいことです。命があってこそ、復興ができるのですから」

「その通りだ」

 父上は引き出しから、予め準備をしていた封書を取り出した。

 今、どんな事が起きているのか、父上は隣国の国王陛下と打ち合わせをしていた。

 万が一、直接、テスティス王国を襲えば、ハンテル王国は無事でいられるかもしれないが、時期を早めにするならば、調子よく国を滅ぼしているヘルティアーマ王国の国王陛下は、いきなりテスティス王国を攻めに来る可能性もあると、議会で話し合ったのだ。

 その場合、いったん、休むためにヘンデル王国の手前で休んでから、攻め入るのではないかと考えていた。

 ヘンデル王国は王都に住む民を田舎へと避難させて、貴族も領地へと戻るように指示を出した。

 今、王都にいる貴族や騎士達は、国王陛下を守るための最低限の者達だ。

 その者を避難させてしまえば、万が一、ヘンデル王国が襲われても、王都が壊されるだけに終わる。

 父上の側近の一人も、父上と同期の友であった。

 その者に封書を手渡した。

「頼む」

「しかと預かりました」

 父上の側近は、ダークホールの中に入った。

 もう、ヘンデル王国、国王陛下と会っているだろう。

「さて、我々も準備に取りかかろう。開戦は翌早朝であろう。日の出前に出立しよう」

「では、その様に。父上、俺はミルメルの様子を見て参ります」

「行ってきなさい。私もカミーノと話をしてこよう」

 父上はダークホールを作って、消えた。

 俺もダークホールを作って、ミルメルの元に飛んだ。

 ミルメルは、まだ目を覚ましてはいない。

 夢すら見ずに、ぐっすり眠っているが、そろそろ目を覚ます時期でもある。

 今、戦いが起きるのは、ミルメルの安眠を邪魔する。

 ミルメルの魔力と妖力を強制的に、俺の中に吸い込み、ミルメルは最低限心臓と呼吸ができる体にして、その間に、俺の中でミルメルの魔力と妖力を強制的に、俺の物と混ぜ合わせて、今度は、強力となった魔力と妖力をミルメルの体内に戻したのだ。

 循環が苦手なミルメルに、強制的に魔力と妖力を血液に混ぜて、体の隅々まで循環させる。

 この作業は、時間がかかるが、自力でできるようになるはずだった。

 俺も幼い頃から、自分なりの方法で、制御できるよう努力してきた。

 ミルメルにはこれから永久と言っていいほどの長い時間が与えられた。

 一つずつ、乗り越えていくのも楽しいだろうと思っていたが、今は、そんなに悠長な事を考えている場合ではない。

 万が一、ミルメルに何かあれば、俺はこの先、永遠に一人で生きて行かなくてはならない。

 それが嫌ならば、ミルメルと共に眠りに落ちる。

 精霊王が命を絶つ理由は、愛する伴侶を亡くして、生きる意欲を無くした時であろう。

 前精霊王に何があって、命を落としたのかは知らないが。

 ミルメルを抱いたときに、自分が転生をしてきたことを確実に思い出した。

 どうして命を落として転生したのかは、今の俺には記憶はないが、理由としては、妻を亡くして絶望したのだろう。

 転生して、生まれ変わり、もう一度、妻を探し、共に生きるためであると、俺はなんとなく感じている。

 前世の記憶はなくてもいい。

 今、愛するミルメルが、ここにいてくれれば、俺はミルメルと共に生きるために、俺に与えられた義務を果たし、いずれ、精霊の国に行こうと思うのだ。

 俺がミルメルに行った行為は、ミルメルを死の淵まで追いやって、強引に魔力と妖力を与えるという強硬手段だった。

 共に生きるために行った行為は、ミルメルに大きな負担をかけた。

 もう三日も眠り続けている。

 この戦が終わるまで、眠っていてくれ。

 ミルメルに非情な戦いを見せたくはない。

 あと二日待っていてくれ。

 その頃には、ミルメルは目を覚まして、以前のように笑顔を見せるだろう。

 そうして、以前より、力も増していて、魔力の暴走を起こすこともなくなる。

 俺はミルメルの隣に横になり、ミルメルを抱きしめる。

 温かい。

 きちんと生きている。

 それを確かめただけで、安心していられる。

『愛している』

 そう囁くと、部屋にいる妖精達が、花を舞あげて、俺とミルメルに花のシャワーをかける。

 ミルメルの妖精、フラウは不安そうな顔をしている。

『もうすぐ目を覚ます』

『はい』

 フラウは頷いた。

 ミルメルの枕元に、白っぽい妖精がいる。フラウだ。

 ミルメルの事が心配なのか、元気がない。

 妖力は吸えているようで、フラウの妖力は以前より強い。

 俺の妖精のウイルが、フラウの前に舞い降りて、フラウを抱きしめている。

 ミルメルの妖獣であるアイも部屋にいる。

 眠っているミルメルは、しっかりと守られている。

『万が一、目を覚ましても、部屋にいるように言ってくれ』

『承知しました』

 アイとフラウが返事をした。

 俺はミルメルの頬にキスをして、ベッドから降りた。

 俺の代わりに、アイがベッドに乗って、体を丸くした。

 ミルメルが望んだ、仔猫の姿をしている。

 仔猫の姿をしていても、変幻自在で、かなり強い力を持っている。

 部屋にいる妖精達を見て、ここは安全だと確信した。

 ウイルはフラウにキスをして、俺の元に戻ってきた。

 ふわふわと俺の前に浮かんでいる。

『では、行くか?ミルメルを頼む』

『行ってらっしゃい』

『気をつけてね』

 妖精達が手を振る。

 いつの間にかウイルが俺の肩の上に立っている。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

「今とっても幸せですの。ごめんあそばせ♡」 捨てられ者同士、溺れちゃうほど愛し合ってますのでお構いなく!

若松だんご
恋愛
「キサマとはやっていけない。婚約破棄だ。俺が愛してるのは、このマリアルナだ!」 婚約者である王子が開いたパーティ会場で。妹、マリアルナを伴って現れた王子。てっきり結婚の日取りなどを発表するのかと思っていたリューリアは、突然の婚約破棄、妹への婚約変更に驚き戸惑う。 「姉から妹への婚約変更。外聞も悪い。お前も噂に晒されて辛かろう。修道院で余生を過ごせ」 リューリアを慰めたり、憤慨することもない父。マリアルナが王子妃になることを手放しで喜んだ母。 二人は、これまでのリューリアの人生を振り回しただけでなく、これからの未来も勝手に決めて命じる。 四つ違いの妹。母によく似たかわいらしい妹が生まれ、母は姉であ、リューリアの育児を放棄した。 そんなリューリアを不憫に思ったのか、ただの厄介払いだったのか。田舎で暮らしていた祖母の元に預けられて育った。 両親から離れたことは寂しかったけれど、祖母は大切にしてくれたし、祖母の家のお隣、幼なじみのシオンと仲良く遊んで、それなりに楽しい幼少期だったのだけど。 「第二王子と結婚せよ」 十年前、またも家族の都合に振り回され、故郷となった町を離れ、祖母ともシオンとも別れ、未来の王子妃として厳しい教育を受けることになった。 好きになれそうにない相手だったけれど、未来の夫となる王子のために、王子に代わって政務をこなしていた。王子が遊び呆けていても、「男の人はそういうものだ」と文句すら言わせてもらえなかった。 そして、20歳のこの日。またも周囲の都合によって振り回され、周囲の都合によって未来まで決定されてしまった。 冗談じゃないわ。どれだけ人を振り回したら気が済むのよ、この人たち。 腹が立つけれど、どうしたらいいのかわからずに、従う道しか選べなかったリューリア。 せめて。せめて修道女として生きるなら、故郷で生きたい。 自分を大事にしてくれた祖母もいない、思い出だけが残る町。けど、そこで幼なじみのシオンに再会する。 シオンは、結婚していたけれど、奥さんが「真実の愛を見つけた」とかで、行方をくらましていて、最近ようやく離婚が成立したのだという。 真実の愛って、そんなゴロゴロ転がってるものなのかしら。そして、誰かを不幸に、悲しませないと得られないものなのかしら。 というか。真実もニセモノも、愛に真贋なんてあるのかしら。 捨てられた者同士。傷ついたもの同士。 いっしょにいて、いっしょに楽しんで。昔を思い出して。 傷を舐めあってるんじゃない。今を楽しみ、愛を、想いを育んでいるの。だって、わたしも彼も、幼い頃から相手が好きだったってこと、思い出したんだもの。 だから。 わたしたちの見つけた「真実の愛(笑)」、邪魔をしないでくださいな♡

氷の騎士様は実は太陽の騎士様です。

りつ
恋愛
 イリスの婚約者は幼馴染のラファエルである。彼と結婚するまで遠い修道院の寄宿学校で過ごしていたが、十八歳になり、王都へ戻って来た彼女は彼と結婚できる事実に胸をときめかせていた。しかし両親はラファエル以外の男性にも目を向けるよう言い出し、イリスは戸惑ってしまう。  王女殿下や王太子殿下とも知り合い、ラファエルが「氷の騎士」と呼ばれていることを知ったイリス。離れている間の知らなかったラファエルのことを令嬢たちの口から聞かされるが、イリスは次第に違和感を抱き始めて…… ※他サイトにも掲載しています ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました

ソウシソウアイ?

野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
政略結婚をすることになったオデット。 その相手は初恋の人であり、同時にオデットの姉アンネリースに想いを寄せる騎士団の上司、ランヴァルド・アーノルト伯爵。 拒否に拒否を重ねたが強制的に結婚が決まり、 諦めにも似た気持ちで嫁いだオデットだが……。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

処理中です...