精霊王の花嫁(完結)

綾月百花   

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45   戦後、ミルメル

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「我が国の勝利だ」

 テスティス王国の国王陛下は、ヘルティアーマ王国の王族、貴族をダークホールで送り返した後に、声を上げた。

 歓声が上がる。

 闇の術者に怪我はなく、一方的に勝利を収めたようだ。

 闇の魔術は強いと思った。

 フラウがわたしの肩に座った。

 アクセレラシオン様の肩にもウイルが座っている。

 マクシモム様の視線が、わたしとアクセレラシオン様を交互に見ている。

「どうかしたのか?マクシモム」

「僕の目の錯覚なのか、二人の肩に、掌大の小さな人が座っているんだ。羽が生えているな?」

 真面目な顔で、わたしとアクセレラシオン様を交互に見ている。

「ミルメルの肩の子は、ミルメルによく似ている」

 そう、わたしの肩にいるフラウは、わたしによく似ている。

 アルテアお姉様と並んだら、三姉妹に見えるかもしれない。

 ただフラウは小さいけれど。

「この子達は、俺の妖精とミルメルの妖精だ」

「妖精というのか?」

 マクシモム様は、妖精を初めて見たようで、フラウとウイルを交互に見ている。

 見られることに慣れていないフラウとウイルは、二人で手を繋いで、どこかに飛んでいった。

「テスティス王国は妖精を信仰している。一般の者には、あの二体しか見えないだろうが、かなりの数の妖精達がいる」

「妖精か。昔、本で読んだ事があるような気がする。確か、妖精がいる国は、豊かになると、ああ、そうか。ミルメルの妖精ならば、ミルメルが姿を消してから、川に水がなくなり、田畑の作物が枯れていったのだ。やはりヘルティアーマ王国の作物が豊富だったのは、ミルメルのお陰だったのだな?春の豊作の舞は、ミルメルが舞った方が、もっと豊かになったに違いない」

「もう、過去の事よ。わたしはもうヘルティアーマ王国には行かないもの」

「ああ、行く必要などない。ヘルティアーマ王国の貴族も僕の父も、ミルメルを闇属性だからと邪険にしていた。ミルメルの有り難みを知っても、ミルメルに対する態度は変わらなかったと思う。情けない国であった」

 わたしは首を左右に振った。

 わたしの有り難みなどではない。フラウがいたから国土が豊かになり、水が豊富にあったのだ。

 崇めるのならば、わたしではなくフラウだと思うのだ。

『違うぞ。ミルメルは妖精の申し子として生を受けた。ミルメル自体が妖精なのだ。フラウはミルメルの分身だ。ウイルは俺の分身だ』

 わたしはアクセレラシオン様を見上げた。

 ふわりと微笑むアクセレラシオン様は、心の声で、わたしの思考を訂正してくれる。

「その通りだ。ミルメルがいたから、ヘルティアーマ王国は豊かな国であった。国全体で、ミルメルをもっと大切にしていたら、もっと豊かな国になっていたであろう。だが、俺はミルメルを迎えに行くつもりでいた。どちらにしろ、国は寂れていったであろう」

「そうか」

 アクセレラシオン様の言葉を聞いて、マクシモム様は納得した顔をなさっている。

 全てを受け入れているの?

 何の疑いもしないで、アクセレラシオン様の言葉を信じている。

「僕はミルメルの舞を見てみたかった」

 それはきっと叶わない願いだったはずだ。

「舞は、もう二度と舞いません」

 わたしは、誠実なお顔をしているマクシモム様に告げた。

「ミルメル、俺もミルメルの舞を見てみたい」

「アクセレラシオン様も、わたしは舞は舞わないと決めましたから、舞いません」

「頑固だ」

「なんと言われても、舞いません」

「美しいドレスを用意しよう」

「ドレスで釣ったとしても、わたしの気持ちは変わりません」

 わたしは胸を張って答えた。

 その姿を見たマクシモム様は、何故か楽しそうにしている。

「マクシモム様?」

「ミルメル、君はテスティス王国に来て、ずいぶん雰囲気が変わった。僕は以前の君より、今の君の方が好きだ」

「マクシモム様」

 なんだか照れくさい。

 アルテアお姉様の婚約者としてみてきたお方なので、その相手に好きと言われて、嬉しかった。

「僕に敬称はいらない。ただのマクシモムになったのだ。これからはマクシモムと呼んでくれ」

「はい、マクシモム」

 マクシモムも、アルテアお姉様の婚約者だった頃より、ずっと生き生きしているように見えた。

 わたしも今のマクシモムの方が好きだ。

「アクセレラシオン、そろそろ戻るぞ」

「分かりました、父上」

 いつの間にか、ホールの中には人が減っている。

 ヘンデル王宮からテスティス王国へと戻って行ったのだろう。

 テスティス王国の地下神殿からも、避難していた者達は元の場所に戻っているのだろう。

「では戻ろう」

 アクセレラシオン様がわたしの手を握った。

 マクシモムの手を握ろうとしたら、アクセレラシオン様は、マクシモムの腕を掴んだ。

「これから我が国に移動する。闇のトンネルで迷子になる。手を振り払うな」

「ああ、頼む」

「では行くぞ」

 アクセレラシオン様は、一瞬のうちにダークホールを作って移動した。

 王宮の庭園のようだ。

「ミルメルちゃん」

 デイジーお姉様の声がした。

 東屋の方から、歩いてくる。

「久しぶりにお茶を飲んでいるのよ。こちらにいらっしゃい」

「姉上、窮屈だったのは分かりますが、解放と同時に茶会など、メイド達も疲れているのですよ」

「メイド達は下がらせましたわ。ここにいるのは、わたくしとお母様だけよ。チョコレートでお茶を飲んでいるだけですもの。こちらにいらっしゃい」

「ちょうどいい。この国に招いた男性を紹介します」

「まあ、どんな殿方でしょうか?」

 デイジーお姉様は、お茶の準備を始めたようです。

 お道具の音がします。

「マクシモム、では、母上と姉上だ。ちょうどいい、顔合わせだけでもしていこう」

「よろしくお願いします」

「後ほど、父上にも話しをしよう」

「はい」

 アクセレラシオン様は、わたしの手をしっかり握っている。

 アクセレラシオン様のお心は、平成を装っていらっしゃるけれど、どうしてか不安そうに揺れ動いている。

 いつもはわたしに知られないように遮断している感情が、漏れ出しているのだ。

 なんだか心配になって、わたしはアクセレラシオン様を見上げる。

『どうかしたの?』

『いや、なんでもない』

『なにか隠しているわね?』

『相手の気持ちが読めるのは便利だが、同時に不便でもあるな』

『わたしは便利よ。アクセレラシオン様のお心の変化が分かるもの』

『不安なんだよ』

『何が不安なの?』

『マクシモムはミルメルに好意を抱いている』

『嘘だー』

『そこは鈍いのだな?』

『鈍くなんかないわ』

『ミルメルにその気がないことに安心した』

『変なアクセレラシオン様』

『誘われても、二人きりになるな』

『はい』

 アクセレラシオン様は、体を屈めて、わたしの唇に触れるだけのキスをして、楽しそうに笑った。

『アクセレラシオン様!マクシモムがいるのに』

『いるからだ』

 わたしは呆れて、アクセレラシオン様の腕に腕を絡めて、引っ張った。

 筋力があるから、アクセレラシオン様は、わたしを軽々と持ち上げる。

 ちょっとしたブランコのようになるのだ。

「二人は仲が宜しいのですね?」

 マクシモムは、少し吹き出して、笑いを堪えている。

「ええ、もう結婚もしております。新婚ホヤホヤですね」

「それはおめでとうございます。ミルメル、教えてくれれば、もっと早くに祝いを言えたのに」

「そういう雰囲気でもなかったんですもの」

「それも、そうだね」

 マクシモムの表情に変化はなかった。

 アクセレラシオン様の思い違いかもしれないわ。

「ミルメルちゃん、とても心配していたのよ。傷を負った者は救えましたか?」

「はい、生きていける程度まで、アクセレラシオン様が治療をなさいました」

「最終的に闇の術者と光の術者の戦いになったのだ。数でも光の術者は負けていた。早く降参してくれれば、闇に染める前に攻撃を止めることができたのだがな」

「アルテアお姉様をお助けしたかったのですけれど、治療を拒まれたのです。アルテアお姉様は、わたしの事を嫌いでしたけれど、わたしは嫌ってはいませんでした。どうにか生きていて欲しくて、お水を飲ませることにしたのです。元々美しいお姉様です。肌は炭化したようになってしまいましたけれど、きっとそんな些細な事でくじけたりしない人だと思うのです。アルテアお姉様は、とても意志が強くて、負けず嫌いですから、きっとどんな場所でも生きてくださると信じています」

「そう」

 デイジーお姉様は寂しそうに微笑んだ。

「炭化したようなお肌は、些細な事ではないわ」

「でも、死んで欲しくはなかったのです」

「ごめんなさいね。ミルメルちゃんを否定したいわけではないのよ。生きて欲しいと思う心は本心だと思うわ」

「はい」

「さあ、座ってくださいな。クレラ、隣の殿方を紹介してくださいな」

「ああ、紹介が遅くなりました。こちらは、敵国、ヘルティアーマ王国の第一王子だったマクシモム・ヘルティアーマ。戦争を止めるために父上である国王陛下と喧嘩をして、後継の座を取り上げられたらしい。ただのマクシモムとなり、光の魔術を使って医師になりたいと申し出てきた」

 マクシモムは、美しい礼を披露した。

「ただいま、紹介されましたマクシモムと申します。僕は自国に戻っても居場所がありません。戦いが嫌で、一度も戦いには出ておりません。父上の暴挙を止めるために、尽力してきましたが、最終的に後継者としての立場を、腹違いの弟に奪われました。その時から、僕は居場所を探しておりました。闇の国であるならば、光の魔術で治療を行えるのではないかと考えておりました。アクセレラシオン様に戦場で出会い、お願いをしておりました」

「俺は、今、この国にはコスモス医師しか医師がいないこともあり、快く医師になってくれると言うなら、歓迎しようかと思いました。最終判断は父上がなさると思いますが、俺は推薦したいと思っております」

 アクセレラシオン様は、王妃様とデイジーお姉様にマクシモムを紹介すると、席に座るように勧めた。

 デイジーお姉様の頬が赤くなっている。

 これは、もしかしたら、恋の始まりかしら?

 マクシモムは、昔から無表情で過ごしていて、お心はさっぱり分かりませんが、アルテアお姉様の婚約者だった事もあり、お顔立ちはすごくいいのです。

 背もアクセレラシオン様と同じくらいです。

 体つきも、そういえば似ていらっしゃいます。

 椅子に座ると、デイジーお姉様がティーカップを置いてくださいます。

「地下神殿の避難者は、解放されましたか?」

「全ての者は家に戻りました」

「怪我を負った者もおりませんね?」

「皆無事ですわ」

「それは、よかった」

 アクセレラシオン様は、王妃様と話をして、わたしの前にチョコレートを置いてくださいました。

「マクシモムもどうぞ召し上がって」

「では、わたくしがお皿に置きましょう。好き嫌いはありますか?」

「いいえ」

 マクシモムは、穏やかに微笑んだ。

 デイジーお姉様のお顔が、また赤く染まっております。

 少し震える指先で、チョコレートを摘まむ器具を持つと、マクシモムの前のお皿に置いている。

 なんだか微笑ましいご様子です。

 妖精達が、集まってきて、花を舞あげています。

 

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