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9 響ちゃんが結婚?
1 亜稀の決意
しおりを挟む推薦試験も合格して、春からは大学生だ。
奈都は体育館で、亜稀の部活が終わるのを待っていた。
季節は冬だ。暗くなる時間も早く、コートを着ていても寒い。
奈都の体は普通に歩けるようになったが、亜稀と一緒に買い物に行く約束をしているので、部活が終わるまで待っている。
亜稀の熱狂的なファンは相変わらず多くて、奈都は一人で離れた場所に座っていた。
ピー!という笛の音が鳴って、走り回っていた部員たちが集まって、連絡事項が伝えられ「ありがとうございました」と大きな号令で解散になった。
亜稀はすぐに奈都の前にやってくる。
「奈都、すぐに着替えてくるから」
半袖の体操服で、亜稀は汗をぐっしょりかいている。
「汗拭いてね。風邪引いちゃう」
「はいよ」
爽やかな笑顔を残して、更衣室に入っていった。
亜稀のファンの女の子たちが、そわそわしている。
出待ちでプレゼントをわたしたいのだろう。
彼女たちの手には、様々な色の紙袋が持たれている。
奈都はゆっくり立ち上がると、靴箱へと移動した。
彼女たちの邪魔をしてはいけない。亜稀には新しい恋愛をしてほしい。心から思っているのに、目の前で、女の子たちに囲まれてプレゼントをもらう姿は見たくない。矛盾しているけど、矛盾していることにも気付いている。奈都の単なる我が儘だ。
「寒い」
クリスマスのイルミネーションが、住宅街に見える。
家庭の温かさだ。
両親が亡くなってから、クリスマスはなくなった。
大きなクリスマスツリーは、どこにしまったのだろう。最後にしまったのは父だ。
「奈都、お待たせ。外で待つなよ。風邪引くだろう」
「亜稀こそ、汗ぐっしょりだった」
「俺は鍛えてるから平気なの」
奈都の鞄を持つと、亜稀は奈都の手を握った。
「俺の手温かいだろう?」
「うん、温かい」
「奈都の手、冷たすぎる」
「今日は冷えるから。雪降るかな」
11月も中旬だ、降ってもおかしくはない。
「今夜は鍋にする?」
「いいね。できれば、肉の入ったやつがいいな」
「シチューもいいね」
「できればビーフシチュー。あ、スペアリブも食べたい」
「亜稀は肉ばかりだね」
「成長期だし」
奈都は笑った。
「部活、頑張ってるもんね」
「そうそう。もう腹が減って、腹が鳴りそう」
「ファンの女子からプレゼントもらわなかったの?」
手には一つもプレゼントは持っていなかった。
たくさんいた亜稀のファンの女子たちは、どうしたんだろう。
「好きな人がいるからって、断ってる」
「殴られて、懲りたの?」
亜稀には日替わり弁当並みの彼女がいた。
別れるとき、叩かれたり殴られたり蹴られたりした。
「俺、奈都に求愛するのをやめたけど、奈都がやっぱり好きだから、他の女の子はいらない」
「亜稀、もう忘れてって言ったのに」
「忘れられるわけがないよ。俺、奈都を抱いていた時、すごく幸せだった」
「応えられないよ」
「わかってるよ。ただ見守っていたいんだ。それだけでも駄目?」
背の高い亜稀が、奈都の顔をのぞき込んでくる。
「亜稀が辛いだけだよ」
奈都は響介が好きだ。
それを隠さないし、否定もしない。素直な気持ちだ。
「俺は奈都の命を奪いかけた。今は守りたいんだ」
「もう気にしなくてもいいのに」
亜稀が俯く。
「奈都は優しいから。でも、奈都が本当に幸せになるまで、ずっと見守るつもり」
「やっぱり亜稀は優しい」
「響介に飽きたら、いつでも俺にして」
「それはたぶんないよ」
亜稀が笑った。
「奈都も惚気てる」
奈都の頬が赤くなっている。
スーパーの前までやってくると、亜稀がカートに鞄を引っかけて、カゴを入れた。
「牛乳2本ね。蜂蜜も欲しい。パン屋で食パン買ってこよう」
「先に肉買ってこよう。なくなるとショック」
亜稀が、カートを押しながら、奈都の手を引く。
もう手を繋がなくてもふらついたりしないのに、亜稀は人混みの中では更に慎重になる。
「じゃ、先にお肉ね」
亜稀はもともと優しかった。
するりと人の壁の中に入って、奈都は亜稀がほしがった肉のパックを素早く手にする。
両手に持って、亜稀のいる場所まで戻っていく。
「奈都、危ないだろう」
「もう大丈夫だって」
奈都が笑った。胸がキュンとするほど、可愛い笑顔だった。
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