唯一の恋

綾月百花   

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9   響ちゃんが結婚?

2   響ちゃんのお見合い        改

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 親戚の重森のおじさんとおばさんが訪ねてきた。
 急いでワンピースを片付けて、亜稀が仏間にテーブルを置き部屋を片付けている。
「響介君はいるかね」
「今呼んできます」
 亜稀が廊下を走って、響介を呼びに行った。
「あら、いいお部屋になったのね。とても上品で綺麗だわ」
 おばさんが玄関から入ってくると、奈都に言った。
「改築したんです」
「あら、ちょうどいいわね」
 おじさんたちを仏間に案内する。
 仏間はテーブルが置かれて、座布団も敷かれている。
 完璧だ。奈都は亜稀を見て、にこりと笑う。
 いいコンビネーションだ。
「仏間はそのままなのか?」
「両親の部屋と仏間は触らなかったので」
 亜稀が相手になっている間に、奈都は台所に走る。
 お茶を淹れて、仏間に急ぐ。
 おじさんたちは、交互に仏壇に参り、テーブルに移動する。
 そこに、奈都はお茶を出していた。
「奈都君は、髪を伸ばし始めたのかね?最近は男の子も髪を伸ばす子がいるが、短い方が男らしいぞ」
「はい」
 奈都は普段着のトレーナーと白いショートパンツ姿だ。亜稀も同じトレーナーとハーフパンツだ。
 突然の訪問なので、なにも準備ができていない。
「すみません。着替えてきますので」
「あらいいのよ。今日は響介君に用があるの」
 おばさんが、奈都の髪に触れた。
「綺麗な黒い髪ね」
「ありがとうございます」
「褒めてるわけじゃないのよ。おばさんが切ってあげましょうか?」
「いいえ。今伸ばしているんです」
「男らしくないわね。心証が悪くなるわ」
 やっと肩甲骨の下まで伸びた髪を掴まれて、仏間の引き出しにしまわれたはさみを取り出し、切ろうとしてくる。
 髪を引っ張られる。
 尖ったはさみの先端が、顔に近づいてくる。
 切られる。
(目に刺さったら、どうするの?)
 奈都は目を閉じた。
「やめてください」
 悲鳴のような声を上げたとき、響介が走ってきた。
 サクリと切られて、頬の横の髪が落ちた。
 奈都は目を開けた。
 足と畳に切られた髪が広がっている。
「何してるんですか?」
  おばさんの手からはさみを取り戻して、響介が声を上げた。
「あら、手が痛いわ。無理矢理取り上げるなんて」
 おばさんが、おじさんのもとに戻っていく。
「奈都君の髪型は男らしくないだろう。短くさせなさい」
 おじさんが憤慨している。
「奈都は髪を伸ばしているんです。おじさんやおばさんには関係ないことです」
 響介が背後に庇ってくれるが、切られた髪は元には戻らない。
 二人はまだ奈都が男だと思っている。告げるつもりもない。親戚と言っても縁の切れた親戚だ。両親が生きていた頃は、顔を見せなかった人たちだ。
「響介君にいい縁談があってね。こんな女みたいな髪型をしていたら、相手のご家族の心証が悪くなる」
 テーブルにアルバムが開かれて置かれた。
「綺麗なお嬢さんだろう。歳は22歳。帰国子女で経済学部卒業だ。秘書検定の一級を持っている。響介君のいいパートナーになると思ってね」
「縁談はお断りします」
「好きな人でもいるのかい?」
「はい。結婚も考えています」
「学歴はあるのか?」
「まだ学生です」
 響介は素直に答えてくれた。
「学生なんてやめなさい。両親が生きていたら反対されるだろう。会社のことも趣味の小説も、伴侶がしっかりしていれば安心だが。学生では何の役にもたたないよ」
 おじさんの言葉に、奈都は頭にきた。
 響介は仕事として小説を書いている。遊びではない。
「響ちゃんの小説は趣味じゃありません。ちゃんと出版もされています。連載だって」
 いつも口答えしない奈都が、声をあげた。
「奈都、落ち着いて」
 響介が奈都の手を握った。
「はい」
 奈都はテーブルに置かれた写真をしっかり見た。
 美人だった。
 綺麗な和服を身につけ、髪を結い上げている。
 もう一枚の写真には、ワンピース姿の写真が写っている。
 病院で見たグラビアを思い出した。
(胸も大きく、くびれもある。僕とは違う。本物の女性だ)
「家長であり兄のことを、響ちゃんと呼んでいるのか、君は。お兄さんと呼びなさい」
「すみません」
 奈都は頭を下げた。
「おじさんたちは君たちの父親代わりのつもりなんだ」
「俺たちは、父親代わりなんていらない。兄は成人しているし、作家で大企業の代表取締役社長だ。兄がうちの家長だ。父親代わりとか言って、どうせ金目的なんだろう」
 亜稀が怒鳴った。
「なんて失礼なことを言うんだ。だから親がいないと分別がつかない子供になる」
 おじさんが、声を上げた。
「亜稀、黙っていなさい」
 むすっとして亜稀は黙って、立ったまま壁に寄りかかった。
「日程はこちらで決めさせてもらった。今度の土曜だ」
「明日かよ?」
 響介の前に亜稀が声を上げた。
 明日は三人で海の見えるホテルに行く予定だった。
 ホテルに泊まって、美味しい料理を食べて、初めて奈都はプールに入る予定だった。
 奈都は深く頭を下げた後、立ち上がった。畳に切られた長い髪が落ちたが、そのまま仏間から出ていった。
 楽しみにしていた旅行は中止になった。
 いびつになってしまった髪も悲しい。
「奈都、大丈夫か?切られた髪、そんなに目立たないから」
 奈都の後から、亜稀が出てくる。
 慰めてくれるけど、切られた髪の量も長さもたくさんだ。目立たないわけがない。
「部屋に戻ってる。あとはお願い」
「わかった」
 亜稀の手がさらりと指を撫で、仏間に戻っていった。
 奈都は自室に戻って、手鏡を取り出した。片側だけ短い髪は、やはり目立った。鏡を置いてベッドに潜った。
 響介の声とおじさんたちの声が、部屋にいても聞こえてきた。
「急に言われても困ります。」
「急でないと、響介君は捕まらないだろう」
「明日は予定があるんです」
「私たちの顔を潰すのか?相手の方ももう準備されている」
 結局断れなくて、お見合いをすることになった。
 大安である明日の午前からだ。
 奈都はその夜、初めて響介を完全に拒絶した。
 机を動かし、扉を塞いだ。
 寝ていても入ってこられないようにした。
「奈都、開けてくれないか?プールにはまた行こう。明日はちゃんと断ってくる」
 返事は一度もしなかった。
 一睡もできずに、朝を迎えた。
「奈都、行ってくるから。早く戻ってくるからね」
 朝、響介は出かけていった。

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