唯一の恋

綾月百花   

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9   響ちゃんが結婚?

3   亜稀とデート

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「奈都、開けろよ」
 響介が出かけたあと、亜稀がやってきた。
 黙っていると、無理矢理ドアを開けられた。
 机がドアに押されて動いていく。
 力のある亜稀らしい、ドアの開け方だ。
「響介、断ってくるって言ってただろう?」
 強引に開けて、奈都の座っているベッドの横に座った。
 纏めてあった旅行鞄が開かれ、部屋のあちこちに着替えの服が投げられている。水着はゴミ箱に捨てたのだろう。ゴミ箱の端に引っかかっている。
 きれい好きで几帳面な奈都らしくない。
 それほどショックだったのだろう。
 ベッドの上には手鏡が置かれていた。
 アシンメトリーになった髪は、明らかに目立つ。奈都にはその非対称さが辛いのだろう。他人にいきなりはさみを向けられた、恐怖もあっただろう。
「僕は相応しくない」
「奈都」
「おじさんが言ったこと気にしているのか?」
「僕はなにも持ってない」
「響介が信じられないのか?」
 奈都は首を左右に振った。
 伸びた髪が、俯いた奈都の目と頬を隠している。短くなった方の髪の方から見える顔は憔悴している。
「だったら、部屋から出てきて。ご飯作って」
「作りたくない」
 奈都はずっと俯いている。
「それなら、どこか遊びに行こう。三人でプールは行けなくなっちゃったけど、女の子の可愛い服着て気分転換しよ」
「今日は着ない。そういう気分じゃない」
「じゃあ、ジーンズでもいいから出かけよう。映画でもショッピングでも何でもいいよ」
 指を絡めて引っ張ると、奈都の顔がやっと亜稀を見た。
 奈都の目が赤くなっている。
 夜中もすすり泣きが聞こえていた。
「ご飯、食べに行こう。俺、すごくお腹空いてる。奈都だって、昨日の夜も食べてないだろう?」
「亜稀だけ食べてくれば?」
「奈都と一緒がいいんだ」
 しっかり手を繋いで、奈都の心に呼びかける。
「一緒に行こう」
 手を引いて、抱きしめようとした。
「待って、昨日からお風呂に入ってない」
 そっと奈都の手が、亜稀の肩を押す。
 潔癖症気味の奈都は、お風呂に入っていない体は、すべて不潔に見えるらしい。
 触れることも触れられることも嫌がる。
「シャワー浴びてくる」
「行っておいで」
 奈都をやっと部屋の外に出すと、亜稀は奈都の机を元の位置に戻して、捨てられていた新品の水着を拾い、洋服を拾ってベッドに置いた。


 話題の映画を見て、奈都をショッピングに誘った。
 なにをしてもボーッとしている奈都の手を握って連れて歩く。
「奈都、アイス食べよう。違う味にしてはんぶっこしよ」
「寒いよ」
 季節は冬だ。十二月に入って、クリスマスの飾りも鮮やかだ。
 奈都はセーターとジーンズを着て、レディースの白いコートを着ている。
 亜稀もセーターとジーンズを着ている。かっこいい黒のコートを着ている。
「それじゃ、カフェで紅茶は?」
「それならいい」
 行き先が決まって、奈都と亜稀はカフェに移動する。
 パンケーキを半分こして、ゆっくりお茶を飲んだ後、ショッピングモールに入って行った。
 明るい音楽とキラキラした飾りで、奈都の足取りもだんだん軽くなる。
「クリスマスだね」
「何か見ていこうか」
「紳士服売り場行こう」
「なにか欲しいものあるの?」
「亜稀にクリスマスプレゼント買ってあげる」
「ほんとに?」
 奈都がやっと笑った。
「なにが欲しい?」
「奈都がくれるなら何でも嬉しい」
「亜稀の手、冷たくなってる」
「部活の後じゃないからね」
 奈都は手袋売り場に来て、「どれがいい?」と聞いた。
「じゃあね」
 亜稀はコートに合わせて、黒い手袋を選んだ。
 奈都は手を伸ばして、黒色にグレーの皮のついた手袋を手にした。
「包んでもらうね」
 亜稀の手から手袋を掴むと、レジに走って行った。
「響介の分か。平等に愛してくれてるんだ」
 亜稀はほんわかと温かい気持ちになる。
 抱き合わなくなっても、奈都の優しさは変わらない。
 包装してもらって、二つの紙袋を持って、奈都は戻ってきた。
「亜稀は緑のリボンね。響ちゃんは赤。クリスマスカラーのできあがり」
「じゃ、俺も奈都にプレゼントしてもいい?」
「うん」
「なにが欲しい?」
「思い浮かばない」
 亜稀は奈都の手を引いて、ショッピングモールを歩く。
 服は響介が頻繁に買い与えている。
 レディースの服も増えてきた。
 今着ている、セーターもコートもレディースだ。奈都の体にぴったり合っている。
 以前は、無理矢理紳士服を着て、体に合わないだぼだぼの服を着ていたが、やっと奈都にぴったりな服を着るようになった。
 奈都の指が髪を耳にかけた。
 長くなった髪は、黒くて綺麗なストレートだ。
 昨日、切られたサイドの髪が不揃いで痛々しい。それでも、少し赤くなった耳が可愛い。
「あ、俺、決めた」
 奈都の手を引いてアクセサリー売り場に来た。
 イヤリング売り場に連れてきて、奈都の耳にあてていく。
「こういうの持ってないだろう?」
 イタリアングラスでできた赤色で中に綺麗な花が彩られたイヤリングを奈都に見せる。
「これ、似合ったけど、これでいい?」
「うん」
「つけていく?」
「クリスマスプレゼントなのに?」
「前倒しでいいだろ?たくさん着けてくれた方が嬉しいし」
 奈都が可愛く微笑んだ。
 レジで購入して、亜稀は奈都の耳につけた。
 鏡を見て、奈都が笑った。
「女の子みたい」
「みたいじゃないだろう?」
 奈都の長い髪を撫でる。
「女の子だろう?」
 奈都は曖昧に笑うと、緑のリボンのついた方の紙袋を亜稀にわたした。
「亜稀も使って」
 奈都はポケットから手袋を出して、はめた。
 夕方になってきて、冷えてきた。
「今、開けようっと」
 亜稀はプレゼン用にラッピングされた手袋を取り出して、それをはめた。
 奈都の優しさが詰まっていて、手がすごく温かい。
「温かい?」
「あたたかい」
 亜稀はまた奈都の手を握って、歩き始めた。
「そろそろ帰ろう?夕食作らないと」
「何か買っていくか?」
「寒いから、今日もお鍋にしよう」
「じゃ、肉いれてね」
 二人で食料品売り場に行って、買い物をして帰った。


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