【完結】安心してください。わたしも貴方を愛していません

綾月百花   

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20    侍女

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 婚約式の1週間前にタウンハウスの邸に、メリスが若い女の子を連れてやって来た。


「メリス、無理を言った」

「いいえ、お世話になった伯爵様ですので、こんな老体を覚えてくださって、嬉しく思います」


 メリスは別れた時とあまり様子が変わったようには見えなかった。


「メリス、娘のマリアーノだ。王子との婚礼が決まったが、侍女がいないのだ」

「マリアーノです。メリス、少しも変わってなくて、ここにお母様がいないのが不思議に思いますわ」

「マリアーノお嬢様、ずいぶん、美しくなられて、奥様が存命なら、さぞかし喜ばれたでしょう」


 メリスは母より、10歳年上の侍女だった。現在の歳は、50歳過ぎくらいかもしれない。


「私も歳を取りましたから、姪を連れて参りました。名はネルフでございます。年齢は25歳です。10代の頃に、結婚をしましたが、流産をして子を産むことをできなくなり、離縁された娘です。それ以来、奉公に出ていましたが、マリアーノお嬢様のお話を聞き、こちらに参りたいと申しております」

「以前はどちらに?」


 父はわたくしが不安にならないように、聞いてくれる。


「カスカータ侯爵の邸にお世話になっておりました」


 ネルフは自分で、元の勤め先を話した。


「マリアーノお嬢様と同じ17歳のお嬢様のお世話をしておりました」

「侯爵様のお嬢様は、反対はされなかったのですか?」

「メアリーお嬢様と申します。お嬢様には侍女が5人もおりましたから、私が抜けても抜けたことに気づかないかもしれません」


 そんなことはないと思うけれど、ネルフが言うなら、そういうことにした方がいいのかもしれない。


「わたくしの侍女になってくださるの?王家に嫁ぎます。大丈夫でしょうか?」

「これ以上ない幸福です。この国の為に働けるなんて幸せですわ。是非、次期王妃様のマリアーノお嬢様の侍女を務めさせて戴きたいのです」

「王妃になれるか、分からないわ」

「それでも、叔母がお世話になった伯爵様のお嬢様ですから。忠誠を誓いますわ」

「ネルフは子爵家の長女ですが、子供が産めないことで、離縁されています。この先、生きて行くためには奉公に出なければなりません」


 メリスがネルフの身の上を話してくれた。


「難産だったのですか?」

「いえ、事故のようなものでした。姑様とは折り合いが悪く、妊娠中期に、姑様に部屋の大掃除をするように申しつけられました。足下が見えずに転んでしまったのです。大量出血と共に赤ちゃんも流れてしまいました」

「旦那様は庇ってくださらなかったのですか?」

「旦那様は私が子供を産めない体になったら、女を連れてきました。もう用済みだから出て行けと言われましたわ。私はあまりに惨めで、離縁を申し出たのです」

「辛かったですね?」

「ええ、それは、赤ちゃんは死産でしたし……」


 ネルフは当時を思い出したのか、僅かに目に涙を浮かべていた。


「もし、わたくしに赤ちゃんができても、親身になってくださいますか?」

「それは、勿論、そのつもりです」

「それでは、ネルフ、どうぞよろしくお願いします」


 わたくしは、母の侍女が推薦してくださった女性と契約することにした。

 暫く、メリスも付き添ってくださると言うので、心強いです。

 婚約式の時に、綺麗に髪を結い上げてくださいました。

 ドレスも少し手直しして、わたくしにぴったりのサイズにして戴けました。

 肌のマッサージも上手で、お化粧も上品に仕上げてくださいます。

 内緒ですが、エリナよりも上手です。

 お茶も美味しく淹れてくださいます。

 申し分ない侍女です。

 お母様に感謝です。

 お母様の侍女の紹介ですもの。

 わたくしはお父様と一緒の馬車に乗り、王家の婚約パーティーに向かいました。


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