花姫だという私は青龍様と結婚します

綾月百花   

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1   御嵩家の一員

6    青龍様は唯に夢中

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 待ちに待った唯が屋敷にやってくる。

 唯の霊力の力で屋敷の周りから屋敷の中まで、花が咲き出した。

 いい香りが近づいてくる。

 龍道を使って移動してきた唯の気配は、手に取るようにわかる。

 青龍神社の生きたご神体と言われる御嵩龍之介は、父から無理矢理神事を押しつけられ、龍族にしては、まだ若い50歳という年齢で御嵩家の当主と神事を受け継いだ。

 龍族で50歳と言えば、まだ子供同然である。

 まだまだ遊びたい盛りで結婚など考えたこともなかったが、父のすすめで、一本の木の前で、『妻を』と望んだ。花姫が生る木だ。父青龍と母の花姫から生まれた龍之介は、ある研究をしていた。

 母の花姫にはない。文献の中で読んだ再生能力を持った花姫に興味を持った。

 癒やしの力とも治癒の力と書かれていた。どんな力なのか見てみたくなった。

 龍族は神だ。滅多なことがなければ死ぬことはない。毎日、退屈で空に昇って飛び、世界を回ることくらいしか楽しみはない。研究で御嵩家に務める医師の青波に習って医師や薬師の研究もしていたが、それよりも霊力の強い花姫の存在に興味を持って行かれていた。

 霊力の強い花姫が生まれるまで、『妻を』と望めばいい。

 まだまだ若いのだから、すぐに結婚する必要もない。

 無理矢理神事を押しつけた父は母と仲がよく、引退する理由も母といつも一緒にいたいからという、まったく神とは思えないほどの身勝手さだった。

 神事も気まぐれで手伝ってくれる父だったので、龍之介も気が楽だ。

 ゆっくり霊力の強い花姫が生るまで待てばよい。

 霊力の弱い龍族は、花嫁捜しに夢中だ。できれば、嫁には少しでも霊力のある花姫が欲しいと望んでいる者は多い。気に入らない妃候補は、龍族に嫁がせればいい話だ。

 年に一度しか生らない花姫の実を100年祈り続けた。100年目に蕾を付けた木からは、芳しい香りがした。強い霊力も発していた。花が咲くと、屋敷や山に植えられている木の花が狂い咲きのように咲き出した。

 龍之介はいつも生まれてから名付けるが、花を見て、すぐに名前が浮かんだ。

 浮かんだ名前は『唯一の花嫁。唯だ』

 生まれる前から妃はこの子にしようと決めた。

 龍之介は毎日、その花を観察に行った。

 凜と美しい花は、珍しくピンク色をしていた。今までの花は、すべて白だった。

 美しいピンクの花は3ヶ月咲き続け、花びらを落とした。小さな実が生っていた。

 毎日見ていても、なかなか大きくならない。しかし、小さな実からは、強い霊気は感じられた。珍しいピンクの実の中で、この子は生きている。どんな花姫が生まれるのだろうと、心が躍った。花を付けて10ヶ月でやっと人のこぶし大の大きさまで成長した。

 触れてみたいが、触れてはいけない。

 触れるときはもぎ取る時と決められている。

 やっと10ヶ月が経ち、ピンクの実が少しくすんだ色に変わった。成熟のサインだ。

 大きさは子供の頭くらいの大きさだ。枝がしなり、重そうにしている。

 大きなリンゴのような、その実に両手で触れると、実は手の中に落ちてきた。

 よい香りがして、霊気は以前より増している。手でそっと実を半分に割ると、掌に載るほどの小さな女の子が実の中で丸くなっていた。

 美しい顔つきをしている。

「唯」と声をかけると、小さな体がもぞもぞと動く。

「なんと愛らしい」

 絹の布で小さな体をくるみ。優秀な親鳥にその子を託した。

 16歳になるまで、霊力と花姫の力を封印した。
 
 屋敷からも山からも、花が散り、もとの緑の木に戻った。

 16歳に成長したら、花嫁にしようと唯を遠くから見守っていた。

 掌に載るほどの小さな少女は、親鳥の献身的な子育てで、すぐに普通の子供と同じ大きさまでに成長した。

 賢い子だったので、物覚えも早く、言葉も早く話し出した。

 親鳥は唯に愛情を込めて大切に育てていた。そのお陰で、影のない素直な明るい子に育っていった。

 幼稚園に行き、よく遊び、習い事も始めた。

 素直な唯は、習い事を嫌がるどころか、楽しんで通っていた。

 大人たちと混ざって茶道や華道も習い。水泳教室にも通い出した。

 ピアノという楽器を器用に演奏し、歌も歌っていた。

 可愛らしい声に、龍之介は魅了されていた。

 毎日、いろんな習い事をしても、唯は嫌がらなかった。

 親鳥の教育の仕方もうまかったのだろうが、持って生まれた性格が穏やかで、少し負けず嫌いなところがあったのだろう。

 まだわずか10歳にもならない少女に、龍之介は夢中になっていた。

 早く、この手に抱きたいと思いながら、毎日、唯を見続け、やっと16歳の誕生日を迎えた。

 優秀な親鳥に頼んだお陰とも言えるだろうか?礼儀も正しく、言葉使いも良かった。知性も備えている。

 愛らしい顔立ちは、生まれ落ちたときとあまり変わってはいない。

 透き通るような霊気は、すべてを浄化していく。存在するだけで花が咲き出すほどの花姫の力を持っていた。

 初めての禊ぎで、唯が川に入ったとき、川が浄化された。

 もともと龍之介の力で、川や湖は浄化されていたが、それを上回るほどの浄化力だった。湖底に生える水草が花を咲かせた。

 龍之介自身にも力が増した。

 だが、唯は川に流され、龍之介の湖に沈んでいってしまった。

 守ってやらねば、死んでしまうほど、弱い存在だった。

 包みこむようにすくい上げ、浅瀬に座らせた。

 見守るだけにしようと思っていたが、つい声をかけてしまった。

 愛らしい声でお礼を言われ、照れくさくなった。

 空の上から、唯を観察していたら、畳の傷を直して見せた。

 文献に載っていた再生能力を持った花姫だ。ただ、力の使い方がわからないのだろうか、その力を使った後に倒れてしまった。霊力の使い方もわからないのか、力の加減ができないようだ。力を使うたびに疲弊して倒れてしまう。このまま力を使い続けたら、死んでしまいそうだ。

 早く花嫁に迎えたい。龍神のうろこを飲ませれば、不老不死になれる。

 唯を守るためには、早く自分の元へと来させればいい。

 喜んでもらいたくて、贈り物をした。

 唯は戸惑った顔をしていた。

 青龍の色の羽織を羽織った唯を見て、その愛らしさに見とれていたら、唯は「帰りたい」と泣き出した。親鳥に育ててもらった日々を思い出し、高校へ通いたかったと言った。

 愚痴らしい愚痴も言わなかった唯が、自分の気持ちを言葉に出した。

 叶えてやりたい。

 花嫁になれば、龍之介と共に生きなければならない。

 俗世を忘れ、神職に入る。

 わずか16歳の少女には、重荷だろう。

 唯のためなら、多少の理を変えてもいい。

 新しく龍道を造り、人の記憶の操作もしてしまう。

「唯と高校とやらに通ってもよかろう」

 そう思った矢先、唯が姿を見せなくなった。

「なんと寂しいことか」

 月のものを汚れと言われるが、唯なら自分で浄化しそうなのに、部屋から一歩も出てこない。部屋の外に出てはいけない規律などなかったはずなのに、引きこもってしまった。

 唯の姿を一目見たいと、人の体になり部屋を覗こうとしたが、唯のお付きの者に気付かれ、追い払われてしまった。

 唯には優秀な人材を与えたが、まさか龍神の自分が追い返されるとは思ってはいなかった龍之介だ。
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