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3 醜い争い
3 真優の婚礼
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真優の部屋に御嵩家の従者がやってきた。
美しい着物やお菓子が運ばれていた。
「青龍様のお妃になれるんですか?」
「いいえ、東北にある黒龍神社の黒龍様のお妃です」
「東北って、寒いじゃない。いやよ。私、まだ17歳よ。もっといい物件探して」
「我が儘を言ってはならん。神の御許に嫁げるだけありがたいと思いなさい」
御嵩家の従者は我が儘な真優を叱りつけた。
「わかったわよ。それでどんな黒龍様なの?」
「奥方を事故で亡くした神様です。あまりの嘆きに青龍様が、新しいお妃をと推薦してくださいました」
「後妻なの?だから貢ぎ物も少ないの?」
「少なくはありません。絹でできた立派な着物ですよ」
真優は着物の入れられた篭を開けると、着物を引っ張り出す。
「色が地味だわ」
黄色やピンクの着物だが、花の模様が気に入らないらしい。
「唯が着ているような華やかな着物がいいのに」
「それほど変わりません」
従者は呆れたように言うと、部屋から出て行った。
「真優様、おめでとうございます」
真優のお付きの者が口を揃えて言った。
我が儘な真優のお付きは、四人もいる。
あれが欲しい、これが欲しいと強請るので、護衛ができなくなり、人数が増えてきたのだ。
「私、嬉しくない」
「着物、着てみましょうか?」
「そうね、一番明るい赤いのがいいわ」
「すぐに用意しますね」
煌びやかな赤の着物を着て、真優の顔は明るくなる。
「とてもお似合いですよ」
「思ったより綺麗ね」
薄衣でできた羽織を着て、廊下に出て行く。
美鈴と鉢合わせして、真優は「お嫁に行くの」と言った。
「青龍様?」
「違うのよ。東北にある黒龍神社の黒龍様らしいの。後妻だしあまり乗り気じゃないんだけど。嫌だと言ったら従者に叱られてしまったの」
美鈴は綺麗な着物姿を見て、自分だけが白の着物だと気付いてしまった。
「一枚、私にくれる?着物たくさんもらったんでしょ?」
「いやよ。それに旦那様のものを他人にあげたらいけない決まりになっているはずよ」
「それなら、一度でいいから着させてくれない?私、白い着物しか着たことがないの」
「少しだけならいいわよ」
美鈴は嬉しそうに笑った。
「今でもいい?」
「お付きの者に聞いてみる」
今出てきたばかりの部屋に真優は美鈴を連れて戻ってきた。
美鈴は着物の入った篭からすべての着物を出すと鏡の前であてがって見た。
「綺麗ね」
「そうかな?」
「この黄緑の着物を着てもいい?」
「すぐ脱いでね」
「うん」
美鈴は自分で着付けができる。
派手な帯を選んで、黄緑の着物を身につけた。
「可愛い」
薄衣の羽織も身につけ、真優に散歩に行きましょうと誘った。
「駄目だって、従者に見られたら叱られてしまうわ。着物、脱いで」
「これ、気に入ったの。くれない?」
「駄目って言ったでしょう?」
嫌がる美鈴から、着物を脱がせると、袂がほどけるように破れてしまった。
「美鈴が引っ張るから」
「一枚くらいくれたっていいのに」
「もう帰って」
真優は怒って、美鈴を部屋から追い出した。
「真優様、破れた着物は自分で直しますか?」
嫁入りが決まると、お付きの者は独り立ちをさせるように促す。
「縫っておいて」
「お裁縫の練習をなさっておりません。お嫁に行かれたら自分で直すか、旦那様が用意してくださるお付きの者がすることになりますが、旦那様がお付きの者を付けない方もいらっしゃいます」
「全部、私がするの?」
「お裁縫もお料理もお勉強いたしましょう」
「そんなのいや。旦那様にお付きの者を付けるようにお願いして」
「それは私たちの仕事ではありません」
「もう、役に立たないわね」
「さあ、おかけください」
お付きの者が裁縫道具を持ってくる。
少し縫って見本を見せてくれるが、すっと糸を抜かれた。
「初めから?」
「愛の鞭でございます」
何度も指に針を刺しながら、破れた場所を縫った。
「これでいい?」
「見栄えが悪いので、やり直しです」
「……そんな」
何度も何度も縫い直しをさせられて、やっと綺麗に縫えた。
「さあ、お食事の支度の練習をいたしましょう」
付き人の女性が部屋の奥にある小さな台所で、野菜の切り方を教えてくれる。
「手を切ったら、どうするの?」
「これも慣れでございます」
「田舎に嫁ぐから、こんな苦労をしなくていけないのね」
真優はふてくされている。
「どの花姫様も花嫁修業はなさいますよ。今まで真優様がさぼっていらしただけです」
真優の頬が膨らむ。
「いいわよ、ちゃんと料理くらい作れるようにするわ」
包丁を持って、何度も指を切りながら、夕食の支度をしている。
負けず嫌いな性格が幸いしたのか、婚礼の日までに、裁縫も料理も上達した。
婚礼の前日、久しぶりに美鈴の部屋を訪ねた。
「なによ」
「明日、婚礼です。もうお目にかかることもないかもしれません。お元気で」
美鈴は不機嫌に顔を歪めて、襖を閉めた。
ふーとため息をついた。
美鈴と一緒に悪いことをたくさんしてきた。
唯に毒を盛り、紗椰も殺してしまった。
紗椰を呼び出し、男子生徒に頼んで襲ってもらった。
一度、紗椰を抱いたら、男たちが群がってきて、順番に紗椰を抱いていった。
紗椰は最初泣いていたが、しまいには涙も見せず、表情筋が固まってしまったように、なんの反応も見せなくなった。
学校に着くと、男子生徒たちに抱かれ続けていた。男子生徒はだんだん増えて、たぶん学校中の男に抱かれていた。先生も校長先生も紗椰を抱いていた。
諦めに似た紗椰の瞳を思い出すと、庭に転がっていた遺骨を思い出す。
酷いことをしてきた自分は、幸せになれるのだろうかと不安になる。
……
…………
………………
翌朝早く、牛車がやってきた。
「お幸せに」と唯が見送ってくれた。
「ありがとう」
真優は牛車に乗って、龍道を通る。すぐに神社に到着した。
古びた神社だった。付き人も見あたらない。
「遠くから、よくいらしてくれたね」
旦那様は、見た目は綺麗な姿をしていた。
短い黒髪に、優しげな顔をしている。
案内された部屋は、客間のようだ。
十畳ほどの部屋には、特に何もない。旦那様から贈られた着物の篭が部屋の隅に置かれていた。
「疲れただろう、ゆっくり休むといい」
そう言うと、真優をその場に置いたまま、黒龍様は名前も告げず、真優の名前も聞かずに部屋を出て行った。
黒龍様の後を追っていくと、黒龍様は神社の神殿に入って行った。人の姿から黒龍の姿に戻り小さな指輪を守るように体を丸めている。
「その指輪は何?私のものではないの?」
「まさみの指輪だよ。まだ心の整理ができていないんだ。そっとしておいてくれるか?」
「私がまさみさんの代わりになってあげるよ」
真優は大切に抱えている指輪を掴むと、自分の指にはめた。
誂えたようにぴったり合った指輪を、黒龍様に見せると黒龍様は怒りに満ちた顔をしていた。
「返せ!」
鋭い爪が真優の顔を引き裂いた。
「きゃっ」
顔を覆った手を引っ張られ、腕ごと切り落とされた。
「いやー」
黒龍様の神社にはお付きの者はいなかった。
血を流しながら、意識が遠ざかっていく。
新婚の日、真優は出血多量で命を落とした。
亡くなった身柄は後日、牛車に乗せられて、御嵩家に戻された。
火葬された後、花姫の木の肥やしにされた。
美しい着物やお菓子が運ばれていた。
「青龍様のお妃になれるんですか?」
「いいえ、東北にある黒龍神社の黒龍様のお妃です」
「東北って、寒いじゃない。いやよ。私、まだ17歳よ。もっといい物件探して」
「我が儘を言ってはならん。神の御許に嫁げるだけありがたいと思いなさい」
御嵩家の従者は我が儘な真優を叱りつけた。
「わかったわよ。それでどんな黒龍様なの?」
「奥方を事故で亡くした神様です。あまりの嘆きに青龍様が、新しいお妃をと推薦してくださいました」
「後妻なの?だから貢ぎ物も少ないの?」
「少なくはありません。絹でできた立派な着物ですよ」
真優は着物の入れられた篭を開けると、着物を引っ張り出す。
「色が地味だわ」
黄色やピンクの着物だが、花の模様が気に入らないらしい。
「唯が着ているような華やかな着物がいいのに」
「それほど変わりません」
従者は呆れたように言うと、部屋から出て行った。
「真優様、おめでとうございます」
真優のお付きの者が口を揃えて言った。
我が儘な真優のお付きは、四人もいる。
あれが欲しい、これが欲しいと強請るので、護衛ができなくなり、人数が増えてきたのだ。
「私、嬉しくない」
「着物、着てみましょうか?」
「そうね、一番明るい赤いのがいいわ」
「すぐに用意しますね」
煌びやかな赤の着物を着て、真優の顔は明るくなる。
「とてもお似合いですよ」
「思ったより綺麗ね」
薄衣でできた羽織を着て、廊下に出て行く。
美鈴と鉢合わせして、真優は「お嫁に行くの」と言った。
「青龍様?」
「違うのよ。東北にある黒龍神社の黒龍様らしいの。後妻だしあまり乗り気じゃないんだけど。嫌だと言ったら従者に叱られてしまったの」
美鈴は綺麗な着物姿を見て、自分だけが白の着物だと気付いてしまった。
「一枚、私にくれる?着物たくさんもらったんでしょ?」
「いやよ。それに旦那様のものを他人にあげたらいけない決まりになっているはずよ」
「それなら、一度でいいから着させてくれない?私、白い着物しか着たことがないの」
「少しだけならいいわよ」
美鈴は嬉しそうに笑った。
「今でもいい?」
「お付きの者に聞いてみる」
今出てきたばかりの部屋に真優は美鈴を連れて戻ってきた。
美鈴は着物の入った篭からすべての着物を出すと鏡の前であてがって見た。
「綺麗ね」
「そうかな?」
「この黄緑の着物を着てもいい?」
「すぐ脱いでね」
「うん」
美鈴は自分で着付けができる。
派手な帯を選んで、黄緑の着物を身につけた。
「可愛い」
薄衣の羽織も身につけ、真優に散歩に行きましょうと誘った。
「駄目だって、従者に見られたら叱られてしまうわ。着物、脱いで」
「これ、気に入ったの。くれない?」
「駄目って言ったでしょう?」
嫌がる美鈴から、着物を脱がせると、袂がほどけるように破れてしまった。
「美鈴が引っ張るから」
「一枚くらいくれたっていいのに」
「もう帰って」
真優は怒って、美鈴を部屋から追い出した。
「真優様、破れた着物は自分で直しますか?」
嫁入りが決まると、お付きの者は独り立ちをさせるように促す。
「縫っておいて」
「お裁縫の練習をなさっておりません。お嫁に行かれたら自分で直すか、旦那様が用意してくださるお付きの者がすることになりますが、旦那様がお付きの者を付けない方もいらっしゃいます」
「全部、私がするの?」
「お裁縫もお料理もお勉強いたしましょう」
「そんなのいや。旦那様にお付きの者を付けるようにお願いして」
「それは私たちの仕事ではありません」
「もう、役に立たないわね」
「さあ、おかけください」
お付きの者が裁縫道具を持ってくる。
少し縫って見本を見せてくれるが、すっと糸を抜かれた。
「初めから?」
「愛の鞭でございます」
何度も指に針を刺しながら、破れた場所を縫った。
「これでいい?」
「見栄えが悪いので、やり直しです」
「……そんな」
何度も何度も縫い直しをさせられて、やっと綺麗に縫えた。
「さあ、お食事の支度の練習をいたしましょう」
付き人の女性が部屋の奥にある小さな台所で、野菜の切り方を教えてくれる。
「手を切ったら、どうするの?」
「これも慣れでございます」
「田舎に嫁ぐから、こんな苦労をしなくていけないのね」
真優はふてくされている。
「どの花姫様も花嫁修業はなさいますよ。今まで真優様がさぼっていらしただけです」
真優の頬が膨らむ。
「いいわよ、ちゃんと料理くらい作れるようにするわ」
包丁を持って、何度も指を切りながら、夕食の支度をしている。
負けず嫌いな性格が幸いしたのか、婚礼の日までに、裁縫も料理も上達した。
婚礼の前日、久しぶりに美鈴の部屋を訪ねた。
「なによ」
「明日、婚礼です。もうお目にかかることもないかもしれません。お元気で」
美鈴は不機嫌に顔を歪めて、襖を閉めた。
ふーとため息をついた。
美鈴と一緒に悪いことをたくさんしてきた。
唯に毒を盛り、紗椰も殺してしまった。
紗椰を呼び出し、男子生徒に頼んで襲ってもらった。
一度、紗椰を抱いたら、男たちが群がってきて、順番に紗椰を抱いていった。
紗椰は最初泣いていたが、しまいには涙も見せず、表情筋が固まってしまったように、なんの反応も見せなくなった。
学校に着くと、男子生徒たちに抱かれ続けていた。男子生徒はだんだん増えて、たぶん学校中の男に抱かれていた。先生も校長先生も紗椰を抱いていた。
諦めに似た紗椰の瞳を思い出すと、庭に転がっていた遺骨を思い出す。
酷いことをしてきた自分は、幸せになれるのだろうかと不安になる。
……
…………
………………
翌朝早く、牛車がやってきた。
「お幸せに」と唯が見送ってくれた。
「ありがとう」
真優は牛車に乗って、龍道を通る。すぐに神社に到着した。
古びた神社だった。付き人も見あたらない。
「遠くから、よくいらしてくれたね」
旦那様は、見た目は綺麗な姿をしていた。
短い黒髪に、優しげな顔をしている。
案内された部屋は、客間のようだ。
十畳ほどの部屋には、特に何もない。旦那様から贈られた着物の篭が部屋の隅に置かれていた。
「疲れただろう、ゆっくり休むといい」
そう言うと、真優をその場に置いたまま、黒龍様は名前も告げず、真優の名前も聞かずに部屋を出て行った。
黒龍様の後を追っていくと、黒龍様は神社の神殿に入って行った。人の姿から黒龍の姿に戻り小さな指輪を守るように体を丸めている。
「その指輪は何?私のものではないの?」
「まさみの指輪だよ。まだ心の整理ができていないんだ。そっとしておいてくれるか?」
「私がまさみさんの代わりになってあげるよ」
真優は大切に抱えている指輪を掴むと、自分の指にはめた。
誂えたようにぴったり合った指輪を、黒龍様に見せると黒龍様は怒りに満ちた顔をしていた。
「返せ!」
鋭い爪が真優の顔を引き裂いた。
「きゃっ」
顔を覆った手を引っ張られ、腕ごと切り落とされた。
「いやー」
黒龍様の神社にはお付きの者はいなかった。
血を流しながら、意識が遠ざかっていく。
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