花姫だという私は青龍様と結婚します

綾月百花   

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8   花姫たちが襲われています

1   牛車が帰ってきました

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「お散歩に行ってきます」

『行っておいで』


 神殿の中から龍之介に話しかけると、龍之介の声が聞こえた。

 唯はにっこり微笑む。


「それでは唯様失礼します」

「達樹、お願い」


 地下神殿から出るときの長い階段は、達樹が抱き上げてくれる。

 歩いても大丈夫な気がするが、足下が滑るから危ないと説得された。

 階段を上ると、達樹がそっと立たせてくれる。すぐにみのりが手を取ってくれる。


「参拝してから、湖の遊歩道を散歩しましょう」


 雨の日以外の習慣だ。

 散歩にはリベルテと子猫が加わった。

 子猫は唯の治癒の力を使った翌日に散歩中の唯の足下に寄ってきて、「ニャー」と鳴いた。

 神殿に戻ろうとしても離れてくれない。

 リベルテが神殿への階段を降りていくと、それについて降りていってしまった。

 子猫には『アンジュ』という天使の名前を付けた。

 真っ白な子猫は、いつまで経っても子猫の姿だ。

 龍之介はアンジュをペットとしてリベルテ同様に受け入れた。

「唯が助けた子だからな」とそれだけで、洞窟で一緒に暮らすことを許してくれた。

 アンジュはまるで唯を守るかのように、唯の先を歩く。

 湖を一周ゆっくり歩いて、唯は重いお腹を抱えて、ベンチに座る。

 唯がこの御嵩家に来た3月になっていた。


「唯様、そろそろ9ヶ月になりますね」

「そうね。もう生まれても生きていけそうね」

「あと一ヶ月、大事になさいましょう」


 唯を見るみのりの目も達樹の目も優しい。

 今度こそ産めると、唯は大きなお腹を抱えて、心が騒いだ。

 ベンチに座っていると、御嵩家の住人が騒がしく門に向かって行く。


「なにかしら?」


 唯がふらりと立ち上がって人の波に乗って歩いて行くと、慌てたみのりが唯の手を取る。

 御嵩の門が見えた。


「え?牛車?」

「唯様、戻りましょう」


 みのりが手を引くが、唯は「お嫁入りかしら」と言いながら近づいていく。


「唯様、失礼します」


 下の方で閉めた帯に鏡を入れられた。

 お嫁入りなら「お幸せに」と言ってあげたかった。

 花姫たちとは、交流はほとんどないが、祝い事なら幸せのお裾分けをもらえる気がしたし、反対に自分のように幸せになって欲しかった。


「唯様、戻りましょう」

 達樹も唯の手を取った。

 危なくないように二人に手を握られ、帰宅を促される。


「お祝いでしょう?白無垢の花嫁姿を見たいの」

「違います」

「じゃ、なんなの?みんな並んでいるし。あ、新しい花姫かしら?」


 唯は首を傾ける。

 花姫として御嵩家に来たときは、牛車ではなかった。


「新しい花姫ではないわね?」
 

 二人が引き留めるのも遮って、近づいていく。

 牛車は乗り込む扉が開かずに、後ろの扉が開けられていた。

 人々の泣き声がして、唯はやっと足を止めた。


「琴美様。お帰りなさいませ」


 木の棺が屋敷の中に運び込まれていく。


「お嫁に行かれたばかりなのに」と侍女が呟いた。

「唯様、戻りましょう」

「何があったの?」


 唯の小さな呟きに、お迎えにあがった御嵩家の者が、「龍磨様に食べられたそうです」と答えた。


「食べられた?」

「懐妊したばかりのお腹を食べられ、心臓を食べられ息絶えたようです」

「赤ちゃんも食べられたの?」


 唯はふらりと倒れた。


……
…………
………………


「唯、ここは安全だから心配しなくていい」

 ベッドに横になっている唯に、龍之介は何度も言い聞かせる。

「また食べられるのは嫌なの」


「唯は食べられない」

「お願い、私が食べられても、赤ちゃんは守って」

 お腹を守るように丸くなり、唯はすすり泣きしている。

「泣かなくていい。唯も赤子も守る」

「だって、痛かったの。肩が……いっぱい血が出て」

 唯は片手でお腹を押さえて、もう片方の手で龍之介に縋り付く。

 龍之介は唯が龍磨に噛み千切られた肩を撫でて、幻肢痛に苦しむ唯の痛みを霊気で取っていく。心の痛みが取れてくると、唯は眠った。膝に縋り付いたまま眠った唯の肩を撫でる。

 前世のあの時の唯は、自分の体の痛みと闘いながら、龍之介の命を助けた。

 助けたいと想う気持ちだけで、動いていたのだろう。

 命が尽きた唯の傷は、ぎりぎり頸動脈を避けていたが、大きく抉れた肉塊は骨も砕けていて瀕死だったと思えるほどの傷だった。神になった身だったので、動けたのだろう。


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