花姫だという私は青龍様と結婚します

綾月百花   

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9   二度目の転生

1   50年目の邂逅

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 唯が残していった万年桜の花びらが、ちらちらと座視の中まで入ってくる。

 聖域のこの部屋には、龍之介しか入れない。

 龍星も入ることを許されていない。

 唯の遺書は、この部屋の箪笥の中にしまわれている。

 特別な聖域以外での保存は、無理だ。

 この部屋なら、インクのにおいが残るほど鮮明な状態で保存ができる。

 毎日、この部屋で唯の遺書を読むのは習慣になっている。

 暗唱できるほど読んだが、読み飽きることはない。唯がこの手紙を書いた姿を想いながら、この手紙に大切に触れる。


「そろそろ生まれてこぬか?寂しくてしかたない」


 100年まで、まだ50年もある。


 龍神は神なので不死だ。霊力の弱い龍神は霊力が低下すると眠りに入るが、龍之介は青龍神社の神をしているほど霊力は強い。

 生まれてきた龍星も霊力は強い。二人が戦ったら、龍之介は龍星に負けるかもしれないほど龍星の霊気は強い。

 力の強い花姫の子である龍星は、唯のお腹の中で、ずっと唯の霊気に守られ、龍之介の霊気を与え続けたサラブレッドだ。

 成長した姿を見せてやりたかった。

 龍星も50歳になった。

 龍之介が青龍神社の神になったのも50歳の時だった。唯が生きていたら、龍星に青龍神社を預け、唯と隠居暮らしをしたいと思っただろう。

 龍之介は立ち上がると、花姫の生る木に今年もお願いする。



「唯を。唯に会わせてくれ」


 木に縋り付くように木を抱きしめる。

 会いたい。

 会いたい。

 会いたい。

 心が悲鳴を上げるほど、唯に会いたい。

 木から体を離し、万年桜の木の下に行き、降り続ける桜の花びらを全身で浴びる。

 体に、花の香りをつけて、龍之介はもう一度、花姫の生る木に「唯を」と願った。






 花姫たちはどの時代も変わらない。

 強い霊気を持つ花姫に嫉妬をして、虐めたり蹴落としたりする。

 禊ぎの間、花姫たちを見守るが、何人かは流されてくる。

 龍之介は花姫を掬い上げて、陸に上げる。

 神の力を見せることで、花姫たちの悪戯は多生減る。


「父上、花姫たちに処罰を与えたらどうでしょうか?」


 龍星が龍之介の行いを見て、助言をしてくる。


「花姫たちは、人間界で人と同じように自由に暮らしてきた。御嵩家に突然召し上げられて、不満も不便も感じているのだ。多生の我が儘は仕方ないぞ」

「人間界ですか?」

「龍星も人間界で生活してみるか?」

「いいのですか?」

「羽目を外さなければな。鬼になった龍磨は人間界で遊びほうけていた。きちんと学校に通い学ぶのなら人間界に行っても良い」


 龍星は母を思い出したのだろう。

 悲しげな顔をして、それから頷いた。


「勉強をしに出かけます」

「ところで、人間界の学校の勉強はできるのか?」

「見たことがありません」


 龍之介はクスッと笑った。


 龍神の50歳はまだまだ子供だ。


 龍之介は青波に勉学を学び、薬学も医学も学んだ。

 屋敷にある文献を読みあさり、治癒能力のある花姫がいることを知った。


 龍星は剣術に武術を習っていたが、勉強はしてこなかった。

 この機会に、いろんな知識を付けるのもいいだろう。


「神の成績が悪いのは恥にしかならぬ。まず、ここで文字の勉強から始めなさい。龍星の付き人の辰成と勉学に励みなさい。勉強道具は辰巳に用意するように伝えておこう。高校に通えるレベルになったら人間界の高校に通いなさい。大学まで出ても構わない。父は薬学も医学も学んだ。超えてみよ」


「はい。父上、ありがとうございます」


 龍星は龍神の姿になり唯と住むはずだった屋敷に戻っていった。

 屋敷には唯の部屋もあるし、大きな夫婦の部屋もある。あまりに広い夫婦の部屋では、龍之介は寝られない。家具も入れていない部屋は寂しいだけだ。龍之介は客間にと用意した小さな部屋で眠っている。屋敷に仕える人の方が多い家は落ち着かない。

 龍星のために過ごしてきたが、龍星も成長した。龍之介は唯が死んだ神殿の洞窟や花姫の生る木の見える座敷で眠ることも多い。

 龍之介はそのまま辰巳のもとに飛ぶと、辰巳に龍星の勉強のことを頼んだ。

……
…………
………………


 神事を終えた龍之介は、花姫の生る木の様子を見に来た。


「……これは」


 少し芽が出てきていた。

 かすかに香る花の香りと慣れ親しんだ霊気をわずかに感じる。


「唯か?」


 まだわずかに芽を出したばかりの木を眺めて、話しかける。

 この霊気は唯のものに違いないが、まだ芽を出したばかりの状態では、まだ喜べない。

 蕾を付けて、花を咲かせる頃になれば、はっきりわかるだろうが、わずかな霊気だけでは断言できない。

 その夜、龍之介は座敷から戻れなかった。


……
…………
………………


 蕾ができると、すぐに花を咲かせた。

 花はピンク色をしていた。

 唯の強い霊気と甘い香りが漂う。


「唯、やっと生ったか」


 ピンクの花は太陽の光をいっぱいに受けて、すぐに満開になった。

 今から三週間花を咲かせる。


「唯、綺麗だよ」


 龍之介は唯の花に結界をかけた。

 花姫を亡くした龍神のもとには、まだ花嫁は転生していない。

 もしかしたら転生していても、見つけられないのかもしれないが……。

 転生を諦めて、新しい花姫を求めてくる龍神もかなりいる。

 寂しさに耐えられない気持ちはわかる。

 ただ、龍之介の花嫁は唯しか考えていない。

 新しい花姫を求められたら、龍之介は快く花姫を嫁に出す。

 毎年新しい花姫がやってくるので、減らしていかないと部屋が足りなくなるし、花姫も歳を取っていく。

 転生を待っている龍神の嫉妬で唯を傷つけないように、この屋敷全体にも結界を張った。

 一年が経ちピンクの実は大きく育った。

 枝がしなるほどの実の底に触れると、手の中に実が落ちた。

 落とさないように、座敷に戻り、先に小さな布団と絹の布を用意した。

 そっと力を加えると、実は半分に割れた。


「唯」


 顔を忘れるはずがない。小さな唯が実の中で丸くなっていた。

 そっと抱き上げて目の前で見つめる。


「唯、綺麗だよ」


 生まれたばかりの唯を絹の布に包み、龍之介は小さな唯を抱きしめた。

 唯はもぞもぞ動いている。


「ずっと会いたかった」


 唯を小さな布団に寝かせると、唯の花姫の力を封印した。

 龍之介は自分の髪を細く編むと霊力で解けないようにして、手刀で髪を切った。

 細く編んだ髪を唯の手首に巻いた。

 成長してもそのまま伸びるように細工をして、唯が怖い思いをしないように祈願した。


「これで怖いことは起きない」


 危険な目に遭わないように魔術をかけた。


「唯、16年後、待っているからな」


 龍之介は親鳥を呼んだ。


「唯様」
 

 親鳥の夫婦は唯を一目見て、龍之介を見つめた。


「三度もすまない。今度は手首にお守りを付けた。成長と共に体の大きさに伸びていくだろう。これを外さないように教えてやってくれ。怖い思いや危険な目には遭わないはずだ」

「畏まりました」

「優しい子に育ててくれ。16歳になる日に迎えに行く」

「大切に育てます」

 親鳥は唯を抱き上げると、姿を消した。


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