花姫だという私は青龍様と結婚します

綾月百花   

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9   二度目の転生

3   高校生活(2)

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 学校に登校すると、昇降口で男子に声をかけられた。


「君、1年の鈴木唯さん?」

「はい、そうですけど」


 声をかけた男子生徒は、もう片方の男子の肩を叩いた。


「俺は御嵩龍星」

「あ、俺は辰成」

「なにか?」


 龍星と名乗った男子は白銀の髪を後ろで一つに結んでいた。瞳が透き通るような青だ。

 辰成と名乗った男子も髪は長かった。黒い髪を一つに結んでいる。瞳は漆黒だ。


「俺たち三年生なんだけど、よかったら学校の帰り、ケーキでもどう?」

 青い瞳の龍星が、唯を誘ってきた。

「ごめんなさい。今日は早く帰らないといけないの」

「それなら、お昼に学食でご飯一緒に食べない?」

「私、お弁当なの。ごめんなさい」


 唯は軽く頭を下げると、二人の前を通り過ぎた。

 告白や誘われることは多いが、唯は誰にもついて行かない。

 両親から幼い頃から厳しく躾けられている。


『慎みを持って、凜となさいね』


 同級生の皆は彼氏がいるが、唯にはいない。欲しいとも思わない。

 初潮を迎えたとき、母に、『大切な人が見つかるまで、誰にも触れさせてはいけません』と言われた。

 フリーセックスの時代に前時代的だなと思ったが、父の仕事の邪魔はしてはいけない。

 唯は鈴木家のお嬢様だ。

 政治家の娘が奔放に遊び歩いては両親に恥ずかしい思いをさせてしまう。

 処女を守ることくらいたいしたことではない。

 自分を大切にしていれば、自然に守ることに繋がる。


……
…………
………………


 背中で切りそろえられた黒髪を左右で結んでいる唯を二人は見つめる。

 白いブラウスの襟は赤いリボンで結び、クリーム色と茶色のチェックの短いプリーツスカート、黒のハイソックスが女子の夏の制服だ。

 唯に誂えたように、とても似合っている。


「覚えてないみたいだな?」


 辰成が遠慮気味に言った。


「俺の母上だ。ちょっと幼いけど、顔、変わってないよ」


 龍星は人間界に来てから、唯を探して見守っている。

 声をかけたのは、初めてだ。

 龍之介は唯の転生のことは、誰にも黙っていたが、龍星はすぐに気付いた。

 懐かしい花の香りと、すぐに散ってしまったが屋敷や近辺の山々に花が咲き乱れた。

 一年後、また懐かしい香りがして花が咲き乱れた。

 すぐに花は散り懐かし香りも消えてしまったが、花姫の生る木に母が生り、生まれたのではないかと推測した。

 父を問い詰めると、父は『唯が生まれた』と教えてくれた。『これは秘密だ』と釘を刺された。

 龍星はすぐに人間界に出てきた。

 名目は医学と薬学を学ぶと言い。いきなり大学に入った。

 医学と薬学を学んだ後、唯が通っている付属の高校に入学した。

 幼い唯は少しずつ成長して美しくなっていく。

 思った通り唯は龍星が通っている高校に入学してきた。

 父からは、姿を見せるな。声もかけるなと言われているが、唯の姿を見ていると懐かしさを感じる。

 すぐにでも抱きつきたい衝動をいつも抑えている。


「やっと15歳だな。あと少しで召し上げられる」

「俺のこと思い出してくれるかな?」

「別れたのは、龍星が2ヶ月の時だ。今の龍星を見て、龍星だとわかるはずがない」

「辰成。今の胸を抉った。俺は母上のこと忘れたことはないよ。俺を庇って鬼を引きつけた姿も倒れて死んだ姿も、覚えている。母上の心臓が止まった瞬間も覚えている」

「60歳以上年上の龍星に、母上と言われるのは戸惑うだろうな。今の唯様は15歳の少女だ」

「召し上げられる前に、せめて仲良くなりたい」


 龍星は唯の背中を見つめる。

 可愛らしい笑顔を浮かべて挨拶をしている。


「それなら、この人間界で母上とは呼ぶな」

「母上は母上だ」


 龍星より年上の辰成は、拗ねた龍星を宥めるように肩を抱いた。


……
…………
………………


 教室でお弁当を食べていると朝に声をかけてきた男子が、教室にやってきた。


「唯さん、一緒にご飯食べない?」


 龍星は手にお弁当を持っていた。

 辰成が瞬間移動で調達してきた物だ。

 机を寄せて、二人で唯の前に座る。

 ほとんどの生徒が学食で食事を食べる中で、唯だけが教室に残ってお弁当を食べていた。


「二人は、学食に行かなかったの?」

「俺たちもお弁当だったんだ。だから、一緒に食べないかなと思って」

「そうだったんだ?きちんと聞かなくてごめんなさい」


 唯はわざわざ手を止めて、頭を下げる。


「みんな学食に行くから。私以外にお弁当の人がいるなんて思わなかったの」

「唯さんはどうしてお弁当なの?」

「母が作ってくれるから。最近は私も一緒に作っているの」

「優しいお母さんなんだね?」


 唯は頷いて、お弁当を食べ出す。

 龍星と辰成もお弁当を開く。


「龍星さんと辰成さんは、どうしてお弁当なの?」

「学食に飽きて」


 龍星が答えて、辰成は笑った。


「学食の味付け、ちょっと濃いんだ」

「やっぱりそうなんだ。私、薄味で育ったから濃い味に慣れてなくて。母がきっと濃いからって、作ってくれるんです」


 唯は小さな弁当箱を空にして、蓋を閉める。

 龍星と辰成もお弁当を急いで食べる。


「ゆっくり食べて。私、おやつを持ってきているの。よかったら食べる?」

「食べる」


 龍星はお弁当を食べながら、答える。


「何を持ってきたの?」

「昨日の夜に作ったサブレ」


 一つずつ包んだサブレを、龍星と辰成に二枚ずつわたすと、唯は包みを解いて、サブレを口にする。

 唯の頬が綻んでいる。

 龍星と辰成は、急いで弁当を片付けると、机に置かれたサブレの包みを解いて、口にする。


「あ、美味しい」


 龍星は手作りのお菓子を口にして、目に涙を溜めた。

「泣くほど美味しいの?」

 龍星を見て、唯は微笑んだ。

「コップ持っていたら、紅茶も入れてあげる」

「コップ、持ってくるよ」


 辰成はすぐに席を立って廊下に出て瞬間移動で自宅マンションからコップを二つ持ってくる。

「お待たせ」

「早いのね」

「足は速いんだ」


 唯は水筒の中に入った紅茶を、二人のコップにいれてあげた。


「どうぞ」

「ありがとう」


 龍星と辰成は同時にお礼を言う。息はぴったりだ。

 おかしくて唯は笑う。


「足が速いって、どんな部活しているの?」

「剣道」


 龍星は指で刀を作って、ゆっくり上から下に下ろした。


「強いの?」

「それなりに」

「それなりに?」


 唯は首を傾げた。二つに結った片方が後ろから前に流れてきた。

 髪は胸元を隠す。艶のある黒髪は、昔と変わらず美しい。


「国体の優勝者と準優勝者」


 龍星が自分を指さし、隣の辰成を指で突っつく。


「すごい。決勝は二人で戦ったのね?」

「そう。こいつ手加減しやがった」


 龍星は辰成の肩を押す。


「手加減はしてないよ。もともと俺たちは互角だ。どちらが勝っても時の運だ」


 辰成は龍星に、笑って応えた。


「私はテニス部で、新人戦で三位だった」


 その姿も見ていたが、二人とも驚いた顔をしてみせた。


「唯さんもすごい」


 唯は微笑んだ。


「テニスは中学の時からやっていたの。中学の時は県大会で準優勝だった。高校では国体まで行きたいなって思っているの。だから練習、頑張らないと」


 16の誕生日でここにいられなくなるって知らないから、夢があるんだ。

 二人は唯の言葉を聞いて、複雑な気持ちになる。


「部活中の唯さんを見に行ってもいい?」

「いいよ」


 唯は二枚目のサブレをゆっくり食べている。

 龍星は二枚目のサブレを、今度はゆっくり食べた。

 初めて食べる味だった。それでもそれがすごく美味しい。


「龍星さんって、綺麗な瞳ね。髪も白銀なのかな?どこの国の人?」

「日本産」


 唯はクスクスと笑う。


「日本で生まれたのね。瞳も髪も綺麗な色ね」


 唯はじっと龍星を見つめる。

 無意識に手首のお守りに触れていた。

 同じ色。綺麗な青い瞳。白銀の長い髪。懐かしく暖かい気持ちになってくる。

 微笑んでいた唯の頬に涙が流れ落ちていく。

 ポトンと涙が手の上に落ちて、自分が泣いていることに気付いた唯は急いで涙を拭う。


「ごめんなさい」


 唯は席を立つと、教室から出て行った。


「俺、何かしたか?」


 龍星が辰成に真顔で聞く。


「唯様は一度目の転生の時、前世記憶を思い出していたらしい。二度目の転生の時も少しずつ思い出すのかもしれない。龍星と龍之介様はそっくりの顔をしているだろう?」

「だから、会うなって言われたのか?」

「15歳から次の誕生日を迎える前は、不安定になるらしいし。母上が言っていた」


 辰成はポケットの中から、サブレを取りだして、龍星にわたした。


「母上様の手作りのおやつだ。今日が初めてだろう」

「くれるのか?」

「俺は母上に作ってもらっているから、龍星が食べろ」


 龍星はその場で食べずに、ポケットに入れた。

 ゆっくりコップの中の紅茶を口にする。

 飲み慣れないお茶だが、美味しい。龍星も目に涙を浮かべていた。


……
…………
………………


「私、どうしたんだろう?いきなり泣き出すなんて。きっと二人を驚かせてしまったわ」


 唯はトイレで顔を洗って、ハンカチで濡れた顔を拭う。

 笑っていたのに、急に悲しい気持ちになってきた。

 涙の理由は唯にはわからない。

 教室に戻ると、二人の姿はなかった。

 初めて異性とお弁当を食べたが、不快な思いはしなかった。

 出してあった水筒を片付けて、机の上を綺麗に拭く。借りた前の席の机も綺麗に拭いて、雑巾を洗いに手洗い場に行き、雑巾を洗って手も綺麗に洗う。

 食堂に行っていたクラスメイトが戻ってくる。


「唯、ただいま」

「おかえり、みんな」

「唯も食堂に一緒に来たらいいのに」

「私、お弁当だし。食堂の席取り大変なんでしょう?」

「争奪戦かな?」


 親友の佳奈が唯の手に何かを握らせた。


「なに?」

「お土産」


 手を開くと、飴が一つ乗っていた。


「わぁ、ありがとう」


 唯は包みを開いて、飴を口に入れた。


「酸っぱい」


 佳奈は声を上げて笑う。


「今、唯、甘い飴だと思ったでしょう?」

「うん」

「レモン果汁の飴なんだって、ビタミン補給。部活の後も食べさせてやるよ」

「ありがとう」

 酸っぱい味に、顔がきゅっとなる。

「唯って可愛い」

「素直すぎて、構いたくなるね」

「疑いもせずに、口にするなんて。パッケージにレモン100%って書いてあったでしょう?」


 順々に唯は女子に囲まれていく。


「唯はお嬢様だから、素直すぎるんだよ」

「お嬢様って、威張ってない?」

「そうよね。市長の娘の勝間さん、威張り散らして、クラスメイトを下僕のように使っているよ」

「私は、そういうのは違うと思うの。友達は平等だよ。父親の仕事が、それぞれ違うだけ」

「ほら、唯は可愛い」


 佳奈が唯を抱きしめる。

 佳奈は小学受験の時からの友人だ。

 受験番号が並びで、唯の前が佳奈だった。緊張している唯に佳奈はキャラメルを一つくれた。甘いキャラメルを食べると、緊張がほぐれてきた。

 入学式の時、唯は佳奈と再び出会って、偶然同じクラスだった。それ以来、佳奈は唯の特別な友人になって、今では親友だ。部活も同じテニス部で唯と一緒に楽しんでいる。


「今日の部活、一年生はラケットを持って走るんだって」

「打たせてもらえないのかな?」

「部長の気分次第かな?」

「そっか」


 部長は勝間だ。彼女はテニス未経験者だ。

 まだ一年なのに、権力で部長の座を手にした。

 小さくなった飴を舌で転がすと、また酸っぱい味が出てきた。

 予鈴が鳴って、教室に戻る。


「唯、勝間さんには気をつけなよ。なんだか張り合っているみたいだから」


 佳奈が小さく耳打ちして、軽く手を振る。

 同じクラスだが、席が離れている。


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