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9 二度目の転生
4 高校生活(3)
しおりを挟む部活の時間に唯は勝間に呼び出された。
「鈴木唯、ラケットを貸して」
「嫌です。ラケットは私の手に合うように調節しているんです。勝間さんには使いづらいと思います」
「いいから貸して」
勝間はギロッと唯を睨む。キツい言葉使いと威張った態度に、唯は辟易していた。
ラケットは奪うように取られた。
「1年生はグランド走ってきなさい。鈴木唯も走って来なさい」
部長命令なので、柔軟体操をしていた1年部員は立ち上がり、グランドを走り出した。唯も仕方なく走り出した。
ちらりとお昼に一緒にお弁当を食べた二人の姿が見えて、軽く頭を下げる。
他の部員たちは手にラケットを持っているが、唯の手にはラケットはなかった。
佳奈が唯の横に並ぶ。
「ラケット無事に返ってくるといいけど……」
「勝間さん、ラケットが良ければ腕が良くなると思い込んでいるのね。基礎練習をしないでいきなりボールが打てるわけがないのに」
唯はふうっとため息をつき、相棒のラケットを案じた。
命じられたグランド十周を終えると、足が震えるほど疲れて、ほとんどの生徒がグランドに倒れている。
唯は息を乱しながら、テニスコートを見つめた。
「もっと打ちやすいボールを投げてよ」
相手になっている生徒は、もうラケットで打っていなかった。
手でボールを勝間の前に投げているが、勝間はそのボールも打てない。
「ボールも見てないし、フォームもめちゃくちゃ。あのボールを打てないとかセンスもないわね」
佳奈が隣にやってきて、唯にこそりと言う。
「基礎練習から始めた方がいいと思うんだけど」
「あのお嬢様は地道な練習が嫌なんだって」
最近では、顧問の先生も来なくなった。
「ここのテニス部も終わったわね。国体常連校の名が廃る」
唯はじっと自分のラケットを見つめていた。
「なんで打てない球しか来ないの?」
勝間は癇癪を起こして、唯のラケットをベンチに投げつけた。
「あっ」
ラケットはベンチの角にあたり半分に折れてしまった。
「唯」
「私のラケット」
中学から使い続けていたラケットが、壊れてしまった。
唯はテニスコートに走って行った。
「なんて乱暴なことをするの?」
「あなたのラケットがへっぽこだからだよ」
「このラケットは中学の時、県大会まで行った立派なラケットよ」
唯はベンチの前で膝をつき、壊れたラケットを大切に拾う。
「弁償すればいいんでしょう?いくら?ラケットっていくらで買えるの?」
勝間はまわりの生徒に聞くが、誰も答えない。
「金額の問題じゃないわ。テニスをするならラケットを大切に扱ったらどうなの?それにこれは自分の所有物じゃないでしょ?」
「鈴木唯、私にお説教するの?父親が政治家だから権力で私を威圧するの?」
唯は言葉を失った。
父親の権力で、威張り散らしている勝間とは同じにされたくない。
「私は威圧したことはないわ」
勝間が歩いてテニスコートの端に置かれた自分のラケットを持って、唯の前に差し出した。
「ラケットが欲しいなら、私のお下がりをあげるわ」
ポンと目の前に投げられた勝間のラケットは、まだ真新しい。
「ラケットが強いのか、鈴木唯が強いのか。私のラケットを使ってみたらわかるんじゃない?」
唯が新人戦で三位入賞したのが、勝間は気に入らないのだろう。
初めから、唯のラケットを壊すつもりだったのかもしれない。
唯は目の間に落ちているラケットを拾った。
部員の全員の目が唯と勝間を見ている。
「試合でもしますか?」
唯は勝間に聞いた。
投げられたボールも打てない勝間に試合ができるとは思っていない。
「そうね、あなた。名前、なんだったかしら?」
勝間は佳奈を指さした。
「二人で試合してみせて」
「なんで私が唯と試合しないといけないわけ?」
佳奈は中学から唯のパートナーだ。ダブルスをするときは必ず二人はペアーになった。
「部長命令よ」
勝間はそう言うと、テニスコートから出て行った。
「唯、悔しいだろうけど泣かないで」
「唯さんだけじゃない。他の部員もラケットを破損されたんだ」
「もう我慢できない。あの部長になってから、私たち練習できない。このままじゃ練習もできないし練習試合もできない。大会にも出られない」
上級生たちは、勝間の態度に腹を立てている。
勝間が入部するまで部長だった、三木が悔しそうにしている。
奪われるように、部長の座から降ろされて、今では口出しもさせてもらえない。
「顧問の先生に直談判するしかないわ」
「唯は期待の新人だから、こんなことで壊れないでね」
三年の先輩が、呆然と立っている唯の肩に触れた。
返事はできなかった。
「唯、帰ろう。私たちが試合する必要なんかないよ」
「ねえ、佳奈。私と真剣な試合しよう。私が勝てたら勝間さんに部長を降りてもらう」
「それなら私、手加減するわ」
「手加減したって気付かれたら、勝間さんは部長を降りないよ」
佳奈は唯を見つめる。残った部員たちも唯を見つめていた。
「唯さん、お願い。勝間さんからテニス部を取り戻して」
元部長の三木が、一年の唯に頭を下げた。
他の部員たちも、唯に頭を下げている。
もう引き返せない。
佳奈だけが不安な顔をしていた。
……
…………
………………
急いで家に帰った唯は、母親に家事を習い、お菓子作りも習う。
最近では食事を作ることもお菓子を作ることも慣れてきた。
習い事をすべて辞めて、ひたすら家事を習う。食事の支度が終わると、唯は制服や部活で使った体操服を洗う。
母に言われた仕事をすべて終えると、唯は折れたラケットを大切にしまい、勝間のラケットを磨いた。
もともと使っていない勝間のラケットは新品同様だ。
手の小さい唯のサイズに合うように、グリップを解いて、新しく巻いていく。
しっくりくるまで何度も繰り返して、こっそり庭に出てラケットを振る。
「私の手に馴染んで」
ラケットに囁いて、ラケットを振り続ける。
屋敷の外から、龍星と辰成が唯の姿を見守っていた。
『母上は負けず嫌いなんだな?』
『うちの母上が、唯様に助けられたと言っていた。昔から性格は変わってないのかもしれないな』
声が聞こえるといけないので、二人は声と姿を消して話す。
『こら、お前たち、唯に接触するなと言っただろう』
龍星の頭に大きな手が乗った。
『父上、何をしにきたんですか?』
『唯の危機に来ないわけにはいかないだろう?』
『危機ですか?』
龍星は父親を見つめる。
『唯の腕輪と俺は繋がっている。唯に何かあればすぐにわかる』
『父上、ストーカーですか?』
『あはははっ!前にも唯に言われたことがあるな』
『笑い事ではありません。手に馴染んでいないラケットで勝負をするなんて無茶をする』
『唯は昔から、時々、無茶なことをしてきた。唯らしい事だ』
龍星はのんきな父親を不満げに見るが、龍之介の手が、龍星の頭を撫でた。
『唯は勝てる。見守ってあげなさい』
『はい』
『龍星と辰成、あまり唯に接触するな。今のところ唯に記憶は戻っていないが、これから思い出してくるかもしれぬ。そのとき龍星の姿を見て唯が戸惑う』
『俺と父上を間違えるのですか?』
『これだけ似ていれば間違えるかもしれぬ。先に言っておくが唯は父の花嫁だ。おまえの母だ。よく覚えておけ』
龍之介の気配が消えた。
「唯、そろそろ家に上がりなさい」
黙って抜け出してきた唯は、父親の声に飛び上がるようにビックリしていた。
「すぐに、戻ります」
こそっと庭から上がると、テニスシューを掴んで扉を閉めた。
「こんな遅くまで外にいてはいけない。女の子の自覚はあるのか?変な男に襲われたどうする。もっと危機管理をしなさい」
「ごめんなさい」
唯は叱られている。
龍星と辰成は唯の気配を探る。
唯は急いで玄関に靴を持っていくと、部屋に戻ってラケットをカバーに入れて、着替えを持ってお風呂に入っていった。
『龍星、風呂まで覗くなよ』
『覗いてはいないよ』
二人は人間界の家にしているマンションに戻った。
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