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11 四神獣の誕生と花姫の解放
2 四神獣と花姫の解放
しおりを挟む散歩は日課になった。
もう車椅子は必要なくなった。部屋から神社に参拝して、湖を取り巻く遊歩道を歩いて行く。
「母上、一度に無理はしないでくださいね」
「もう平気よ。ちゃんと歩けるもの」
唯はもう怖がったりしなくなった。
「龍之介様はお仕事に行っていらして」
心配そうについてくる龍之介に、唯は微笑みを向ける。
「そうか、それなら俺は離れた場所から見ていようか」
少し拗ねたように龍之介は言って、唯にハグをする。
唯は照れくさそうに、龍之介の胸を押す。
「龍星が見ているでしょ?」
「迷惑か?龍星」
「いいえ、どこでもいちゃついてください。なんならさっさと弟でも妹でも早く作ってください」
唯の顔が真っ赤に染まった。
「母上はまだ人の身ですから、心配でたまりません」
龍星はじろりと父親を睨む。
「父上がもたもたしていると、俺が母を奪ってしまいますよ」
「親子で、物騒な話をしないでよ。私、息子と結婚するつもりはないよ」
唯は手を繋ごうとした龍星の手を取らずに、歩き出した。
「母上、待ってください」
龍星は唯の後から駆けていく。
運動をしていただけあって、唯は身軽だった。
恐怖を克服した唯の足取りは、しっかりしている。
急いで唯の手を取る。
「龍星、冗談でもいやよ」
「すみません、母上」
唯はクスッと笑う。
「でも、私が母上って、おかしい。私、まだ15歳よ。何歳の子?-65歳の子。マイナス……」
唯は一人で笑い転げている。
箸が転んでもおかしい年頃……龍星は大学で読んだ本を思い出して、些細なことでもよく笑う幼い顔を見つめる。
ピヨピヨとオレンジの小鳥が飛んできて、唯の足下には亀が一緒に歩いていた。白い猫は先導している。
「リベルテとアンジュ、クリッターもいつの間に。一緒に散歩しましょう」
可愛いペットの出現に、唯は喜んでいる。
「休憩しましょうか?」
「大丈夫よ」
「母上、一度に無理はしてはいけません」
湖の中間地点のベンチに、唯は龍星に引っ張られるようにして座らされた。
一羽と二匹は唯の足下でおとなしくしていたが、突然リベルテが羽ばたきを激しくして上空に上がっていく。
「どうしたの?リベルテ」
唯は立ち上がると、上空の小鳥の姿を見上げる。
すぐに龍之介が唯の横に立った。
足下のアンジュが身を震わせている。
「アンジュ?」
白い子猫はだんだん大きくなり巨大な虎の姿になった。小さな亀は巨大な亀の姿になっていく。亀の体に白い蛇が巻き付くようにして、大きな口を開けた。
「なに?」
龍之介は咄嗟に唯に結界を張るが、結界を破るほどの力が唯の体を背に乗せて、跳躍した。
「いやっ」
唯は大きな白虎の背に乗せられて、湖の真ん中にある岩の上に連れて行かれた。
「唯!」
「母上!」
二人は咄嗟に青龍の姿になり空に飛び立った。
「玄武、白虎、朱雀か?」
龍之介は唯の上空で三体を呼んだ。
「どちらの青龍が、我々の花姫を二度も葬った?」
「俺だ」
「他は下がれ」
亀の形の玄武が低い声で命じた。
「龍星は下がれ」
「父上、ですが」
「今は逆らうな」
龍星は人の形に戻り、達樹とみのりが心配そうに見守る場所に戻った。
唯は岩の上で震えている。白虎の鋭い牙が唯の細い首の近くにあり、身動きできないようだ。
「我々は高祖花姫様の守り神。白虎もういい」
「はっ」
白虎は唯から放れて西に飛んだ。
「青龍、なんと無様な。二度も高祖花姫様を死なせるとは」
南にいる朱雀が声を上げる。
「高祖花姫様の結界を忘れて心臓を抉られるなど、なんと愚かな」
西にいる白虎が声を上げた。
「高祖花姫様は心優しい。その優しさに甘えておるのではないか?」
北いる玄武が、一番低い声で龍之介を追い詰める。
「我々は高祖花姫様の守り神、青龍、東に来い」
龍之介は言われたとおり、唯を中心にして東に着いた。
「これで結界ができあがった」
上空が暗くなり、白銀の結界が唯を中心にできあがり、唯の体が輝き始め、上空に上がってくる。
唯の顔は、幼い顔をしていなかった。
神の力で見た美しい姿とも違う、崇高な霊気に見たこともないほどの美しい顔立ちをしていた。
「北の玄武、南の朱雀、東の青龍、西の白虎。よく来てくれました」
唯の声がする。
黒い背中まである髪が足下まで伸びて風に広がっている。
さっきまで着ていた和服はなくなり、白いドレスに替わって体中から光を放っている。
「世界中の花姫の力が弱まっています。力が弱くなっているために、紛争が起き、事件や事故が起きています。地殻変動も頻繁に起きています。どうか力を貸してください」
「畏まりました」
玄武が答え、朱雀が答え、白虎が答えた。最後に龍之介も答えた。
「我々はあなたを守護する四神獣。我々の中から永遠の夫を決めてください」
光り輝く唯はくるりと体を回す。
星のきらめきがこぼれ落ちるように、キラキラと唯から光が溢れ落ちていく。
あまりの美しさに、龍之介は唯から目を離せずにいた。
龍之介を見て、唯は微笑む。
「青龍、この手を」
龍之介は唯の前に出ていった。唯の手が龍神の手に触れると、その場所が輝き、花の刻印が刻まれた。
「未来永劫、共にありますように」
澄んだ綺麗な声ですべを告げると、唯の体が、地上に落ちていく。
龍之介は急いで人の形に戻り唯を抱きしめて、池の上の岩の上に降り立った。
他の三神獣も人の形になり岩の上に降り立つ。
誰もが唯の体を受け止めようとしたように見えた。
玄武は厳つい顔をしていた。短い黒い髪をして服装も黒い着物を着ていた。年齢は一番年上に見える。
朱雀は紅い着物をお洒落に着流し、紅い髪が長い。顔立ちは若いが正式な年齢はわからないだろう。
白虎は肩までの白い髪をしていた。全体に白っぽい着物を着て、顔立ちは幼く見えるが、やはり正式な年齢はわからないだろう。
「青龍、我々の中で一番若い神よ。必ず高祖花姫様をお守りするように」
「承ります」
「高祖花姫様は普段は神として天上におられる。地上には滅多に降りられない。地上の嘆きに、力になれればとおっしゃり花姫の生る木に実った」
玄武がいきさつを龍之介に話す。
「悲しませたら、その白銀の髪を一本残らず抜くわよ」
紅い朱雀が、龍之介の長い白銀の髪を引っ張る。
「もふもふの癒やしパワーは俺の方が上だったはずだ。邪魔をしてやる」
白虎は長い白い尻尾で唯の体に触れている。
「青龍、龍之介。我々は高祖花姫様の守護神だ。もともとおる青龍はそなたと高祖花姫様の様子を見て、この場を譲った。天上から監視していると言っておった。しっかり励め」
「はっ」
龍之介は頭を下げる。
神にも上には上がいる。
龍之介も年齢を重ねたが、まだまだ神としては若い方だ。
「そなたの屋敷に世話になるぞ」
「勝手に決められては困ります」
龍之介は明らかに唯に気がある三人の滞在の許可を拒んだ。
「この敷地にそれぞれの社を至急造らせよう」
「そうか、それも良かろう。社ができるまでは邪魔をする」
やはり三神獣の中で玄武が一番強いのか、玄武がすべて決めていく。
玄武は幸せそうな唯の顔を見てから、龍星の前に飛んだ。
「小僧。屋敷まで連れていけ」
「小僧?俺ですか?」
「まだ生まれて十数年の子供の名前など、呼んではやらぬ」
龍星は明らかに不機嫌な顔をしたが、後ろに控えていた達樹とみのりが「お連れいたします」と言って、空に飛び上がった。
「こちらでございます」
五人の姿が消えた。
「あー、もう。屋敷がめちゃくちゃにされそう」
龍星は五人を追いかけるように瞬間移動をしていった。
……
…………
………………
腕に抱き上げた唯は、今までの唯の中で一番美しかった。
「高祖花姫様か……」
他の花姫とは明らかに違う霊気と花の色と実だった。
確かに、どの花姫とも違っていた。
「唯」
流れる霊気は清らかで、静かに凪いでいる。
白い美しいドレスは、元々の高祖花姫様の正装なのだろう。
滑らかで美しい。
腰までだった髪は、長くなり浮かんでいなければ、地面についてしまう。
整った美しい顔立ちは、もともとの成長した姿なのだろう。
いつも、龍之介は唯の顔を作り替えてきていた。
手を加えなければ、この美しさに育ったのだろうと思うと、安易に作り替えてきた自分の身勝手さに腹が立つ。
(やはり俺は神として、まだまだ幼い)
「唯、目は覚まさないのか?」
唯の瞼がゆっくり開く。
「……龍之介様」
龍之介は唯の体を遊歩道の方へ連れていく。
湖の岩の上にはいい思い出はない。
ゆっくり地面に下ろすと、長いドレスが足を隠す。
「私、いつの間に着替えたのかしら?」
長く伸びた髪が、風を受けて膨らむ。
「唯は高祖花姫様だったのだな」
「なにかしら?」
「忘れてしまったのか?」
「今の私は嫌い?」
唯は長い髪を器用に纏めて、地面に落ちていた枝で髪を留めた。
枝から、蕾が出て花が次々に咲いていく。
「靴がないの。天上では必要なかったから」
唯が歩いた後から、何かが芽吹いていく。
「龍之介様、連れて帰ってくださいますか?」
「ああ、おいで」
龍之介は唯の体を横抱きにして、瞬間移動をして屋敷に戻った。
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