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1 二度目の家族
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亜里砂は急いで部屋に戻ると、部屋の中に手を繋いでいた手を胸に抱くようにして座り込んでいた。
「心臓に悪い。めっちゃドキドキした。亜里砂って呼んでくれた。私はなんて呼んだらいいの?お兄ちゃん?友麻さん?」
赤くなった顔が冷めてくるまで亜里砂は、手を胸に抱いていた。
友麻に言われたように、お風呂に入ると、扉の外に『亜里砂』と書いた札が、扉についていた。
「誰かが入ってこないようにつけてくれたんだ」
札を反対に向けると『ご自由にどうぞ』と書かれていた。
亜里砂は微笑んで、札を反対にした。
(友麻さんが作ってくれたんだ)
自分の部屋に戻って、櫛を梳かす。
扉がノックされて、亜里砂は扉を開けた。
「あ」
新しいお母さんが立っていた。
「急いでお母さんと呼ばなくてもいいわ」
「はい」
「亜里砂ちゃんにプレゼントよ。祐輔さんに聞いたら、お肌のお手入れは教えてないと言っていたから。入ってもいいかしら?」
「はい」
「まずは鏡ね。ドライヤーもあるわ。これは化粧水が入っているの」
四角い箱をわたされた。
「ありがとうございます」
「ありがとうでいいのよ」
「はい」
「使い方はわかるかしら?」
新しいお母さんは、大きな箱を開けると、中から開封されていない箱を取り出していく。
「順番に並べるわね」
「はい」
「化粧水に美白クリーム。夜はこの後、乳液ね。朝はね、この乳液の代わりに、この乳液を使うの。お肌を焼かないための乳液だから忘れちゃ駄目よ。覚えられた?」
「はい」
「もっと大きくなったら、化粧品も買ってあげるわ」
亜里砂は微笑んだ。
(優しいお母さん)
「亜里砂ちゃんは、もう生理は来た?」
「まだです」
「そう。準備をしておかないといけないわね。明日のお休みに買いに行きましょうか?」
「お願いします」
「娘ができて、嬉しいの。一緒に料理やお菓子を作ってみたかったのよ」
「いろいろ教えてください」
「いいわよ。まずは化粧水をお顔につけて、髪を乾かしてね。櫛も新しいのがあるから、それを使って。それが終わったらキッチンにいらっしゃい。お料理を一緒に作りましょう」
「はい」
新しいお母さんは、部屋から出て行った。
(このお母さんは怖くはない)
広い机に鏡を置いて、三面鏡を開く。初めて、横からの自分の顔を見た。
箱から化粧品を出して、並べられたように並べていく。
順番を覚えるために、名前を確認していく。
「いっぱいつけるんだ」
箱に入っていた説明書を読んで、一つ一つの量を確認していく。
一通り読み終えた後に、顔につけていく。
「あ、肌がしっとりしてきた」
新しく用意された櫛は、髪に引っかからない。綺麗に梳かして、ドライヤーをかける。
家にもドライヤーはあったが、もらったドライヤーは風量もあり、冷風も出る。
乾かした後、髪を梳かすとさらさらになった。
(お母さんってすごいんだ)
記憶にある生みの母の姿は鬼だった。
顔を見れば叩かれ、蹴られ。灰皿の代わりにたばこを押しつけられて、熱湯をかけられた。
食事はもらえる日は一日一回菓子パン一つだった。
男を連れ込むときは、ベランダに出された。
少しでも声を出したら、後からいっぱい蹴られて何度も意識を失った。だから、母親の前では何も話せなかった。声の出し方も忘れるほど、恐れていた。
父親が戻ってきても、何年もきちんと話せなかった。
(何度もお母さんの夢を見て、うなされて、お父さんに抱きしめられた)
最近はやっと夢に見なくなってきた。
傷を見るたび思い出す亜里砂を見て、父親は亜里砂から傷を消してくれた。
三面鏡の鏡を閉じると、化粧品はそのまま並べたままにした。空になった箱は大きなケースに入れて机の下に置いた。
ドライヤーのコンセントを抜くと、綺麗に纏めて、スタンドに置いた。
迷いながらも、キッチンに向かう。
「待ってたわよ。まずは手を洗ってね」
「はい」
ハンドルを下げようとしたが、水が出てこない。
「ハンドルは上にあげてね」
「はい」
ハンドルを上にあげると水が出てきた。
目の前にあるハンドソープで手を洗うと、「野菜を洗ってくれる?」と言われた。
一つずつ丁寧に洗っていく。
「上手よ」
新しいお母さんが笑った。亜里砂も微笑んだ。
「お、二人で料理を作っているのか?」
「祐輔さん、おかえり」
(お父さん、お帰りって言う前に言われちゃった。私は黙っていた方がいいの?)
亜里砂はわからなくて、俯いた。
「亜里砂、お帰りは?」
「おかえりなさい、お父さん」
「着替えていらして。お風呂も空いていると思うわ」
「じゃ、先に入らせてもらうよ」
祐輔は二人の寝室に向かったのだろう。
「亜里砂ちゃん、サラダをお皿に盛り付けてくれる?」
「はい」
「お皿はこれね」
大きな食器棚を開けられた。
たくさんの食器が入っていた。中段の白いお皿を出されて、並べられる。
お皿は四枚だった。
そのお皿にサラダを盛り付けていく。
トマトやキュウリは切ってくれた。
友麻がキッチンの前に来た。
「母さん、亜里砂にエプロン作るか買ってやって、パジャマが濡れるじゃないか」
「あらほんとだ」
「濡れても別にいいの」
「明日、買い物に行くから見てきましょう。気に入った形があったら作ってあげるわ。友麻も手伝ってあげて」
「いいよ。運べばいい?」
「コップや箸も出してちょうだい」
「亜里砂、見てろよ。食器はここに入ってる」
友麻は食器棚を開けた。
「この花のついたのが亜里砂のだ。竹のついたのが、お父さんのだ。俺のは青いの。お母さんのは白く透かしの入ったもの。箸はピンクが亜里砂の。俺は青で母さんは赤だ。お父さんは黒だ」
「うん」
友麻は丁寧に、亜里砂に教えていく。
(友麻さんは、ちゃんとお父さんって呼んでる)
「机の場所も教えるから、サラダを持っておいで」
「うん」
(友麻さんが隣になった。お父さんが斜め前だ。誰が決めたんだろう)
急に父親から引き離されていく。
三人で『いただきます』をして三人は食事を食べ始めた。
亜里砂は一人で俯いている。
「亜里砂、食べなさい」
「はい」
父親に言われて、亜里砂は食事を食べ始める。
(ああ、おいしい。これがお母さん料理なんだ。お母さんの菓子パンとは違う)
ごちそうさまは、きちんとできた。
「食器は各自で運ぶんだ。食器洗浄機があるから自分で入れていくの」
「うん」
「食器を持っておいで」
「うん」
友麻に連れられて、食器の入れ方を教わる。
「冷たいお茶なら冷蔵庫に入ってるから、好きなときに飲んでいいよ。コップがわからなくなったら、ここにグラスがある」
友麻は食器棚の引き出しを開けた。
「わかった」
「おいで、歯ブラシとタオルの場所教えるから」
「うん」
友麻が亜里砂の手を掴んで連れていく。
「友麻君が、ずっと亜里砂の世話を見てくれているのか?」
「友麻には、話をするみたいなの。私はまだ呼んでもらえない」
「すまない。母親にトラウマがある。再婚を許してくれただけ成長している。様子を見よう」
「そうね、慌てたらいけないわ」
その夜、亜里砂は久しぶりに母親に虐待されている夢を見た。
「ううううううううっ」
嗚咽の声が聞こえて、友麻は亜里砂の部屋を覗いた。
体を丸めて、痛みに震えている姿を見て、友麻は驚いた。
父親を呼ぼうかと部屋を出るが、夫婦の寝室に近づくことはできなかった。
親が抱き合っている姿など、見たくはない。
母親が再婚しようが友麻は気にする年齢ではない。
亜里砂の父親が挨拶に来たとき、亜里砂の過去を聞かされた。
友麻は正直、面倒だと思った。
心を病んでいる妹など、欲しくはない。
母親にも、いちおう反対はしたが、母親はいつまでもトラウマで苦しむのはかわいそうだと、亜里砂を受け入れると聞かなかった。
友達の面会に病院に行った時、母親の再婚相手を見つけた。
隣にいる幼い子が妹になるのかと、友麻は二人を見ていた。
女の子は可愛い笑顔を見せていた。
陰など、どこにもないように見えた。
言われたほど、深刻ではないのかもしれないと感じた。
友麻は大学を出たら、いつか一人暮らしをしてみたいと思っていたから、伴侶ができれば母の心配はしなくてもいいと思い、勝手にどうぞと許可を出した。
今日、一人で家にやってきた亜里砂は、以前より成長していて可愛くなっていた。
顔合わせの時も『うん』としか言わなかったが、今日も緊張しているのか、『うん』としか返事をしない亜里砂が面白くて、早く慣れるように家の中を案内して、いろいろ教えた。
食事の時、様子がおかしくなったが、父親が声をかけるとすぐに元に戻った。
(なんでこうなるんだ?)
亜里砂の部屋に入って、扉を閉めた。
放っておけない。
朝まで放置したら、死んでいるかもしれないと思えるほど苦しんでいる。
「亜里砂、亜里砂。起きろよ」
亜里砂の体が震えながら飛び上がる。
「痛いよ、お母さん、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・」
亜里砂はたばこを押しつけられた夢を見ていた。
「もう、大丈夫だから。痛くないよ」
友麻は亜里砂のベッドに上がって、震える亜里砂の体を抱きしめて、まだ幼い体をさすった。乱れていた呼吸が徐々に落ち着いてくるが、亜里砂は泣き続けている。
ティッシュを大量に引き抜いて、亜里砂の涙を拭ってやるが、次から次へと涙が出てくる。ティッシュがベタベタになって、床に捨てた。
亜里砂の体を全身で抱きしめる。
それしか方法が思いつかなかった。
嗚咽が止まっていく。
やっと落ち着いて離れようとしたが、亜里砂の手が友麻のパジャマをぎゅっと掴んでいた。
友麻はため息をつくと、そのままそこで寝ることにした。
無理矢理起こして、また怖い夢を見たら面倒だと思った。
亜里砂は急いで部屋に戻ると、部屋の中に手を繋いでいた手を胸に抱くようにして座り込んでいた。
「心臓に悪い。めっちゃドキドキした。亜里砂って呼んでくれた。私はなんて呼んだらいいの?お兄ちゃん?友麻さん?」
赤くなった顔が冷めてくるまで亜里砂は、手を胸に抱いていた。
友麻に言われたように、お風呂に入ると、扉の外に『亜里砂』と書いた札が、扉についていた。
「誰かが入ってこないようにつけてくれたんだ」
札を反対に向けると『ご自由にどうぞ』と書かれていた。
亜里砂は微笑んで、札を反対にした。
(友麻さんが作ってくれたんだ)
自分の部屋に戻って、櫛を梳かす。
扉がノックされて、亜里砂は扉を開けた。
「あ」
新しいお母さんが立っていた。
「急いでお母さんと呼ばなくてもいいわ」
「はい」
「亜里砂ちゃんにプレゼントよ。祐輔さんに聞いたら、お肌のお手入れは教えてないと言っていたから。入ってもいいかしら?」
「はい」
「まずは鏡ね。ドライヤーもあるわ。これは化粧水が入っているの」
四角い箱をわたされた。
「ありがとうございます」
「ありがとうでいいのよ」
「はい」
「使い方はわかるかしら?」
新しいお母さんは、大きな箱を開けると、中から開封されていない箱を取り出していく。
「順番に並べるわね」
「はい」
「化粧水に美白クリーム。夜はこの後、乳液ね。朝はね、この乳液の代わりに、この乳液を使うの。お肌を焼かないための乳液だから忘れちゃ駄目よ。覚えられた?」
「はい」
「もっと大きくなったら、化粧品も買ってあげるわ」
亜里砂は微笑んだ。
(優しいお母さん)
「亜里砂ちゃんは、もう生理は来た?」
「まだです」
「そう。準備をしておかないといけないわね。明日のお休みに買いに行きましょうか?」
「お願いします」
「娘ができて、嬉しいの。一緒に料理やお菓子を作ってみたかったのよ」
「いろいろ教えてください」
「いいわよ。まずは化粧水をお顔につけて、髪を乾かしてね。櫛も新しいのがあるから、それを使って。それが終わったらキッチンにいらっしゃい。お料理を一緒に作りましょう」
「はい」
新しいお母さんは、部屋から出て行った。
(このお母さんは怖くはない)
広い机に鏡を置いて、三面鏡を開く。初めて、横からの自分の顔を見た。
箱から化粧品を出して、並べられたように並べていく。
順番を覚えるために、名前を確認していく。
「いっぱいつけるんだ」
箱に入っていた説明書を読んで、一つ一つの量を確認していく。
一通り読み終えた後に、顔につけていく。
「あ、肌がしっとりしてきた」
新しく用意された櫛は、髪に引っかからない。綺麗に梳かして、ドライヤーをかける。
家にもドライヤーはあったが、もらったドライヤーは風量もあり、冷風も出る。
乾かした後、髪を梳かすとさらさらになった。
(お母さんってすごいんだ)
記憶にある生みの母の姿は鬼だった。
顔を見れば叩かれ、蹴られ。灰皿の代わりにたばこを押しつけられて、熱湯をかけられた。
食事はもらえる日は一日一回菓子パン一つだった。
男を連れ込むときは、ベランダに出された。
少しでも声を出したら、後からいっぱい蹴られて何度も意識を失った。だから、母親の前では何も話せなかった。声の出し方も忘れるほど、恐れていた。
父親が戻ってきても、何年もきちんと話せなかった。
(何度もお母さんの夢を見て、うなされて、お父さんに抱きしめられた)
最近はやっと夢に見なくなってきた。
傷を見るたび思い出す亜里砂を見て、父親は亜里砂から傷を消してくれた。
三面鏡の鏡を閉じると、化粧品はそのまま並べたままにした。空になった箱は大きなケースに入れて机の下に置いた。
ドライヤーのコンセントを抜くと、綺麗に纏めて、スタンドに置いた。
迷いながらも、キッチンに向かう。
「待ってたわよ。まずは手を洗ってね」
「はい」
ハンドルを下げようとしたが、水が出てこない。
「ハンドルは上にあげてね」
「はい」
ハンドルを上にあげると水が出てきた。
目の前にあるハンドソープで手を洗うと、「野菜を洗ってくれる?」と言われた。
一つずつ丁寧に洗っていく。
「上手よ」
新しいお母さんが笑った。亜里砂も微笑んだ。
「お、二人で料理を作っているのか?」
「祐輔さん、おかえり」
(お父さん、お帰りって言う前に言われちゃった。私は黙っていた方がいいの?)
亜里砂はわからなくて、俯いた。
「亜里砂、お帰りは?」
「おかえりなさい、お父さん」
「着替えていらして。お風呂も空いていると思うわ」
「じゃ、先に入らせてもらうよ」
祐輔は二人の寝室に向かったのだろう。
「亜里砂ちゃん、サラダをお皿に盛り付けてくれる?」
「はい」
「お皿はこれね」
大きな食器棚を開けられた。
たくさんの食器が入っていた。中段の白いお皿を出されて、並べられる。
お皿は四枚だった。
そのお皿にサラダを盛り付けていく。
トマトやキュウリは切ってくれた。
友麻がキッチンの前に来た。
「母さん、亜里砂にエプロン作るか買ってやって、パジャマが濡れるじゃないか」
「あらほんとだ」
「濡れても別にいいの」
「明日、買い物に行くから見てきましょう。気に入った形があったら作ってあげるわ。友麻も手伝ってあげて」
「いいよ。運べばいい?」
「コップや箸も出してちょうだい」
「亜里砂、見てろよ。食器はここに入ってる」
友麻は食器棚を開けた。
「この花のついたのが亜里砂のだ。竹のついたのが、お父さんのだ。俺のは青いの。お母さんのは白く透かしの入ったもの。箸はピンクが亜里砂の。俺は青で母さんは赤だ。お父さんは黒だ」
「うん」
友麻は丁寧に、亜里砂に教えていく。
(友麻さんは、ちゃんとお父さんって呼んでる)
「机の場所も教えるから、サラダを持っておいで」
「うん」
(友麻さんが隣になった。お父さんが斜め前だ。誰が決めたんだろう)
急に父親から引き離されていく。
三人で『いただきます』をして三人は食事を食べ始めた。
亜里砂は一人で俯いている。
「亜里砂、食べなさい」
「はい」
父親に言われて、亜里砂は食事を食べ始める。
(ああ、おいしい。これがお母さん料理なんだ。お母さんの菓子パンとは違う)
ごちそうさまは、きちんとできた。
「食器は各自で運ぶんだ。食器洗浄機があるから自分で入れていくの」
「うん」
「食器を持っておいで」
「うん」
友麻に連れられて、食器の入れ方を教わる。
「冷たいお茶なら冷蔵庫に入ってるから、好きなときに飲んでいいよ。コップがわからなくなったら、ここにグラスがある」
友麻は食器棚の引き出しを開けた。
「わかった」
「おいで、歯ブラシとタオルの場所教えるから」
「うん」
友麻が亜里砂の手を掴んで連れていく。
「友麻君が、ずっと亜里砂の世話を見てくれているのか?」
「友麻には、話をするみたいなの。私はまだ呼んでもらえない」
「すまない。母親にトラウマがある。再婚を許してくれただけ成長している。様子を見よう」
「そうね、慌てたらいけないわ」
その夜、亜里砂は久しぶりに母親に虐待されている夢を見た。
「ううううううううっ」
嗚咽の声が聞こえて、友麻は亜里砂の部屋を覗いた。
体を丸めて、痛みに震えている姿を見て、友麻は驚いた。
父親を呼ぼうかと部屋を出るが、夫婦の寝室に近づくことはできなかった。
親が抱き合っている姿など、見たくはない。
母親が再婚しようが友麻は気にする年齢ではない。
亜里砂の父親が挨拶に来たとき、亜里砂の過去を聞かされた。
友麻は正直、面倒だと思った。
心を病んでいる妹など、欲しくはない。
母親にも、いちおう反対はしたが、母親はいつまでもトラウマで苦しむのはかわいそうだと、亜里砂を受け入れると聞かなかった。
友達の面会に病院に行った時、母親の再婚相手を見つけた。
隣にいる幼い子が妹になるのかと、友麻は二人を見ていた。
女の子は可愛い笑顔を見せていた。
陰など、どこにもないように見えた。
言われたほど、深刻ではないのかもしれないと感じた。
友麻は大学を出たら、いつか一人暮らしをしてみたいと思っていたから、伴侶ができれば母の心配はしなくてもいいと思い、勝手にどうぞと許可を出した。
今日、一人で家にやってきた亜里砂は、以前より成長していて可愛くなっていた。
顔合わせの時も『うん』としか言わなかったが、今日も緊張しているのか、『うん』としか返事をしない亜里砂が面白くて、早く慣れるように家の中を案内して、いろいろ教えた。
食事の時、様子がおかしくなったが、父親が声をかけるとすぐに元に戻った。
(なんでこうなるんだ?)
亜里砂の部屋に入って、扉を閉めた。
放っておけない。
朝まで放置したら、死んでいるかもしれないと思えるほど苦しんでいる。
「亜里砂、亜里砂。起きろよ」
亜里砂の体が震えながら飛び上がる。
「痛いよ、お母さん、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・」
亜里砂はたばこを押しつけられた夢を見ていた。
「もう、大丈夫だから。痛くないよ」
友麻は亜里砂のベッドに上がって、震える亜里砂の体を抱きしめて、まだ幼い体をさすった。乱れていた呼吸が徐々に落ち着いてくるが、亜里砂は泣き続けている。
ティッシュを大量に引き抜いて、亜里砂の涙を拭ってやるが、次から次へと涙が出てくる。ティッシュがベタベタになって、床に捨てた。
亜里砂の体を全身で抱きしめる。
それしか方法が思いつかなかった。
嗚咽が止まっていく。
やっと落ち着いて離れようとしたが、亜里砂の手が友麻のパジャマをぎゅっと掴んでいた。
友麻はため息をつくと、そのままそこで寝ることにした。
無理矢理起こして、また怖い夢を見たら面倒だと思った。
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