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3   リア充撲滅

5   寂しいクリスマス

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 友麻は怪我をしてから、療養をかねて自宅で仕事をしている。
 パソコン一つで何でもできてしまう友麻は、すごいと昔から思っていたが、今も思っている。
 顔を合わすことが増えて、胸が痛くなる。
 まだ好きだ。けれど、もう友麻は亜里砂の友麻じゃない。
 ずっと抱きしめられて眠って、それが普通に育ってきたから、友麻の突然の婚約は、また亜里砂の心を苦しめている。
 会話はずっとしてない。
「おはよう」と言われても、返事はしない。
(これじゃ、私を虐めているクラスメートと同じだ。情けないな。おめでとうって言ってあげないとな)
 亜里砂は名付け辞典を買ってきた。
 同じ名前は嫌だ。
 両親に反対されているが、10代の方が改名しやすいとネット検索で知った。
 一度しか変えられないから、慎重に考えないといけない。
 名前を変えたら、ゲームもアインストールしよう。
 レベルも上がり、ダンジョンの中で一人でも戦えるようになったが、消してしまおうと思っている。
 ゆうとは離れてしまうが、名前を変えるときは新しい名前を教えてあげよう。
 キャラクターネームは、教えないつもりだ。今度は本名をつけないでおこう。
 家でも学校でも名付け辞典を見ている。
 学校から戻ってお風呂に向かおうと部屋を出たとき、友麻が部屋の前に立っていた。
「亜里砂、名前を変えないでくれないか?」
「同じ名前で同じ字面って紛らわしいよ。私が嫌なの」
 何ヶ月かぶりに友麻に返事をした。
「お兄ちゃん、結婚おめでとう。幸せになってね」
 やっとお祝いを言えた。
「亜里砂、違うんだ」
「ごめんなさい。まだお兄ちゃんと話すと心が痛いの。返事をしなくてごめんなさい。私がもっと大人になったら、きっと全部思い出に変えられると思う。それまでさようなら。もう声をかけないで」
 お風呂に入ろうとしたけれど、ダイニングテーブル上にご馳走が並んでいるのを見て、今日がクリスマスイブだと気付いた。
 去年のクリスマスイブを思い出したら、頬を涙が伝い落ちていく。
 走るように部屋に戻り、コートを着てバックを持って部屋を出た。
「亜里砂、どこに行くの?」
「忘れていたの。今日は遅くなるって伝えておいて」
 顔を見ずに答えて、走って家から出ていった。


 クリスマスのイルミネーションが、キラキラ輝いている。
 イルミネーションが綺麗な繁華街まで出てきた。周りはカップルばかりだ。居心地は悪いが、綺麗なものは綺麗だ。地下鉄を使わず、道路を歩いて行く。景色が変わると、イルミネーションの色も輝きも変わっていく。
 大きなモミの木が飾られていた。
 見上げても上まで見えない大きな木は、色鮮やかに飾られている。
 綺麗だ。
 去年のクリスマスイブに来年はイルミネーションを見に行こうと友麻に誘われた。
 約束は果たされなかったが、イルミネーションは見られた。
 これから先も、きっと一人でクリスマスを過ごすだろう。
 亜里砂は、自分が普通の結婚はできないと思っている。
 子供頃に虐待された記憶に、今でも怯えている自分に子供が育てられるとは思えない。
 一人で生きていく術を身につけなければいけないと、ずっと考えている。
 いろんなイルミネーションを見て歩いていると、突然、明かりが消えた。
 いつの間にか、カップルたちもいない。
 暗闇に一人取り残されて、急に怖くなる。
 近くの地下鉄の駅に向かうが、既に終電は出た後だった。
 道に迷いながら、歩いて家に戻った。
 マンションに戻って、上階を見上げる。
 部屋は暗かった。
 静かに玄関を開けると、家の中は暖かい。音を立てないようにリビングの扉を開けて、そのまま自室に続く扉を開けようとしたとき、
「遅い」
 友麻がリビングのソファーから声を上げた。
「どこに行っていたんだ?何度も連絡したのに」
「ごめんなさい。終電に間に合わなくて。歩いて帰ってきたから」
「高校生の女の子が、こんな時間に歩いていて危険だろう」
「捨てたのに、今更、心配してみせるんだ」
 友麻はソファーから立ち上がった。
「亜里砂、俺は」
 連続でスマホのメールの着信音が鳴った。
「こんな時間に仕事?」
 亜里砂は嫌みを込めて言った。
 時刻は午前3時を過ぎている。
 友麻はスマホを取り出して、画面を開いた。
「やった!子供ができた」
 友麻の顔には満面の笑みが浮かんでいる。
 その顔を見て、亜里砂は自分の部屋に戻った。
 扉をノックされるが、亜里砂は部屋を開けなかった。
 コートを着たまま、床にぺたりと座り、流れる涙をハンカチで拭っていた。

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