12 / 21
Side薫・亮
しおりを挟む薫はデビューして初めのコンサートの時、美貴先生にコンサートのチケットを送った。
『デビューしました、見に来てください』
2枚の招待券を最前列の顔の見える位置のチケットだ。
美貴先生がくれたギターをまだ使っている。その姿をしっかり見て欲しかった。
招待券を持った美貴先生は、控え室にスタッフが招いてくれた。
大きな花束を持って会いに来てくれた。
「薫君、おめでとう。すごいね、プロになれるなんて、想像もしてなかった」
「美貴先生がくれたギターをまだ使っているんだ」
舞台衣装を着た薫は、自分のギターを見せる。
綺麗に手入れされたギターは、年季が入っていたが、まだまだ現役だ。
京都に就職した美貴先生は、今は大阪に住んでいるらしい。
大阪公演でちょうどいいと思った。
「ゆっくり観ていって」
「会場で観ているわ」
美貴先生は昔と変わらず美人で溌剌としていた。
幕が上がり、三人の定位置に付いたとき、真っ先に美貴先生を探した。
美貴先生の隣には、大人の男性が座っていた。
恋人?
四つ年上の美貴先生をずっと好きだった。
二人とも拍手をしてくれている。
美貴先生に微笑んで、自分の成長を観てもらった。
舞台が終わった後、美貴先生が隣に座っていた男性を連れて控え室に訪ねてきた。
「すごくいい舞台だったわ」
「ありがとう、美貴先生」
視線がどうしても美貴先生の隣の男性にいってしまう。
「薫君、紹介するわ。彼は私の旦那様なの」
「え」
恋人を通り過ぎて、旦那様。
「結婚したの」
驚いて、薫はすぐには言葉が出なかった。
「隠していて、ごめんね」
「おめでとう、美貴先生」
「ありがとう」
初恋は幕を閉じた。
「これからも頑張ってね」
美貴先生は男性と帰っていった。
「失恋か?」
亮が薫の背中を軽く叩いた。
「卒業かな。美貴先生は先生だったから」
薫はショックを受けたが、それでも美貴先生が幸せになっているなら、良かったと思えた。
陸上競技で道を閉ざされたときも、ずっと支えてくれた。
素敵な奥さんになれると思った。
楸は愛梨から卒業できるだろうか?
デビューも嬉しそうにしていなかった。
「僕は大学に行きたい」
リーダーの言葉を聞こえないフリをして、薫と亮は芸能界入りに浮かれていた。
薫と亮が舞い上がっていたから、それ以上の言葉で断れなかったような感じだった。
実際に舞台に立つようになってからも、覇気がない。
愛梨の存在は、大きすぎる。
このグループは愛梨が作ったようものだ。
彼女がいなければ、薫も仲間に入ろうと思わなかっただろう。
幼なじみで、ほとんど一緒に暮らしてきた楸と愛梨には、誰にも入れない関係があったはずだ。
「愛梨と大学に行きたかった」と言う楸を見ると、無理矢理、芸能界に引き込んでしまって申し訳ない気持ちになる。
ボーカルの楸が歌えなくなったらangelは解散になるだろう。
ぼんやりスマホを見つめる楸を見ていたら、亮が隣に座った。
「俺たちは間違った選択をしたのかもしれない。チャンスはきっとまだまだあったはずだ。大学に進んで、活動を続けていたら、愛梨も一緒に歌えるプロダクションを見つけることができたかもしれない」
「そうだよな」
「楸が歌えなくなったら、解散しよう。きっと俺たちは間違った選択をしてしまったんだ。できるだけ、楸を支えよう」
「そうだな。大学だって受かっていたんだから、急いでデビューすることもなかったよな」
楸が楽しそうに歌わないのと同じように、薫と亮も演奏していても、高校時代の時のような楽しさは、そこにはない。angelの笑顔がないだけで、心は躍らない。
愛梨を置いてデビューしたことを、二人も悔いている。
5
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる