angel

綾月百花   

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Side薫・亮

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 薫はデビューして初めのコンサートの時、美貴先生にコンサートのチケットを送った。
『デビューしました、見に来てください』
 2枚の招待券を最前列の顔の見える位置のチケットだ。
 美貴先生がくれたギターをまだ使っている。その姿をしっかり見て欲しかった。
 招待券を持った美貴先生は、控え室にスタッフが招いてくれた。
 大きな花束を持って会いに来てくれた。
「薫君、おめでとう。すごいね、プロになれるなんて、想像もしてなかった」
「美貴先生がくれたギターをまだ使っているんだ」
 舞台衣装を着た薫は、自分のギターを見せる。
 綺麗に手入れされたギターは、年季が入っていたが、まだまだ現役だ。
 京都に就職した美貴先生は、今は大阪に住んでいるらしい。
 大阪公演でちょうどいいと思った。
「ゆっくり観ていって」
「会場で観ているわ」
 美貴先生は昔と変わらず美人で溌剌としていた。
 

 幕が上がり、三人の定位置に付いたとき、真っ先に美貴先生を探した。
 美貴先生の隣には、大人の男性が座っていた。
 恋人?
 四つ年上の美貴先生をずっと好きだった。
 二人とも拍手をしてくれている。
 美貴先生に微笑んで、自分の成長を観てもらった。
 舞台が終わった後、美貴先生が隣に座っていた男性を連れて控え室に訪ねてきた。
「すごくいい舞台だったわ」
「ありがとう、美貴先生」
 視線がどうしても美貴先生の隣の男性にいってしまう。
「薫君、紹介するわ。彼は私の旦那様なの」
「え」
 恋人を通り過ぎて、旦那様。
「結婚したの」
 驚いて、薫はすぐには言葉が出なかった。
「隠していて、ごめんね」
「おめでとう、美貴先生」
「ありがとう」
 初恋は幕を閉じた。
「これからも頑張ってね」
 美貴先生は男性と帰っていった。


「失恋か?」
 亮が薫の背中を軽く叩いた。
「卒業かな。美貴先生は先生だったから」
 薫はショックを受けたが、それでも美貴先生が幸せになっているなら、良かったと思えた。
 陸上競技で道を閉ざされたときも、ずっと支えてくれた。
 素敵な奥さんになれると思った。


 楸は愛梨から卒業できるだろうか?
 デビューも嬉しそうにしていなかった。
「僕は大学に行きたい」
 リーダーの言葉を聞こえないフリをして、薫と亮は芸能界入りに浮かれていた。
 薫と亮が舞い上がっていたから、それ以上の言葉で断れなかったような感じだった。
 実際に舞台に立つようになってからも、覇気がない。
 愛梨の存在は、大きすぎる。
 このグループは愛梨が作ったようものだ。
 彼女がいなければ、薫も仲間に入ろうと思わなかっただろう。
 幼なじみで、ほとんど一緒に暮らしてきた楸と愛梨には、誰にも入れない関係があったはずだ。
「愛梨と大学に行きたかった」と言う楸を見ると、無理矢理、芸能界に引き込んでしまって申し訳ない気持ちになる。
 ボーカルの楸が歌えなくなったらangelは解散になるだろう。
 ぼんやりスマホを見つめる楸を見ていたら、亮が隣に座った。
「俺たちは間違った選択をしたのかもしれない。チャンスはきっとまだまだあったはずだ。大学に進んで、活動を続けていたら、愛梨も一緒に歌えるプロダクションを見つけることができたかもしれない」
「そうだよな」
「楸が歌えなくなったら、解散しよう。きっと俺たちは間違った選択をしてしまったんだ。できるだけ、楸を支えよう」
「そうだな。大学だって受かっていたんだから、急いでデビューすることもなかったよな」
 楸が楽しそうに歌わないのと同じように、薫と亮も演奏していても、高校時代の時のような楽しさは、そこにはない。angelの笑顔がないだけで、心は躍らない。
 愛梨を置いてデビューしたことを、二人も悔いている。

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