幼馴染みの彼と彼

綾月百花   

文字の大きさ
43 / 67

43

しおりを挟む

 今日は日帰りのつもりで来たのに、篤志は帰ってこない。

 だからといって、篤志の家に行くのは水に油を注ぐような物だと理解できている。

 菜都美のミルクは多めに持ってきているが、離乳食は余分にない。

 俺が腹を空かすのは、我慢ができるが、菜都美にひもじい思いはさせたくはない。

 急かすのはよくないとは思うが、菜都美が一緒の時は時間を守って欲しい。

 俺は篤志に電話を掛けた。

 いつものようにワンコールで出た篤志に、そろそろ帰ろうと言うと、電話の背後で、聞いた事がない女性の声が「行かないで」と篤志を引き留めているのか?


『菜都美は?』


「寝ているよ。今日は泊まりの予定じゃなかったから、明日の菜都美の離乳食もないし、帰ろう」


『直ぐに戻る』


 篤志はそう言うと、本当に直ぐに戻って来た。

 だけれど、篤志の後ろに社長のお嬢さんが何故かいて、「篤志さん、行かないで」と涙を流している。

 ほんと、女泣かせだ。このイケメン。


「彼女が、実家に住んでいるらしくて」

「追いかけてきたのか?本人はいないのに」

「外堀から埋めてきても、俺の気持ちは変わらない。貴方も実家に帰ったら?無駄なことだと思わないのか?」

「好きになってしまったの」

「俺は貴方を好きにはならない。寧ろ追いかけ回されて迷惑だ。ストーカーとして警察に申し出るけどいいの?」

 彼女は首を左右に振ると、数歩、下がった。


「帰ろう」

「いいのか?」

「実家に住み込みたかったら、いつまでいてもいいけれど、俺は貴方とは結婚しない」


 俺は纏めていた荷物を篤志に預けると、菜都美を抱いて、車に乗せる。

 篤志がチャイルドシートに固定する。

 俺は玄関の扉を施錠した。

 篤志は運転席に乗って、俺は後部座席に乗った。

 車が動き出したときに、彼女は助手席の扉を開いた。

 急ブレーキの間に、車に乗り込んできた。

 危ない。

 篤志も俺も大きな溜息をついて、篤志が下りるように説得する。


「篤志さんがいなくなってから、会社が傾き始めたって、父が言うの。私が篤志さんを誘惑できなかったからって」


 そりゃそうだろう。

 最近の会社はプログラムが使える者がいなければ、経営は難しい。

 最先端の仕事をしていた篤志が消えたら、時間の問題で会社は傾く。


「俺は自分の実力で仕事をしている。そういう仲間の会社に入ったんだ。毎日、楽しいよ。会社が危ないのなら、プロフェッショナルの人材が集まっている会社に頼むんだな」

 俺は当然、今の職場の名前は教えなかった。

 篤志は車から降りると、助手席に回って、扉を開けた。


「10数えるから、そのうちに下りて。下りなかったら、警察を呼ぶ」

 篤志は数を数え始めた。最後のカウントダウンのところで、彼女は車から降りた。

 篤志は助手席のロックをかけて、扉を閉めた。


「もう、帰ったら?」

「だって」

「会社が傾き始めたのは、貴方の責任じゃない。父親の運営の方法がよくなかっただけだ」


 篤志はそう言うと、運転席に乗った。

 彼女は道に立っていた。


「あの子も父親に言われて、大変なんだろうな?結婚もしていない人の家に入り込んで、妻になりますと言って、居座っていたみたいだ」

「あの子、あっちゃんのこと好きなのかな?全部、会社のためにしていたんじゃないかな?」

「それは俺も感じていた。このまま実家に帰ってくれたらいいけれど」

「俺の実家が乗っ取られそうで、小野田さんに頼んできた。不振なことが起きたら。すぐ連絡して欲しいって」

「父親も母親も、彼女の作り話を本気にしていて、マジウザい」

「どんな作り話?」

「結婚の約束をしているってさ。体の関係もあるって言ってたな。父親は責任を取るのが当然だと言うし、母親はいいお嫁さんねとか言ってたし。ほんと迷惑だよ。また喧嘩してきたから、当分は顔を見たくもないね」

「二週間後にわんこ9体と箱を10個取りに行くって言ったけど、送ってもらうか?この車に乗らないし」

「でも、真の実家も心配だろう?」

「心配だけれど、電話で確認できるし」

「それじゃ、送ってもらってもいいか?もう7ヶ月前の事で、ほんと迷惑だよ」

「俺達の仕事って、会社の未来が見えるから、沈みそうな会社だったら、ころころ転職するのが一般的だもんな」

「今の会社が居心地良すぎて、もう転職はしたくないよ」

「へえ、俺、外に出てないから、会社の面白さは知らないけど、菜都美が成長したら、外に出してもらおうかな?」

「朝霧さん達が、真はわんこ専門にしそうだけど」

「わんこ専門でもいいけど、あれは俺のオモチャだけど、遊んでていいの?」


 篤志は笑った。


「俺が卒業してから、いろんなことしていたんだな。俺も真と大学で研究をしていたかったな。二年って長かったよ」

「俺はあっという間だったよ。助手がいないから、全部、自分でするんだから、家にも帰ってなかったし」

「ご飯も食べてなかったんだな?真が飢えないように、俺がご飯を作るから」

「そのうち、菜都美も一緒に食べ出すんだな」

「そうだな」


 俺は菜都美の頭をいい子いい子して、落ちていた人形を顔の横に置いた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

処理中です...