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3   王妃様の誕生日パーティー

1   王妃様の誕生日パーティー(1)

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 翌朝、私は重曹に浸けて置いたワンピースを洗濯した。重曹でも漂白効果はあったようで、黄緑のワンピースは無事に着られそうだ。モリーとメリーが拍手している。

「勉強になりました」
「これからは、重曹を洗濯に使いましょう」
「お嬢様、続きは私たちがいたします。教会へ行く時間が迫っています」
「あら、本当だわ。モリー、よろしくお願いします」

 まだゆすぎ洗いの途中なので、モリーに代わってもらい、教会に行く準備をする。
 綺麗に手を洗い、手荒れ予防のクリームを塗って、出かける準備を始める。白いワンピースを着て、髪を可愛らしく清楚に結うと、ダイニングに降りて、朝食を急いで食べる。
 横には退屈そうなプリュームがのんびり朝食を食べている。タクシスは学校の制服を身につけ、手早く料理を食べている。

「アリエーテお姉様、今日はいつもよりお時間が遅いですね」
「ええ、昨日、汚れたワンピースを漂白させていたので、お洗濯を少し。モリーに途中で代わってもらったのですけれど、時間が遅くなってしまいました」
「あら、洋服を漂白なんかできるの?」

 母が驚いている。

「新しい汚れなら、なんとかですね。古い汚れもそれなりに綺麗になるかもしれませんが、トマトソースの汚れは、なかなか厄介なのです」
「アリエーテは物知りなのね?」
「生活の知恵でしょうか?」
 さっさと食べて、急いで立ち上がる。
「タクシス、お待たせ。急ぎましょう」
「はい、アリエーテお姉様」

 教会はタクシスの通学路の途中にあるので、毎朝、一緒に馬車に乗って行く。




 教会の前で降りて神父様に挨拶に行く。朝の教会は、皆が掃除をしている。シスターが教会の中を掃除して、外も箒で掃いている方もいる。アリエーテは面会室の中を掃除するのが日課だ。小さな部屋に心を病んだ人が来る。アリエーテはその心を病んだ人を聖女の力で癒やし、普通に生活できるように導くのが使命だ。
 聖女の力は、不思議だ。
 病んだ人の心が見える。見えることでアリエーテも心に衝撃を受けるが、アリエーテ自身の精神力が強いのか、その心を包みこみ受け入れ、祈りを行うことで患者は精神力を持ち直す。現代医学的には精神科医で、その場で魔法のように病気を治してしまう。心に沈み込んだアリエーテを治してあげたいが、その力を持っているのがアリエーテだ。私はアリエーテの代わりに体を動かし、食事を摂って、生きているだけに過ぎない。
 昨夜、泣くほど乱れていたアリエーテの心は、今は凪いでいる。

『ねえ、会いに行く?』呼びかけても、答えは返ってこない。

 午前中の診療を終えて、呼びかけてみたが、アリエーテの心は動かなかった。
 お昼に自宅へ戻るときは歩いて帰る。30分くらいで家に着くので、それほど苦でもない。雨の日は馬車を出してくれるし、待遇はいいようだ。
 自宅に帰って、食事をすると、母が、パーティーの招待状が届いたと言った。
 王妃様の誕生日パーティーで、招待状は我が家の五名となっていた。
 謹慎中のプリュームもパーティーに出席できるようだ。父が我が家の恥だと言っていたが、プリュームは片付けられたドレスをクローゼットに出し、並べて、どれがいいか着せ替え人形をしている。洋服も出して、クローゼットをいっぱいにしていた。
 アリエーテは着替えて仕事に行く準備をする。
突然扉が開いた。
扉の向こうには、プリュームが立っている。
私は無視して、出かける支度を続ける。
 今日はクリーム色のワンピースに、大きめな赤いネックレスを付けている。髪はハーフアップしてクリーム色のリボンで結んでいる。香水を付けていると……、

「私、香水を持っていないの」

 と、プリュームが声をかけてきた。

「部屋の物は何も触らないでね。部屋にも入らないで」
「少しくらいいいでしょ?」
「今から仕事なの。邪魔をしないでくれる?」
「私のウエディングドレス、デザインしてくれない?」
「他のデザイナーを紹介するわ」
「双子の姉妹ですもの。同じ物でもいいのよ」
 
 プリュームは部屋に入ってきて、クローゼットを開けた。アリエーテのために作ったウエディングドレスに触れようとした。

「触らないで」

 私は、プリュームの腕を掴み、部屋の外に放り出した。
 彼女は見事に転び、大袈裟に泣き出した。
「酷いわ、お姉様。そんな乱暴なことをなさらないで」
 モリーとメリーが駆けてきて、母も急いでやって来た。

「何をしているの?」
 母が大声を出した私に聞いてきた。
「私のウエディングドレスを欲しがったの。お母様、この部屋に鍵をつけて。その間、モリーとメリー、この泥棒猫が部屋に入らないように、見張っていてくれないかしら?仕事に遅れてしまうわ」
「分かったわ。お仕事に遅れるのは良くないわね。出かけていらっしゃい」
「プリュームを部屋に入れないで」
「畏まりました」
 モリーとメリーが頭を下げた。
 私はバックを持つと、急いで部屋を出て行った。
「遅刻よ。もう」

 無様に床に座りこんでいるプリュームの隣を颯爽と歩き、階段を駆け下りて、部屋を横切り玄関を出て、馬車に乗る。
 私は、予約でいっぱいの人気デザイナーになっていた。
 夕方の5時までしっかり予約が入っている。忙しい生活に慣れているので、私は楽しいけれど、アリエーテは疲れていないかしら?


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