転生したら聖女でした。聖女として生きてきます

綾月百花   

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5   北の王国の流行病

4   流行病(4)

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 旅館に戻った女将は、騎士と一緒にレヨンの部屋に急いだ。
 馬から落ちたレヨンは、顔に酷い擦り傷を作り、手や足にも傷を負っていた。男性従業員が着替えを手伝い、ガウンを着ていた。捻挫した足を固定され、まだ医師が手当てをしていた。
 シグロは現状を知るために、医師に質問する。

「発熱はありますか?」
「ああ、微熱があるようだな。この寒い中を馬で早駆けをしていて風邪でも引いたのだろう」
「実は私はモレキュール王国から来ました。モレキュール王国では疫病が流行し、国王も倒れ、国自体が滅亡寸前です。聖女様のお力を授かりたいと国境を無理に越えて、この国にやって来ました。今、私に熱があるなら、疫病の恐れがあります。ご親切にお力を下さいました皆様に申し訳ないのですが、何処にも散らずに、この宿に留まっていて下さい。大流行が起きてしまいます」

 レヨンは自ら疫病の事を話した。レヨンは感染の拡大を恐れている。
 シグロは国王陛下からの勅令を話した。

「この宿から、一歩たりとも出てはいけません。私はこの宿の門番になりましょう」


 レヨンは一人で過ごし、他の宿の宿泊者と従業員はレヨンの部屋から離れた場所に移動した。レヨンの部屋の窓は少し開けられ、換気がなされている。冷たい風が時折部屋に吹くが、熱を出しているレヨンはその冷たい風が気持ち良く感じていた。
(とんでもないことになってしまった。聖女様は清めてくれるだろうか?)





 アリエーテは旅支度をしていた。一人で北の国境に向かうつもりだった。

「お姉様、どこに行かれるの?」

 脳天気なプリュームは、扉に凭れてアリエーテの様子を見ている。

「家出かしら?お父様に叱られるわよ」
「プリュームとは違うわよ」

 旅行鞄には白いワンピースと下着にタオルと化粧品や身の回りの物を入れて、お金も準備した。由香が稼いでくれたお金を銀行から下ろしてきた。

『寒いと思うからマフラーに手袋よ』

 心の中で由香と話しながら、プリュームの相手もしている。

「お父様には、北の国境に向かったとおっしゃって。それだけで通じるわ」
「聖女様のお仕事ですの?」
「そうよ」
「こんなに寒いのに、北へ行くなんて、凍死しちゃうわよ」
「これも私の使命なのよ」
「聖女様に生まれなくて良かったわ」

 アリエーテは気ままなプリュームを見つめた。好き好んで聖女に生まれたわけではない。
 私も好きな人と、気ままに過ごしたいわ。それでも生まれてから背負わされた赤い薔薇のような印が、危険を察知する。聖女の証が、使命を全うするように熱くなる。
 イグレシア様は怒るかもしれないが、放ってはおけない。

「プリュームできるだけ家の中にいて。とても危険な事が起きようとしているわ」
「お姉様は、その危険な場所に行くのね?」
「そうね、もう会えないかもしれないから、餞別にこれを差し上げるわ」

 アリエーテはずっと欲しがっていた香水を、プリュームに手渡した。

「お姉様、いいの?」
「付けすぎるとくさいだけよ」
「ありがとう、お姉様。気をつけて行ってらっしゃい」

 プリュームは大喜びで、自室に入っていった。
 アリエーテは旅行鞄を閉じた。

『由香、私に勇気を下さい』

『ちゃんといつも見ているわ』

『ありがとう』

 出発しようかと荷物を持ったとき、玄関がざわついた。

「アリエーテ」

 イグレシアの声がした。
 鞄を置いて、扉を開くと、そのまま抱きしめられた。

「我が国でも疫病患者が出た。国王陛下の命令で、まずモレキュール王国の浄化を頼む。その後、我が国の浄化を頼みたい。僕はついて行けない。すまない。一番近くにいたいのに、国王にダメだと言われた」
「イグはこの国の後継者ですもの。国民の命を守る責任があるわ」
「すまない」
「イグはこの国を守って、私は聖女としてこの国も守るわ」
「騎士団と医師と看護師がついていく。どうか無事に帰ってきてくれ」
「ええ、私、一人で出かけるつもりだったの。付き添いができて安心できるわ」

 イグレシアは床に置かれた旅行鞄を見た。よく見るとアリエーテは既にコートを着ていた。間に合ってよかった。
 イグレシアはアリエーテを抱きしめて、触れるだけの口づけをした。

「国から連れて行って貰えるなら、馬車賃はいらないわね」
「当然だ」
「少し待ってくださる?いらない荷物を片付けるわ」

 アリエーテは斜めがけのポシェットを外すと、旅行鞄を開けて、余分のお金も取り出す。
 お金は引き出しにしまって、ポシェットは鞄かけにかけた。

「お父様とお母様に挨拶をしてきます」
「一緒に行こう」

 イグレシアはアリエーテの鞄を持った。

「イグ、ありがとう」
「僕も一緒について行きたかったんだ」
「必ず帰って来ます。待っていてください」
「ああ、待っている」

 アリエーテはリビングに出てきていた母の頬にキスをすると、父にもキスをした。

「行ってまいります」
「気をつけて必ず帰って来て」
「はい」
「行ってきます」

 父は感極まって、ただ頷いた。
 イグレシアは荷物を持ったまま馬車に乗る。
 両親に見送られ、イグレシアが乗ってきた馬車に乗って王宮に向かった。
 陛下に現状の説明を受けて、アリエーテは「お受けいたします」と答えた。
 医師と看護師、騎士達が集められ、幌馬車に乗り込んだ。

「アリエーテ、必ず帰ってきてくれ」
「はい、イグレシア王子」

 2台の幌馬車は走り出した。2台目の幌馬車はアリエーテが倒れた時のためだ。
 アリエーテは2台目の馬車に乗っている。医師と看護師、アリエーテ専属の騎士が一人乗っている。

「到着まで三日ほどです」
「分かりました」
「よろしければ、横になって休んで下さい」

 女性看護師が、横になることを勧めてくれたが、今はまだいらない。

「夜になったら、休ませていただきます」

 アリエーテは幌馬車の中で目を閉じた。



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