37 / 61
5 北の王国の流行病
6 流行病 王都へと(6)
しおりを挟む雪が積もった王都には誰も歩いている者はいない。新雪を踏み荒らした跡もなく、真っ新な雪が、ただ積もっている。
アリエーテは起こされ、騎士に馬車から下ろされた。
国境から1週間かかり、やっと到着した。
一面真っ白なそこに人が生存しているのか分からないほど、静寂している。
「もう手遅れかもしれませんね」
時間はお昼過ぎだと教えてもらった。
アリエーテは歩道に上がると、まずは神に祈り、その後で聖女の祈りを捧げた。
この国中に届くような大きな虹が広がった。空気が清浄な物に変わっていく。やはり動きはない。すべての人が亡くなってしまったのかもしれない。
アリエーテの身体が雪の中に倒れた。
騎士が雪の中からアリエーテを抱き上げる。
馬車に載せられ、看護師が至急で用意した昼食を勧めてきた。
「食欲はないかもしれませんが、食べてからお休み下さい」
「……はい」
缶詰に詰められた冷たい食事を食べて、缶詰に詰められた硬いパンを食べる。
味はそれほど悪くはないが、美味しくもない。ただの非常食だ。お茶だけは温かい物を入れてくれた。美味しい紅茶だった。
「身体が温まります」
「どうぞ、ごゆっくり飲んで下さい」
騎士団一行は王宮へ入って行った。残された聖女専属の騎士と警護の騎士が数人、アリエーテの馬車を守っている。
2杯目の紅茶を飲んでいるとき、馬が駆けてきた。分厚いコートを着ている。
「なんだ、おまえは?」
「私はフォルス・カロル・ラディウス公爵でございます。聖女様に祈りを捧げてもらい感謝しております。息子は一緒ではないのでしょうか?」
彼はエスパルダ王国の言葉を話していた。
「レヨンという若者は、疫病にかかり我が国で倒れた。我が国では二次感染はまだ起きていない。この国を清めてからでは、また感染が起きる可能性があるために、この国へ先に赴いた」
騎士が端的に答えた。
「左様でございますか。レヨンは病に倒れたのでございますね。ご迷惑をおかけしました」
フォルスは肩を落とした。
「現在、王宮の中を探索しておる。できれば、合流し案内を頼みたい」
「畏まりました」
フォルスは馬に乗り宮殿の前まで駆けていき馬を繋ぐと、宮殿の中に入って行った。
「もっと感染が軽いうちに、お手紙を下されば良かったのに……」
アリエーテは誰もいない王都を見て思った。
「聖女様、コップをいただきますね」
「ごちそうさまでした」
アリエーテは横になる。まだ聖女の証が熱い。
宮殿の中は静まりかえっている。
先に入った騎士達は、手当たり次第に扉を開けていた。
「騎士様、私はこの国の議員の一人。フォルス・カロル・ラディウス公爵と申します。我が息子がエスパルダ王国で感染を起こし倒れたと聞きました。誠に申し訳ございませんでした。宮殿の中を案内いたします」
「まずは、国王陛下が存命か確かめたい」
「畏まりました」
フォルスは国王陛下の部屋に案内した。寝室を開けると、腐臭がした。
「亡くなっているようだな。奥方はどうだろうか?」
扉をノックして王妃の部屋を開けると、王妃はベッドに倒れていた。
フォルスが脈を診ると生きている。
「こちらは存命のようです」
「皇太子はおられたか?」
「はい、こちらです」
次々に扉を開けて、王家の状態を確認していく。国王陛下以外生きていた。皇太子は17歳だと言っていた。小さな王子や王女も生きている。
「生きていれば、明日には目を覚ますでしょう。聖女様は、亡くなった方はウイルスがまだ残っている可能性が高いので、手袋をして、集めて燃やすようにと言われておりました」
「ありがとうございます」
「フォルス様も聖女の祈りを受けた身でございましょう。一度、自宅に戻りゆっくりお休み下さい。祈りを受けた身は眠くなるそうです。我々は、我が国へと戻り聖女様に清めてもらわなくてはなりませんので、すぐに出発します」
「なんとお礼を言っていいのか分かりませんが、本当に心からお礼を申し上げます」
「この国が落ちついたら、新王から我が国へ手紙を書いて下さい」
「畏まりました」
騎士とフォルスは王宮から出て、幌馬車に向かった。
聖女の馬車の騎士は外で警護をしている。中の状況を話すと、それぞれの馬車に乗り込んだ。フォルスは幌馬車を見送ると、自宅に戻った。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
雑草と呼ばれた令嬢は、氷の公爵の庭を咲かせる
もちもちほっぺ
恋愛
亡き母の形見の庭を守ることだけが、フェリシアの居場所だった。
継母に食卓での給仕を命じられ、義妹に母の形見の花を踏みにじられても、父は「仲良くしなさい」と言うだけだった。
植物魔法は「雑草いじり」と蔑まれ、フェリシアはルミナリス家の娘ではなく、使用人以下として生きてきた。
転機は突然訪れる。
「氷の魔王」と恐れられるギルバート・ウィンストン公爵との縁談。嵐の中、馬車も出してもらえず送り出されたフェリシアが辿り着いたのは、十年間何も育たなくなった荒廃した庭だった。
【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。
豆丸
恋愛
竜神都市アーガストに三人の聖女が召喚されました。バツイチ社会人が竜神のお手当てをしてさっくり日本に帰るつもりだったのに、竜の神官二人に溺愛されて帰れなくなっちゃう話。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる