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しおりを挟む優一がこれは違うんだ、と言い訳しようと口を開きかけると奏多はもう興味を失ったように向きを変えて歩いて行ってしまった。
「おいっ!」
その様子を見かねた和弘が声を上げてくれるが奏多が帰ってきてくれることはない。
なんでこんな風になってしまったんだろう。
これまでに何百回としてきた問いかけに答えが出ることはない。
あれは優一が中学生に上がったばかりの時、小学校からの持ち上がりのこともあり優一がΩなことは大体の生徒が知っていた。
揶揄われることには慣れてきた時で何か言われてもまた言ってる暇なんだな、と流せるようになってきていたのだがそれが周りの不満を煽ってしまったらしい。
Ωのくせに態度がでかい。
可愛くない。生意気。
理由はなんでも良かったのだろう。
上級生から優一が殴られているのを同級生だった友達達ですら見て見ぬふりをした。
殴られていることよりも仕方ないと視線を外されてしまう方が辛かった。
何も悪いことをしていないのに殴られることの何が仕方ないのか。
反撃するのもしんどくて早く終われと願いながら痛みに耐えていた時、まだ小学生だった奏多が止めに入ってくれた。
自分の倍ほどに大きい男を見上げながら優一を守ってくれた。
「ゆうちゃんは僕が守る」
それからのそのセリフどおり、奏多は優一が辛くなるとどこからともなくやってきてあの日くれたように一本の花をくれるようになった。
奏多が優一を守ったことで怪我をしてしまい、それを見て優一が泣きながら謝ると勝利の勲章だと笑ってくれた。
結局、奏多の怪我を見た奏多の両親が何かしらの手を使って解決してくれてそれ以上のことはなくなった。
あの時の二人で手を取って笑い合った映像が今も鮮明に思い出せる。
「もう辞めたら?」
和弘に何度目か分からないそのセリフを言われるが優一は頭を振った。
無理だ。
何度も何度も諦めようとして他の人を好きになろうとしたけれど無理だった。
愛してると言う気持ちは理屈では止められない。
「奏多は…めちゃくちゃいい奴なんだよ…」
「それ、クズ男にハマってる奴がみんな言うやつだよ」
分かっている。
このままグズグズしていたって三ヶ月はあっという間に過ぎて奏多は卒業してしまうのだろう。
そしてさよならだ。
だから残り三ヶ月はみっともなくてもグズグズさせてほしい。
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