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しおりを挟む週明け、学校に行くと理事長から呼び出しがあった。
何を言われるか優一には検討がついていたのでため息をついた。
足取りは重いが奏多の父親に大学まで出してもらったし働いてる学校の理事長ということもあり断ることは許されていない。
ノックをすると中からどうぞと言われたのでドアを開けた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
理事長室の大きなソファーにドンと座る奏多の父親は奏多に似ておらず優しい雰囲気は一切ない。
人は自分に傅いて当然だという態度。
お金も職場も面倒を見てもらって言えることではないがそれが優一は苦手だった。
「調子はどうだね」
やっぱりその話しか、とため息をついてしまいそうになるのを堪えて頭を下げた。
「すみません、まだきていません」
一ヶ月に一度くらいの頻度でこうして奏多の父親に確認される。
そして言われることがある。
「そうか。やはり君はΩとして欠落品だな」
検査で分かってから事あるごとに言われる言葉。
大学に合格した時でさえ、勉強が出来るのはΩとして欠落品でほぼβだからだろうと言われた。
欠落品なのは事実かもしれないが好きな人の父親にそうやって言われるたびに自分は駄目な奴なのだと知らしめられた。
「申し訳ありません」
どうすることもない怒りと人として欠落してると言われる悲しみ。
頭を下げながら泣きてしまいたいのを我慢する。
「君は天文学が学びたかったのだろう?どうかね、奏多との婚約を解消してくれるならその道で有名な学校へと口を聞いてやってもいい」
本当にこの父親は人を辱めるのが上手い。
奏多が高校を卒業するあと三ヶ月も待ちたくないのだろう。
「申し訳ないと思っています。でもどうか奏多の卒業までは婚約者としていさせていただけませんか」
ここまでいろんな薬や方法を試したが発情することは叶わなかった。
それがあと三ヶ月で出来るとは思えないが少しでも長く奏多を近くで見ていたい。
「はぁ。君たち二人は揃って頑固だな」
二人?二人ということは奏多にも婚約解消の話をしたのだろうか。
「二人?二人というのは…」
「奏多に決まっとろう」
頑固だということは奏多も婚約解消には同意しなかったということだろう。
ただ嬉しいとだけは思えなくて複雑な思いだ。
「もういい。奏多の卒業までだからな」
「ありがとうございます」
話しは終わりだと手を振って出ていけと言われたので立ち上がってもう一度頭を下げた。
理事長室から出るとさっきまで堪えていた長いため息が口から出る。
「はぁ、しんどい」
奏多の父親と対面すると嫌というほど痛感させられる。
しかし、大学生の頃から続いたこれもあと少しなのだと思えば寂しいような気もする。
優一がΩとして普通で父親さえ死ななければ両家が対等なままでこんな風に言われることもなかったのだろう。
一人息子を少しでもいい人と結婚させたい奏多の父親の気持ちも分かる。
そしてそのいい人に優一は役不足だということも。
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