婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび

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目が覚めたが学校に人の気配がないので寝過ぎたかもしれないと時間を見た。
「十四時!?」
今日は終業式だけだったので十一時半頃にはもう生徒が帰りだしていたはずだ。

保健室にも何人か出入りしただろうに気づけないほど深く眠ってしまっていた。

保健室に行くとは言ったがこんなに長くいるつもりは無かったので困ったことになっているかもしれないと急いで保健室から出た。

やっぱり廊下にも教室にも人は誰一人といない。
冬休みに入る奏多を見れるのは今日だけだったのに終業式の間しか見れなかったと肩を落とした。

職員室に行くと校舎内とは違いほとんどの教師が残って仕事をしている。
「体調はどうですか?」
隣から声がして顔を向けると保険医の安斎がいた。
無愛想で無駄なことは口にしない男から声がかかったことに驚いてまじまじと見てしまう。

「赤谷先生から体調が悪いから起こさないでやってほしいと頼まれていたんですよ。私が帰る時まで寝ているようでしたら車でお送りしようと思っていたんですが……」
奏多を上から下までじっくり見ると頷いた。

「その必要はなさそうですね」
と言うとお礼も言っていないのに職員室を出て行ってしまった。
この時間まで寝ることが出来たのは安斎が保健室に来た生徒に静かにさせていたのかもしれない。
ゆっくり寝れたからか気持ち悪かったのは無くなっている。

和弘にもお礼を言わなければ、と周りを見渡したがいない。
机を見ると荷物はまだあるようなので校舎内にはいるのだろう。

そのうち戻ってくるだろうと溜まっている仕事を片付ける。

手を動かしながらも頭の中は奏多と和泉のことにしめられていた。
いつから?何回くらいしたのだろう。
あの二人は番になるのだろうか。
そうなると奏多から優一に婚約解消を告げられるのだろう。

奏多が婚約解消を優一や理事長に言ったことは一度もない。
もしかしたら優一が知らないところで理事長にお願いしているのかもしれないがそうなると理事長はこれ幸いとすぐに解消してしまうだろう。

奏多から婚約解消を言われることはないと優一はどこかで思ってしまっていたのかもしれない。
別れを告げるのは自分だと勘違いしていたのだ。
奏多の卒業式までは時間があるように考えていたがそれまでに奏多が誰かと番ってしまえばその瞬間、優一との婚約は解消となるだろう。

それとも優一はキープ的な存在だったのかもしれない。
Ωと違ってαは何人もの番を持つことが出来る。

「どうしよう」

奏多と和泉が何度も発情期を共にしているのなら二人が番になるのは時間の問題だろう。

奏多の口から二人の関係の終わらす決定的なことが言われた時、優一は耐えられない。

しかし、優一にはどうすることも出来ない。
奏多に和泉と番にならないでくれ、と頼むことも自分だけを愛してくれとこれから先は一緒にいたいと告げることが出来ない。

もうすぐ奏多と優一のズルズルと続いた関係も終わるのだ。

そう思った時、これ以上悪あがきをせずにすむのかもしれないとどこかでホッとした自分を慌てて追い出し、大きなため息をついた。





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