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しおりを挟む保健室のベッドの上で寝返りを打つ。
目を閉じれば奏多と和泉のアレコレを想像してしまいなかなか眠れない。
奏多はどんな風に和泉を抱くのだろう、と考えかけたがハッとする。
考えても辛くなるだけでいいことはない。
それでもゆうちゃんといって優一の手を引いていたあの腕が今は和泉の身体を触っているのだと思うと和泉には悪いが吐き気がする。
嫌だ。やめて欲しい。
そう思うと同時に仕方のないことだろうと言ってくるもう一人の自分がいる。
そう、仕方ないことなのだ。
全ては出来損ないの自分が悪い。
そんなことを考えていると体力の限界が来たのか瞼がゆっくり落ちてくる。
アラームかけたっけ、という問いに答える前に意識が真っ暗になった。
小さな男の子が身体を丸めて泣いている。
あれは幼い頃の優一だ。
その横には奏多がいて優一を慰めるように手を繋いでいる。
これは優一の父親が亡くなった時の記憶だ。
居間には優一の親戚たちが集まり葬式だというのに険悪な雰囲気で怒鳴り声が響いている。
優一の父の会社を誰が跡を継ぐのか、一つの席を取り合っている。
優一は小さかったから詳しくは知らないが父の会社は奏多の父と並ぶほど大きな会社だった。
右肩上がりの業績に乗っかっているだけで多額のお金を貰えると誰もが知っていた。
大の大人たちが故人を前に欲を全開にする姿は優一の大人への信頼を失わせ、恐怖さえ感じさせられた。
優一の父が事故でICUに入院している時はあれほど心配していたのに心の中では早く死んでしまえと思っていたに違いないと幼い優一に思わせるほどその話し合いは酷かった。
父を亡くして精神的に弱かった母は親戚たちにいいようにされ、優一と母に残してくれたお金たちを掠め取っていく。
優一は何かが起こっていることは分かっていたが幼すぎて何もすることが出来ずただ、庭の隅で泣きながら丸まっていた。
毎日、泣いている優一を奏多は誰よりも側にいてくれた。
父が亡くなって部屋に引きこもり気味の母親より父の残したお金にしか興味のない親戚よりもただずっと側で優一の手を握り続けてくれた。
あの時の手の温もりは今でも忘れられない。
結局、父の残したものは優一の元へは殆ど入ってこず、奏多の婚約者だからという理由で奏多の父親がお金を出してくれることになった。
大学の費用を出してもらう時に奏多の父親は三つ条件を出した。
一つ目はいつまでも番になれないなら奏多と別れること。これは仕方がない。
奏多がいずれ会社を継いだ時にまた後継となる子供が必要だがヒートのこない優一では産むことができない。
二つ目は大学から出た後は奏多の父親がやっている高校で教師になること
三つ目は定期的に病院に検査に行くこと
天文学を学ぶことを諦めなければならなかったが奏多といるためなら別に大したことはない。
何百万という大金をたった三つの条件で出してくれることに感謝した。
高校教師になりたい訳ではなかったがこうして奏多の成長を見続けられるのは嬉しい。
それがどんな結果になっても優一はきっと奏多だけをずっと愛している。
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