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しおりを挟むトイレに篭ってどれくらいのたったのだろうか。
朝ごはんに食べたものも全て吐き出してしまい、今では胃液しか出てこないのに吐き気が治らない。
十二月の終わりに暖房のない冷たい床に座り込んでいて身体が冷え込んでいるのか震えがとまらない。
なのに額はじっとりと汗ばんでいる。
今の自分の体調が普通でないことは頭のどこかで分かっていたがそんなことどうでも良かった。
とうとう奏多が誰かと絡むのを目にしてしまった。
奏多は誘いを断らない。という話を誰かから聞いてから覚悟はしていたつもりだった。
でも少しだけ嘘なのかもしれないと思っていた。
だってこの三年間、奏多が誰かとキスしているところさえ見た事がなかった。
よく考えれば教師に見つかるところでわざわざするはずがない。
優一は奏多が他の人とそんな事していないと信じていたかった。
でもそれは信じるなんて都合がいい言葉で見えていたものから目を逸らし現実を見ようとしていなかっただけだ。
トイレの地面に座り込んだまま涙が次から次へと溢れてくる。
「苦しい」
ただただ、苦しくて悲しい。
こんな事になっても奏多の事が好きな自分が憎くさえもある。
何故、こんな思いをしなければならないのだろう。
ただ人を愛しただけなのに。
どうして奏多は婚約を破棄してくれなかったのだろう。
奏多も優一と同じように理事長から何度も婚約破棄を促されていたはずだ。
奏多が婚約破棄したいと言えば優一は承諾した。
なのにこんな中途半端なことをして優一に微かな希望を残すのだ。
奏多に初めて怒りの感情を持った。
出来損ないの自分を恨んだ事は多々あるが今までどんな事があっても奏多に対しては申し訳ない気持ちしかなかった。
それでも今は思わずにはいられない。
こんな残酷な仕打ちをされるくらいなら微かな希望さえも見せないでさっさと婚約破棄を告げて欲しかった。
自分からはとてもじゃないが言えなかったから奏多から言ってほしいと思うのはわがままだろうか。
「ううっ、」
失恋したくらいでみっともなく声を上げて泣いてしまう自分が情けない。
「もう無理だっ…」
三ヶ月の間にもう一度でも今日と同じようなものを見てしまったら自分が何をしてしまうのかわからない。
奏多と和泉が番になるかもしれない。
死にたくなる気持ちに耐えきれなくて自分を殺してしまうのはいいがその矛先が…と考えて身震いする。
自分がそんなことを想像してしまう奴だったなんて怖い。
あと三ヶ月…少し期限が早まっただけだ。
微かな希望さえも潰えたのに側にいる理由はもうないだろう。
これから先、学校に来るたびに今日の二人を思い出してしまうだろう。
そんなこと優一には耐えられない。
終わりなのだと思うと奏多と過ごした幼い頃の幸せだった記憶が次から次へと思い出されて涙が止まらない。
もうあの頃には戻れないのだ。
壁に持たれながらなんとか立ち上がって手洗い場で顔を洗った。
息を整えるとポケットから携帯電話を取り出して本来の目的であったはずの和弘ではなく理事長へと電話をかける。
引き伸ばしてしまえば奏多と離れたくなくなってしまう。
苦しいのは一度にまとめて終わらせてしまいたい。
「お話があります。早急にお時間をとっていただきたいです」
理事長は優一のいきなりのお願いに驚いたのか言葉に詰まる。
『今から会社の方にきなさい』
そう一言だけ言うと電話が切れた。
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