婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび

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朝食をモリモリと口の中に詰め込む正樹はハムスターのように頬を膨らませている。
自分の作ったものがこんなに美味しそうに食べてもらえると優一も幸せな気持ちになる。

「ゴホッ、ウッ」
詰め込みすぎて喉を詰まらせて胸を叩く正樹に慌てて水を差し出した。
「ふっー、死ぬかと思った」
「フッ、誰も取らないからゆっくり食べなよ」
「だって美味しすぎて!」

喉に詰まらせたばかりなのにまた頬を膨らませる正樹につられて優一もサンドイッチを口に入れた。

トマトやハムなどありきたりなものを挟んだだけのサンドイッチも自分で育てた野菜だと思うだけで数倍も美味しく感じる。

「もう一つ食べる?」
食べ終わっても物足りなさそうに優一が食べているのを見ている正樹に笑いながら聞くと大きく首を上下に振るので笑ってしまう。

感情に素直で分かりやすい。
昔の奏多のようだな、と浮かんだ気持ちを首を振って慌ててかき消した。

優一が作った三つ目のサンドイッチを一瞬で平らげると正樹は立ち上がって食器を洗い場に持って行く。
「もう、行かなきゃ」
「もう?」
時計を見てみると思ったより時間が過ぎてしまっていた。

洗い物をすると言ってくれるのを断って正樹を玄関で見送り、優一は昨日撮った動画を編集するためにパソコンの前に座った。

現在、仕事はしていない。
理事長に返すために貯めていた大学の費用が残ったので切り崩して生活している。

食事は基本的に自給自足。
優一の畑には少ない野菜しかないが周りは畑や田んぼばかりなので町中の人が余ったからと持ってきてくれる。

お礼にサイトを作り通販を開始させたり動画を撮って宣伝したりと優一の出来ることをしてお返ししている。

そのおかげか外部への販売も活発になってきており農家の人たちの儲けも少しだが上がってきているらしい。
そしてまた、お礼だと食べきれないほど大量の農作物が家に届けられる。

携帯やテレビなどの電化製品は使っていないし古民家をタダ同然の値段で借りているので出費は少ない。

それでもいつまでも仕事のない生活は出来ないのでもう少しゆっくりしたらこれからのことを考えるつもりだ。

「あ、隅さんとこ行かなきゃ」

動画の編集も一区切りついたので今朝収穫したばかりの野菜を持って家を出た。

東京とは違う澄み切った空気が気持ちいい。
隅さんと隣家とはいえ、距離は少し離れているので日光を浴びながらゆっくりと歩いた。

ここにきてから随分とゆるやかに時が流れるようになった。

「隅さーん!来たよー」
大きな声を出しながらドアを開けると奥の方から返事が聞こえた。

急に家に入ったり入られたり。
初めは戸惑って遠慮していたことも半年の間に慣れたものになった。

人との距離がとても近いのが苦手な人も多いだろうがずっと寂しさを抱えて生きてきた優一にとって周りに見守られているという今の状況は楽しいことばかりだ。

隅さんの声が聞こえてきた方に行くと電球を取り替えたいのか脚立に登ろうとしていて慌てて止めた。

「俺がやるよ!」
「そうかい?ありがとうねぇ」
こうした日々の雑用も優一の仕事になりつつある。

あっちこっちのご老人に呼ばれて手伝いを頼まれ、頼りにされている。
出来損ないと言われた自分でも誰かの役に立てるのだと初めて知った。

電球を付け替え、手を洗い終わると綺麗に切られた沢山のメロンが縁側に置いてある。

「美味しそう!!!いただきます」
庭を眺めながら熱そうなお茶を啜る隅さんの隣に座ってメロンにかぶりついた。







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