婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび

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優一の朝は早い。

五時半起床。
ベッドの上で三回伸びをして顔を洗って歯を磨いたら家の裏手に行く。

「おー、今日も元気だー!」
今日も日光に照らされピカピカに輝いている野菜たちの世話をする。

トマトにきゅうり、茄子にピーマン数々の野菜たちが植えられている。

今日の朝ごはんはどれにしようかな、と悩んでいると隣の家の隅さんに声をかけられた。
「おはよう。優一くん。後でうちにきてね。大っきくて甘いメロンが育ったの」
のんびりした隅さんの口調に優一の顔もほころぶ。

「おはようございます。そしてありがとうございます!ではお礼に僕が育てたピーマンをお持ちします!隅さん仕込みですから美味しいですよ!」
それは楽しみだねぇ、と言うと隅さんは散歩の続きをするのに歩いて行ってしまった。

足元に育っているピーマンを収穫しながら今日のご飯を考える。
お昼ご飯はピーマンの肉詰めでいいな。
夜は…パプリカとにんじんを入れてキーマカレーもいい。

ピーマンやトマトを取り終え、曲がっていた腰をそらしながら青々とした空を見上げる。

優一が奏多の元を去って半年が過ぎた。
初めは苦しかった毎日も日光を浴び、身体を動かし好きなことをして過ごしているうちに薄れつつある。

寂しいのも初めだけだった。
この田舎に来てからは若い人が来てくれるのは久しぶりだと大歓迎され毎日お世話をあれこれと焼いてもらい、ありがたいことに寂しさを感じる暇がない。

テレビもなく、携帯も通じないこの場所ではいらない雑音が聞こえてこない。

やっぱり田舎に来てよかった。
自分にはこういう暮らしが合っているのだろう。

今日食べるものを収穫し終えたので家に入ろうとすると後ろから肩を叩かれた。
顔を向けるとほっぺたに指が刺さり顔を顰めると目の前の少年が嬉しそうに笑う。

「優一さん!朝ごはん食いに来た」
明るく話しかけてくるのは犬のような少年の正樹だ。

犬と言うのは失礼かもしれないが人懐っこくて明るい。
優一のそばに来て尻尾をブンブンと振り回してくれる正樹はこの半年間、優一の心を癒してくれた。
本人が言うには十八歳らしいがとても見えない。

「また?別にいいけど。仕事は?」
「朝ごはん食ってからで余裕です」

正樹が食べるのならもう少し畑から持ってきた方がいいかもしれない。
「先に入っててくれ」
収穫し終えた野菜たちを正樹に渡して優一は家の裏へと戻った。

たしか正樹はトマトが好きだったはず。
トマトを大きめにスライスしたサンドイッチにすることに決めてもう一つトマトを収穫した。

奏多と別れることを選ぶ前はこんな生活を自分が送れるなんて思ってもみなかった。
そして奏多と離れたら生きていけないと思っていたのに案外楽しく過ごせている。

人間どうにかなるものなんだと思わざるを得ない。
あの苦しみからさっさと逃げるべきだったのに時間をかけ過ぎた。
でも優一の出来るかぎりの力であの日々を過ごしたからこそ奏多と離れたことに後悔がないのかもしれない。

家の中に戻ると椅子に座って待ちきれないとばかりに足を揺らす正樹につい声を上げて笑ってしまう。
「ククッ、やっぱり十八歳には見えないよ」
「えー!どう見てもピチピチの十八歳じゃん!」
優一の十八歳といえば奏多だが奏多と比べて正樹は三つほど年下に見えた。

あまり言うと正樹が拗ねてしまうのでこれ以上は言わないが唇を尖らせている姿はやはり十八歳には見えなかった。



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