婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび

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奏多

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父である藍沢宗介から後継ぎ修行という名の押し付けられた仕事を終えて帰っていると本来なら鳴らないはずの携帯が鳴り嫌な予感がした。

「はい」
『優一さん、出ていくみたいですよ。聞いてないですか?』
嫌な予感はやはり当たっていて奏多は大きく舌打ちをした。

奏多の雰囲気は学校の時とは違って王子様とはとても呼べないものだ。

「あのクソジジイ。なんかやりやがったな」
『見られてたんですよ、昨日のやつ』
昨日の、と言われてさらに大きな舌打ちをしそうになった。

「クソ野郎。どいつもこいつも、ほんっとに死ねばいいのに。……コウ、なんで昨日言わなかった。見られてた事気づいてたんだろ」
毎日、定時に連絡を入れさせている。
昨日はハプニングあり電話に出るのが遅くなったとはいえいつも通りコウから報告は受けた。

『だって、昨日隣にいたっぽかったので言ったら殺しかねないと思って』
そういえばそうだ昨日は隣に和泉がいたんだった。

後、三ヶ月。
たった三ヶ月。
最悪だ。

それにしても。
「勝手に判断すんな。全部言え」
『えー。だって、ねぇ?』
確かに、昨日教えられてるいれば感情のままに和泉に当たり散らかし宗介の元に押しかけていただろう。

今まで練りに練ってきた計画も全てをぶち壊して優一を引き留めに行っていたはずだ。
が、やっぱり勝手に判断されるのはムカつく。

「次やったら首にすんぞ」
『いいんすか?俺の代わりなんてそうそう見つからないと思いますけど』
代わりは沢山いると言いたいところだが失うには惜しすぎる人材だ。

それがわかっているから余計にムカつく。

「コウ、ついてけよ」
『冬休み明けはほぼ自由登校なんで着いて行きますけどね。田舎に行くらしいから接触なしだと厳しいですよ』
田舎、ねぇ。
星が見たいんだろうな、と優一のことを考えると小さく笑みが漏れた。

宗介とは今日、何度か電話で話している。
それに宗介の裏の部分を引き受けている伊藤とも。
それなのにどちらとも優一との婚約が解消されたことを奏多に教えなかった。

「ま、そりゃ教えないか」
何するか分かったもんじゃないしな。

『何がすか?」
「いやこっちの話し。なら接触しろ。誰も絶対に近寄らせるなよ。特にα」
優一は自分のことを出来損ないのΩで殆どβだと思っているからガードが緩い。

αが自分を獲物として見ているなんて思いもしない。

『いいんすか?』
「いいよ。その代わり…分かってるよな?手出したらお前でも殺す」
『おー怖』
本当はコウですら自分の目の届かない所で仲良くして欲しくない。

でもそれ以上に変な輩に目をつけられるのを避けたい。

他には何もなさそうだったのでコウとの電話を切り、自宅へ向かう。
本当は宗介に約束が違うと今すぐ詰め寄りたいがそれをすると警戒されて情報が流れてきにくくなる。

この数年の奏多の頑張りのおかげで信用されてきたとはいえ少しの油断が命取りになる。

「はっーー」
立ち止まって狭い空を見上げる。
星なんか全然見えないけれど挫けそうな時はいつだって空を見ている。
小さな優一に教えてもらった星座を探していると少しだけ元気になれた。

クソオヤジも気持ちの悪いストーカー野郎も、そして奏多と関係が切れたと思っているだろう優一も。
奏多のことを何もわかっていない。

欲しいと思ったものは何としても手に入れる。
嫌な所が父親に似たなと皮肉げに口を歪めた。

でもそのおかげでもう少しで手に入る。

優一を三ヶ月間も見ることは叶わないけれど宗介の手の外にいてくれるのなら安心だ。
思う存分やれる。
それに最低最悪な自分をもう見られなくてすむ。

この数年間に比べれば先が見えてる。

「あーあ、会いてぇなぁ」

早く、この腕にあの折れそうなほど細い身体を抱き締めて堪能したい。

もう一度、手を繋いで二人で庭の隅でうずくまっていよう。




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