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しおりを挟む家の前に止まった車の窓が空いて正樹が顔を出した。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様」
仕事終わりだというのに正樹は疲れた様子もなくいつも通り元気がいい。
荷物を積み込み助手席に乗り込むと車が動き出した。
「やっぱりかっこいい車だね」
「優一さん、乗る度に行ってくれますねー!貰いもんですけどね」
正樹は照れたように頭をかく。
「BMWって言うんだっけ」
優一は知らなかったのだが有名な車種らしい。
十八歳の正樹が外車のいい車に乗っている違和感も貰ったものと聞いて親がお金持ちなのだろうと勝手に想像して納得した。
田舎で外車は浮いているように思えたがミスマッチで逆にかっこよく感じる。
「発送して買い物してご飯食べるんですよね?」
「うん、そうだよ。いつも車出してくれてありがとう」
優一も一応免許は持っているがペーパードライバーで山道を降るのはなかなか危ない。
その点、正樹は免許をとって数ヶ月というのに危なげなく山道で車を走らせられている。
正樹が毎回ついてきてくれるのは優一の運転が不安なのだろう。
年上なのに情けないな、と思わないでもないが車の運転を無理にして事故でも起こしたら大変なので大人しく甘えている。
「やることいっぱいですね。時間ないから急ぎましょう」
時計を見るともう十九時を回っている。
二十時にはスーパーが閉まってしまうので確かに急いだ方がいいだろう。
車を走らせて数十分でそこそこ栄えている街に着いた。
いつもなら正樹と二人で行動するが今日は時間がないので正樹にメロンの発送を任せて優一はスーパーで買い物する。
隅さんや近所の足の悪いおじぃちゃんに頼まれた物をメモを見ながらカゴに入れていく。
「醤油と…めんつゆ…」
カートの上下に乗せている二つのカゴもすぐに一杯になってしまう。
まだ買い足りないものがあったが後は自分のものだけだったのでまた次に回してお会計することにした。
大量の食料品を頼まれた人別に分けて袋に入れながら駐車場を見るが正樹はまだ来ていないようだ。
この量を手に持って立っているのは辛いのでカートにもう一度戻してスーパーの前で待っていると三人組の男に囲まれた。
「おにーさん、一緒に遊ばない?」
真ん中にいたピアスが鼻についた男がいきなり優一の腕を強い力で掴んでくる。
突然のことに驚きながらも掴まれた箇所の痛みから咄嗟に振り払ったが優一の力では男の手を外すことが出来ない。
「いたっ、」
優一が振り払ったのが気に食わなかったのか掴まれる力が強くなり顔が歪む。
三人ともタバコの匂いがきつくて気持ち悪い。
「やめてください」
「ククッ、やめませーん」
隣にいる二人も馬鹿にしたように笑い声を上げる。
どうしよう。
誰か助けてもらえないか、と三人の身体の間から周りを見てみるが皆んな視線を逸らして離れていってしまう。
巻き込まれたくないのだろう、仕方がない。
「おにーさん、Ωでしょ?」
「え、」
どうしてバレたのか。
自分は殆どβで今までΩだと知らない人から言われたことはなかった。
「なんで…」
「だっておにーさん、い」
その時、優一の腕を掴んでいた鼻ピアス男の力が抜けて痛みがなくなった。
「何してんの」
聞き覚えのある声の方に顔を向けると優一の腕を掴んでいた男の手を今度は正樹が掴んでいた。
「イッテェ!!離せよ!!!」
「離すわけねぇだろ」
正樹が来てくれたことにホッとするが男の腕を掴んでいる顔が普段の正樹からは想像できないほど怖くて呆気にとられてしまう。
鼻ピアスの両隣にいた男が正樹に掴み掛かろうとしたのでハッとして慌てて間に入る。
「やめてください!!!」
「優一さん!」
間に入った優一に驚いて正樹は掴んでいた男の腕を離した。
「何やってんの!後ろに下がってて」
優一を守るように後ろに庇おうとする正樹に反抗する。
「正樹こそ何言ってるんだ」
年下の正樹を巻き込んで怪我をさせるわけにはいかない。
こういうのは苦手だ。
昔、Ωだと虐められていた時のことを思い出す。
それでもあの時のように庇われているだけでは駄目だ。
「もういいでしょう」
「よくねーよ!見てみろよ!」
男が見ろと突き出した手は赤い手形がついており正樹がどれほど強く掴んでいたのかが見てとれた。
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