婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび

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お昼になると玄関のドアが強く叩かれた。
まだ奏多がいるのか、と驚いたが聞こえてきた声は正樹のものだった。
「優一さんー!お腹すいたー!!」
「なんだそれ」
口元から笑みが漏れる。

ガラっとドアを開けると耳も尻尾も垂れ下がってる犬がいる。
「ククッ、俺はお前の母親じゃないぞ」
そう言いながらも正樹を中に入れると垂れた尻尾が大きく振られて嬉しそうにする。

正樹にはずっとこのままでいてほしい。

玄関周りを見渡して見るが奏多はもういなさそうなのでいつものように鍵は開けたままキッチンに戻った。
「オムライスだっー!!!!」
子供のような声が聞こえてまた笑い声が漏れた。

「それは俺のだ」
「えー、もう我慢できないよ…」
食べちゃダメ?と上目遣いで聞かれてキュンと心臓が鳴った。
自分よりでかい男に思うことではないかもしれないが可愛い。

「待つなら卵トロトロにしてやる」
優一がそう言うとええ、と言いながら正樹はうーんと言いながら悩んでいる。
そんなに悩むことか?

正樹がどちらを食べるにしろもう一つは必要なのでケチャップライスから作り出した。
結局、正樹は我慢できずに優一用に作っておいたオムライスを食べようとしている。

優一は硬めの卵の方が好きだが正樹がもう一つ食べると言い出しそうなので念のため、トロトロの卵で作る。
自分はとことん正樹に甘い。

「じゃあ、俺もトロトロで」
この場にいてはいけない男の声が聞こえて振り返った。
オムライスを頬に詰めている正樹の横には奏多が座っている。

どうやって入ってきたんだ。鍵は閉めて……さっき開けたままにしたんだった。
ドアの前にいなかったのにタイミングが悪い。

「出てけ。お前にやるご飯はない」
「ヤダ。食べさせてくれるまで動かない」
今すぐ引き摺り出したいところだが、βよりとはいえΩの優一の力では奏多を無理やり動かすのは無理だった。

優一より背が高い正樹には頼もうかと考えたが辞めた。
正樹を巻き込みたくない。

「こんにちはー」
空気の読まない軽い挨拶を奏多にする正樹を睨んだ。
「こんにちは。そのオムライスくれない?お腹すいて死にそうなんだ」
「何言ってんだお前」
挨拶してすぐに人のものを奪おうとする奏多を優一が止める。

「死ぬのは嫌っすね。でもこれあげたら優一さん口聞いてくれなくなりそう」
正樹と奏多の二つの視線が優一に突き刺さってため息をついた。

どうしてこんなことに。
優一が追い出そうとしているのになにも奏多に話しかけなくていいのに、と何も悪くない正樹を恨んでしまう。

「もう一度言ってやる。お前に食べさせるご飯はない」
「えー、死んじゃうよーゆうちゃんー」
「ゆうちゃんって呼ぶな!」
甘えた声で机に突っ伏す奏多を見ていると気持ちがグラグラと揺れてしまう。

正樹がお構いなしにオムライスを食べているとグゥっと大きい音が聞こえて三人の視線が奏多のお腹に集まった。

「ブッ、クク」
顔を真っ赤にしてお腹を抑える奏多が面白すぎる。
こんな奏多、見たことなくて笑っちゃいけないのに我慢できなかった。

「笑わないでよ…昨日の朝から何も食べてないんだから仕方ないじゃん…」
「優一さん、食べさせてやったら…?」
正樹の援護も今は馬鹿にされているように感じたのか奏多がじろっと睨んだ。

しょうがない。
と、今作っていたトロトロオムライスを奏多の前に置いてやる。
「これっきりだぞ」
返事をしない奏多にお皿を遠ぞけてもう一度いう。
「分かったな」
「……はーい」
本当に分かっているのかどうかは分からないがまた鳴っているお腹が可哀想すぎてお皿とスプーンを奏多に渡した。


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