婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび

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いつもと同じように野菜たちを発送し、スーパーに行ってから“幸”にご飯を食べにきた。
「何でお前がここにいるんだ…」
目の前にはニコニコとテーブル席に座っている奏多がいる。

「お連れ様ですね。あちらの席へお願いします」
今日も無愛想な女将に誘導されたのは奏多のいる席だ。
断ろう、と店内を見まわしてみたが空いている席がない。

入り口から動かない優一に困った顔をする女将に奏多の席へ座らざるを得なくなりため息をついた。

「ゆうちゃん!何食べる?」
話しかけてくる奏多を睨み、お前とは口を聞かないと向かいに座った正樹に話しかける。
「正樹は?」
「とんかつで!優一さんは何にするの?」
季節の定食はこの前食べたばかりなので何にするか迷って本日のオススメ!と黒板に書いてある鯛の煮付け注文した。

「ゆうちゃんは魚が好きなんだね」
懲りずに話しかけてくる奏多を無視して店にあるテレビを見る。
そういえば理事長のニュースを見たのもここだった。

結局、どうなったのだろう。
奏多がきたことでそっちに意識をやられて忘れていた。

奏多は自分がやったと言っていたし詳しく聞きたい。
チラッと奏多に目をやるとニコニコしながら優一を見ていて何故かイラッとする。

あんなことしてごめん、と一言でも言ってくれれば自分も…いやいや。
謝られたところで過去は変わらない!

「なぁ、正樹。ゆうちゃんが話しかけても無視するんだけど。酷いと思わない?」
「え、っーと。酷い、のかな?」
いつも間に挟まれている正樹には申し訳ないと思っている。

そういえば正樹にはニュースが流れた時、知り合いじゃないと言ってしまったんだと今思い出した。
知り合いじゃないはずの奏多を優一がわざと無視したりしているのはおかしいと感じているはずだ。

それにしては何も聞いてこないな…と考えて正樹と理事長の関係を知らなくても無理はないな、と思い当たる。

「何で奏多さんはここにいるんですか?」
正樹が奏多に聞いてくれたことに拍手を送りたい。
昨日、断ったはずだ。
それなのにこいつは…と眉間に皺を寄せて不快感を表すが優一のそんな反応さえも奏多は嬉しそうにする。

「一緒に行くのは断られたからお腹すいたから食べにきただけ」
してやったりと優一を見てくる奏多が憎らしい。
「席が空いたら移動させてもらおう」
「えーお店の迷惑になるよ」
優一が正樹に話しかけているのにそんなことを言ってくる奏多に頬がピクリと動く。

「うるさい。話しかけるな。こんなのただの相席だろ?知らない人でもするさ」
「せっかく相席したんなら仲良くならないとね」
「ならない」
「なるよ」
奏多と目があって見つめ合うような形になり慌てて逸らした。
こうやって奏多に乗せられて話してしまうから嫌なんだ。
奏多の一挙一動が気になって気に触る。

「ハンバーグ定食です。こちらはとんかつ…」
女将が入ってきてくれてハァ、と息を吐いた。
落ち着け。斜め前に座っている男は知らない人なのだと言い聞かせる。

「うまそう」
奏多が運ばれてきたハンバーグに目を輝かせるのを見て心臓がズキっと痛む。
昔の奏多の面影が見えると冷たくしている自分が悪いことをしているような気持ちになる。

「いただきます」
奏多が食べる姿は定食屋だというのに高級レストランが見えるほど品がいい。
理事長は奏多が幼い頃からマナーに厳しかった。
一つでもダメなところがあると手の甲を棒で打たれていくつものミミズ腫れが出来ていた。

大丈夫かと泣きそうな顔で心配する優一とは対象に打たれた本人はいつも笑っていた。
「見た目だけで全然痛くないよ」
と言っていたが痛くないわけがない。
今なら分かるがあれは優一を心配させないように振る舞っていたのだ。

「食べないの?」
正樹から聞かれてハッと意識が戻ってくる。
さっきまで笑っていた奏多は無表情で優一を見ていた。

今、奏多は何を考えているのだろう。
優一を絶対に守ると言ってくれた幼少期とΩを周りに置いて優一冷たくした高校生の時、そして今の明るく話しかけてくる奏多とどれが本当なのか。

「いただきます」
優一が食べはじめると奏多も食べるのを再開した。
奏多の視線が無くなり優一は奏多を見てしまう。
学校の生徒の中にいてもすぐに見つけられた。
関係ない。と言う今でも優一の目は気付けば奏多を追いかける。














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