離別から始まるシェフと勇者の物語【旧:異世界転移してきた勇者にパーティを追放されたのでシェフになります】

名無し@無名

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閉幕

 
 ▪️鎮火と食欲


 煤けた臭いが鼻先をくすぐる。
 他にも草や土の匂いが混じり、徐々に暗転した視界から現実に引き上げられる感覚に浸る。

「…………ん」

 ぼやけた視界には夕陽が差し込み微睡を鮮明なものへと変えていく。
 ロッドとの腕試し、白髪の少女の襲来とめまぐるしく変わった状況から数時間は過ぎたらしい。
 意識がハッキリと戻ったオルクスは気怠さを押し殺して身体を起こすと、なんとも不思議な光景が飛び込んできた。

「む……起きたかオルクス」
「え、ウソ起きたの!? あーよかったあ!」
「……俺は、気絶していたのか」
「そうだ。あれだけの力を使ったんだ、無理もない」
「オルクスのお陰で私達は助かったんだから。ありがとね」
「…………」

 感謝を述べるエドナの後ろで、ゆるいウェーブのかかった髪が揺れる。

「……お前、その怪我はーーーー」
「あ? ふざけんなよ」

 まさか俺の技で?
 そう問い掛けようとしたが、即座に違うものだと判断した。どう見ても怪我の大半がタンコブらしき膨らみであり、頬は張り手の跡が赤々と残されていた。

「ロッド」

 エドナのドスの効いた声が響く。

「…………」
「?」
「コノタビハ、ゴメイワクヲオカケシテ、モウシワケゴザイマセン」
「……これは?」

 ぎごちない口調のロッドに対し、怪訝さを通り越して不気味ささえ覚えた。先程まで戦闘狂に近い暴走をしていた筈の男が、今ではすっかり牙を抜かれた小型犬に等しい。
 一変した男の様子に驚かされつつも、オルクスはエドナとガルドに状況の説明を求めた。

「まあその……なんだ。ウチの恒例である躾というか、折檻というか」
「ふん!」

 エドナは氷を纏わされた拳をブンブン振り回しながら鼻息を荒くしている。言わずもがな十中八九、彼女によるものだろう。

「今回のはよく分からない事も多いけど、うちの馬鹿が全面的に悪いわ。だから私達も貴方の望んだ筋を通すーーーー」

 彼女の膝の上で寝息を立てる白髪の少女。
 身体を覆っていた外殻は既に失われており、裸体を晒さぬようエドナの上着が掛けられていた。

「こうして見るとただの女の子よね」
「けっ、毛も生え揃って無さそうな餓鬼じゃーーーー」
「【アイシクルブロウ】!」
「ぶふッ!?」
「話を戻すわ」
「あ、ああ」

 ロッドが意識を失うほどの冷凍パンチをお見舞いすると、エドナは衝突が起こってからの出来事を語り始めた。

 オルクスとロッドがぶつかり合った結果、辺り一面は激しい炎に包み込まれたという。
 本来なら身体を焼き尽くす筈の業火だが、オルクスの炎はロッドの炎を余す所なく呑み込んだ。炎を喰らう炎。それは白き輝きで争いを収める結果を齎した。

「そしてこの子……魔王みたいなこの子も、まるで憑き物が取れた様に眠りについたのよ。こうして見るとただの人間の女の子ね」
「……聞こえたんだ」
「聞こえた?」
「ああ。刃を交えた瞬間、絞り出す様な声で……“お腹空いた”と」
「じゃあこの子は空腹を訴えていたという事か?」とガルドは首を傾げる。

 極限までの空腹状態。
 獣であれば手負の状況と同じく獰猛性を増すだろう。生物としての本能、あの姿はまるで食への渇望が具現化したものだと言っていい。

「……それでね、これを見て欲しいの」

 エドナは指を鳴らすと、少女の頭上に黒いボードが出現した。

「魔術師のスキルには対象のスキルボードを覗き見れるものがあるの。趣味が悪いから好きじゃないけど……」

 現れたスキルボードは明らかに異質だった。
 本来なら半透明だが、少女から現れたスキルボードは真っ黒に染まっていた。
 ボード上には職業が羅列されておらず、そこにはポツリと赤字で【魔王】と刻み込まれている。

「魔王……だと?」
「ええ、しかもランクを見て。今は“ランク1”となっているけれど、さっきまでは“ランク60”を超えていたのよ。それと同時にあの外殻も無くなっているし」
「つまり、ランクの変動によって姿が変わった?」
「憶測の域を出ないけれどね。でも驚くことばかり、魔王もそうだけどロッドの暴走でしょ? それに貴方の能力だってね」
「……俺は料理人だ」

 寝息を立てる少女を一瞥し、オルクスは海岸近くに見えるクルーアルシュリンプに歩み寄った。

「ーーーー腹が減っているヤツがいるなら、俺はこの腕を振るうだけだ」
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