38 / 56
魔王として
「さあ、まずは食べてくれ」
莉緒達の目の前に繰り広げられたのは大量の料理だった。
あれだけの戦闘の後だというのに一体どこからこれだけの料理が現れたのか。
ロッドをはじめ、エドナも目を丸くして言葉を失っている。しかしオルクスとガルドはお構いなしに食事の準備を進めていた。
「クルーアルシュリンプはボイルしたものと焼いたものを使っている。その他はガルドが買ってきてくれた香辛料などでーーーー」
「ああ、それに良い肉も手に入った。程よく塩漬けにしてあったから燻製にしてみたぞ」
「それとこっちの魚は焼きと刺身だ。鮮度が高いから抜群に美味いぞ」
「……な、なんというか」
「圧がスゴイんだよ、圧が」
オルクスは言わずもがな、ガルドも料理になると職人気質になる傾向にあったらしい。ここにきてオルクスと同調した結果、己の拘りに対する歯止めというものを失っている様にも見える。
元々ロッドとは論理的な話をしないガルド。趣味思考が違う二人は仲間であれど、ガルドのこの様なテンションを見るのは極めて稀である。
ともなれば、己のポテンシャルを最大限に活かせる状況で輝かない訳にはいかない。
密かに街による度に書き留めていたレシピ。それを解放するのに僅かな躊躇も無かった。
「さあ!」
「食べてくれ!」
「お、おうよ……」
二人に急かされてロッド達は焚き火の周りに腰を下ろした。
テーブル代わりに地面に敷かれた大きな葉っぱの上にはこれでもかという大量の料理の数々。五人で食べ切るにはキツイのでは? というエドナの疑問を打ち砕く様に、隣では莉緒の腹がクウウと鳴った。
「……すごく、おいしそう」
「ああ、どんどん食べてくれ!」
爛々とするオルクスとガルドの視線を受け、莉緒は大きくゆっくり頷くと、目の前にある自分の顔程の大きさのパンを手に取った。
「……これは?」
「クルーアルシュリンプのバーガーだ」
バンズの隙間を見れば大ぶりのクルーアルシュリンプ。一口大に切り分けられ、香ばしいオイル漬けにされたものが挟まれていた。
他にも酸味の効いた香りーーーーオーロラソースだろうか。後はそれを受け止めるレタスやトマトなどが顔を覗かせている。風味豊かな香りも相まって、食欲の根幹を遠慮なしに刺激してくる。
「大口でガブリといってくれ」
「う、ん」
オルクスに促され莉緒は最大限まで口を開いた。
最大と言ってもバンズの上下にギリギリ到達するかどうか。それでも、莉緒は何とかクルーアルシュリンプまで届かせようと必死に齧り付いた。
「!?」
噛んだ瞬間、まずは炙ったバンズの香ばしさが先行する。表面はカリッとしたファーストバイトから始まり、やがて訪れるクルーアルシュリンプのぶりっとした身の食感。
歯を跳ね返すほどの弾力、そこから溢れるのはジューシーな魚介のエキスだ。後から来る芳醇な海鮮のパンチの効いた塩味と辛味にガツンと頭を揺らされる。
「うめぇ! これ……辛いのなんだ?」
いつの間にか隣で同じものを頬張っていたロッドも驚きの声を上げた。
「市場で見つけたんだよ。【サラマンダーハーブ】の若芽だ」
「さらまんだーはーぶ?」
「火山地帯に自生する香草の一種だ。その辛さはまさにサラマンダーの如く一瞬で駆け抜ける、その様子から名前が付けられた」
「た、確かにもう辛くねえが……もう一口行きたくなるなコレ! 辛え! 美味え!」
「莉緒には少し辛かったか? 少し量を減らしてみたんだが……」
「ううん……とっても、おい……し、い」
言いつつ、莉緒の赤い瞳からはボロボロと涙が溢れだした。
突然の出来事にオルクスとガルドを始め、ロッド達まで驚きを露わにした。
「おいオルクス! やっぱり辛かったんじゃねえのか!」
「いや流石にそこまではーーーー」
「ちがうの……違う、から」
袖で涙を拭い、改めてバーガーに口を付ける。
齧り、味わい、咀嚼し、飲み込む。
一連の動作をひたすら繰り返し、やがて半分ほど食べ終わると、涙で濡れた顔を上げた。
「おいしい……すごく、おいしい」
「……莉緒?」
「わたし、自分の事がよく分からないの。でも……ずっと、孤独で、お腹を空かせていた気がする」
ぐしゃぐしゃになった顔のまま、莉緒は自分の出来る限りを口にした。言葉と同時に薄らと記憶が蘇ってきたのだろう。語気に力強さが加わる。
「お腹空いて、でも食べるものなくて、寂しくて、誰も助けてくれなかった……死にたく無い……でも、どうにも、出来なかった」
「…………」
「多分、わたしは……自分の世界では、死んだんだと思う」
「なに?」
「……こうして、別の世界に来て感じたけれど、自分という存在が希薄で、空っぽなの」
状況が理解出来ないロッドを他所に、オルクスは楓矢のケースを踏まえてとある仮説を立てた。
「まさか、死んだ魂を何者かがこの世界に呼び出し魔王として生を与えたと?」
「……う、ん。上手く言えないけど、たぶんそう」
「…………」
自らを抱きしめる莉緒。
失ったからこそ気付く、食べる事、生きる事への執着心。噛み締めて嚥下して感じた生きているという実感。
これが虚無だと思いたく無い。
相反する思いが、莉緒の根底に根付いていた残酷な現実を思い出させたのだ。
「わたしは……この世界にとって、悪い存在なんだよね? 生きてちゃ、ダメな存在」
ふらりと立ち上がり自らの両手を眺める。
食事をして力が戻ったのか、その両手には薄らと黒い瘴気が纏わりついていた。
「わたしは魔王……いずれはこの世界を喰らうーーーー」
「莉緒!!」
朧げな言葉を断ち切り、オルクスが叫んだ。
(なんだこの感覚は……この状況、どこかでーーーー)
自分の意思が追いつかないまま、オルクスは莉緒の手を取った。瘴気に触れた刹那、激しい痛みがオルクスを襲う。
「うああああ!?」
「オルクス!」
「くッ……俺はーーーー」
溢れた言葉はオルクスのものだったのかは定かでは無い。だがハッキリと、確かに口にしていた。
「もう……“お前達を失いたくないんだ”」
あなたにおすすめの小説
異世界のんびり放浪記
立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。
冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。
よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。
小説家になろうにも投稿しています。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。
命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。
自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。