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ルルベル家-1
▪️ディノル城内
リナリー・ルルベルは足早に客間へと向かった。
騎士団が半壊し隊長の意識も戻らない今、残された隊の指揮を取るのが自分の役目である。
そもそも若い二人を差し引いても適任がいるのでは? となるだろうが、確かにカルロスやリナリー以外にも中堅以上の騎士は存在している。しかし現在のディノルという国家は家柄によって地位が左右され、貴族の生まれの者を上層部に据える傾向が強かった。
マークハイド家、ルルベル家も例に漏れず、共に歴代の騎士団を率いてきた血統であり、彼らの親も数々の偉業を残してきた。カルロス達も若くして実力を持っているともなれば、実力だけの中堅騎士とは血統の差により一線を画す存在と言えるだろう。
リナリーからすればそんなものはどうでも良かった。生まれた瞬間から騎士になる道しか選択肢が無く、ただ引かれたレールの上を進むだけの人生。
自分の意思が無いまま生きてきた二十三年間は、幼い頃に兄が居なければ成り立たなかったと言っても過言では無い。
そんな兄の手掛かりを持つ人物とようやくコンタクトが取れるのだ。騎士団の仕事も山ほどあるが、この瞬間を逃してはいけない。藁にもすがる思いでリナリーは客間を目指した。
「失礼するよ」
客間のドアを開けると、そこには青髪に黒のコックコートを纏った青年、及び長い白髪と赤い瞳の少女がソファに座っている。
少女は美味しそうにクッキーを頬張っており、何処となく小動物を彷彿とさせた。
「君達がプレジールの冒険者……でいいんだよね?」
「初めましてリナリーさん。俺はオルクス・フェルゼンです。こっちは……リオと呼んでください」
呼びつけた挙句、年下に先に自己紹介させてしまいリナリーはハッとなった。咳払いをひとつ挟み、自らも剣を胸の前に掲げで名乗った。
「これは失礼した。私はリナリー・ルルベルだ。こう見えて副団長を努めている」
と、言った矢先に表情を緩めると。
「堅苦しい挨拶はここまで。よろしくねオルクスくん、リオちゃん」
「はあ」
「よろ、しく」
コロっと雰囲気を変えるリナリーに対しオルクスはやや呆気に取られた。女性なのは分かっていたが、男にも負けない屈強な体躯の持ち主だとばかり思っていたからだ。しかし蓋を開ければ剣など握った事もない様な美しい女性である。
半信半疑のまま、外見で判断してはいけないと自分に言い聞かせて話の続きを待った。
「手紙を読んでくれたと言う事は、大凡の話は理解してもらえたと考えて大丈夫かな?」
「……はい。クラウディオさんにはかつてお世話になりました。今の俺があるのはクラウディオさんのお陰です」
「……そっか、兄さんが」
嬉しい反面、どこか複雑な心境だった。
「手紙にも書いたけど、私と兄は腹違いの兄妹なんだよね。父親は二人とも人間で、兄の母はエルフで私の母は人間なの」
ほら、普通でしょ? と自らの耳を見せた。
「ハーフエルフってだけで周りからは嫌われちゃってね。私はそんなの関係なく大好きな兄だったのだけれど、昔、兄の母親が殺されてしまった。父が再婚して私が生まれて、十歳になる前には家を出て行ったの。また自分のせいで迷惑を掛けるといけないからって」
「……そこからプレジールに来たという訳ですか?」
「そうみたいね。やはり今よりエルフやハーフエルフに理解が少なかった時代だからさ。きっと人間であってもハーフエルフと関わりを持つのを良しとしないんだよ。何よりうちの家柄のせいでもある」
リナリーの表情が曇った。
「うちは騎士の名家、貴族の出身なの。当然だけど父も騎士だったんだけど、とある街が魔物に襲われた際、単騎で救援に向かったんだ。そこから全ては始まったーーーー」
そう前置き、リナリーはかつての父の話を続ける。
救援に向かったリナリーの父、ドラウディオ・ルルベルはそこで一人の女性と出会った。
魔物に襲われ全身ボロボロになったひとりのエルフ、名はクリスという。
ドラウディオは魔族に対する差別意識を持たず、何の躊躇いも無く残された魔物を屠るとクリスを助けた。幸い、命に別状は無かったが、他の住民はすでに息絶えていた。
そしてドラウディオは愕然とした。この街はエルフの集落であり、そこに魔物を引き込んだのは心無い人間の仕業だという。
すぐに情報を国に持ち帰ろうとしたが、クリスはそれを頑なに拒んだ。ボロボロになりながらも自分がエルフだから悪いのだと強く懇願したのだ。
それを見たドラウディオは固く歯を駆使張り、今の世界の在り方に疑念を抱きつつ、クリスを保護する事となる。
現在のルルベル家はドラウディオの両親が既に他界し、当主はドラウディオが務めていた。
ドラウディオは屋敷にクリスを匿い、使用人達には他言せぬよう緘口令(かんこうれい)を敷いた。幸い屋敷の者はドラウディオの意志を尊重し、クリスを快く招き入れた。
常日頃から人格者として慕われていた彼の人柄だろう。集まる人間もまた、彼に近しい者達ばかりだった。
クリスはそこで傷を癒やし、順調に回復すると元の元気な姿を取り戻した。
順風満帆な生活が続き、いつしか彼女は屋敷にとって無くてはならない存在となっていく。やがてドラウディオはクリスに惹かれ、クリスもまたドラウディオに惹かれた。
やがてクリスは彼の子を身籠り、クラウディオと名付けられた。当然、クラウディオはエルフの血を引いておりハーフエルフなのだが、ドラウディオにとってそれは些細な事であった。
ドラウディオは幼い頃からクラウディオを愛し、自分の持てる全てを彼に与えるつもりだった。しかし、それを実現させる為には幾つもの壁が存在する。
ルルベル家からハーフエルフが排出されるともなれば前代未聞、国が許す訳がない。
ドラウディオはそもそもの迫害意識の根管を正そうと策を練っていたが、そんな折り、一人のメイドが屋敷に奉公へ来たのだ。
彼女の名はナタリー・ジルベール。
「そう、ナタリーこそが私の母親で、そこから全てが壊れた」
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